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第1章-第8話 しもがかげき

お読み頂きましてありがとうございます。

「や・・・っ。」


 ざっばーん。


 どっぼーん。


 女湯側と東側の通路の境目に居た那須くんに後ろから声を掛けたら、突然立ち上がり、こちら側にひっくり返ってしまう。何を焦っているんだか。


「けほっ。けほっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・社長っすか・・・・・。」


 もちろん俺は横に瞬時に避けたのでモロ頭から東側の湯船に突っ込み、鼻から湯が入ってしまったようだ。


「何を焦っているんだい?」


「心臓が止まるかと・・・。いやいやいや・・やましいことなんて何も・・・。」


 それはやましいことを考えていたと白状したも同然なのでは、と思ったが口には出さない。


「ダメだよ。こんなところでワニ待ちなんかしちゃあ。それでお目当ての子は居たのかい?」


「いや・・・それが・・・その・・・・・・・・・・・・・・っ。違うんです。なんかドキドキしちゃって出るに出れなくてですね。」


 凄い間が空いたな。取って付けたような言い回しだ。必死に言い訳を考えたのだろう。


「混浴初心者じゃあるまいし。何度か荻尚子さんたちと入ったらしいじゃないか。」


 1年に及ぶ荻尚子の謹慎期間中、律儀にフォローしていたらしい。当人によれば青春を謳歌出来たとオッサン臭いことを言って喜んでいたがな。


「それとこれとは・・・本当に・・・・違うんです。違うんです距離感がですね。遠くから見てるだけで何でこんなにドキドキするんですかね。」


 なるほど。随分オモチャにされていたらしいからな。間近で見る熟女の裸と離れて見るトランスジェンダーの裸じゃ違うらしい。


 確かにムキムキの筋肉を誇示するFTMの小さいオジサンの下半身とか、こちらも改造済の上半身を誇示するMTFさんとかある意味ドキドキするかもしれない。


 もちろん中には全身改造済のMTFさんも居るが湯につかっている。乳白色の湯に隠れて何も見えないが逆にそれがそそるという考えなのかもしれない。


 男の娘のトモヒロくんを慕う那須くんはその全てが対象なのかもしれないが射程範囲が広いというかなんというか。


「トモヒロくん! こっちだ。」


 トランスジェンダーグループのリーダーであるトモヒロくんは皆に慕われているらしく。湯船の中央付近で取り囲まれ揉みくちゃにされていた。


 あれもモテるというのかねえ。顔がひきつっているところをみるとやっぱりトモヒロくんは女性が好きなんだな。那須くんには悪いが退場して貰うしかないようだ。


 俺が声を掛けたところ、やっとこちらに気付いたらしい。


「チヒロさ・・・ん。」


 立ち上がっていた那須くんが真っ赤な顔をしてしゃがみ込んだ。トモヒロくんの生まれたままの姿を見てがっかりするシーンのはずなのに、別の感情が渦巻いているみたいだ。


 マジまさか本気で恋・・・。これは手に負えなさそうだ。


「トモくんったら待ってよ。・・・あっ、山田社長。」


 1人の女性がトモヒロくんに後ろから抱きついた。


「やあ志保さん。」


 井筒志保さんことスターグループのオーナー夫人だ。トモヒロくん以外のグループのメンバーの大半はスターグループの九星芸能に所属している。


 今回の合宿は休暇も兼ねていてグループのメンバーの家族や親しい友人も連れてきて良いことになっているのだが、彼女はスターグループのオーナー夫人という位置付けではなくトモヒロくんの友人枠に入っていた。


 トモヒロくんの女優業での師匠でもある彼女だがそれにしては随分親しげだ。スキャンダルにさえならなければプライベートだから放置すべきなんだろうが、彼女の場合スキャンダルになるケースが多すぎる。一言注意すべきだろうか悩むところだ。


「今日はお招き頂きありがとうございます。」


 肝心な部分はトモヒロくんの身体で隠れているとはいえ、裸を見られても平気そうだ。『西九条れいな』主演の映画では惜しみなくその裸体を晒しているシーンも多いから平気になったのかもしれないが、昔の彼女を知っている俺としては複雑だ。


「や・やめてよ。もうっ。」


 ド・ドボン。


 余程密着していたらしくトモヒロくんが真っ赤になって志保さんごと湯船に沈む。


「君たちは仲が良いなあ。アイドルなんだからスキャンダルは勘弁してくれよ。」


 今は知られて居ないが実業家としてのトモヒロくんは着々と実績を残してきている。マスコミからスキャンダルのターゲットにされてもおかしくはない。


 それにトランスジェンダーグループとしてワンシーズンごとに巨大な利益を叩き出しているのだ。スキャンダルで喪失させるわけにはいかない。


「志保さんとなんて・・・弄ばれたくないのでそれは絶対に無いです。この人と関係を持ったら一生からかわれるに決まってるもの。今抱き付いてきた件でも後で絶対に言いますよ。・・・だから胸を揉まないでっ・・・だからって、先を触るのも・・・ヤメテっ。」


 トモヒロくんの反応が楽しいのか志保さんはニヤニヤと笑いながら乳白色の湯の中で過激な行動に出ているらしい。どうしたらいいんだこれ。




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