第1章-第4話 かいじゅう
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「そうか。それは困ったな。」
大葉夏音の調査結果を渚佑子に報告させたところ、大きな問題が発生した。彼の持つスキルの1つ1つは大したことが無いレベルのスキルだったのだがその数が尋常では無かったのだ。渚佑子でも把握しきれない能力であるというのだ。
「はい。どのスキルも経験値不足の今ならば1対1で戦えば或いは倒せるかと。」
過去3度の異世界召喚で固定スキルはレベルアップしており、特に『鑑定』スキルの精度は相手を丸裸にできるだけの能力を持つ。その渚佑子でさえ相手を確実に抑制できるとは言い難いらしい。
「それは脅威だな。暴れれば渚佑子が止め、俺の『送還』魔法を使い、異世界へ送り込むくらいしか対処できそうにないか。これは懐柔するより他に手段は無さそうだな。彼が欲しい物が解ると良いんだが。」
相手を異世界に送り込む『送還』魔法はMPが満タン状態ならば連続使用可能なため、何らかの対抗策が相手にあったとしてもなんとかなる。しかし、相手を見る限り敵対してくる様子は無く。どちらかと言えば味方と言って良い『渋沢グループ』の関係者であることを鑑みると懐柔するのが一番適切と思われるのだ。
「ただ調べてみると大葉夏音という人物は何処にも存在しないということが解りました。それも過去に遡って全世界の文書を検索しても当てはまるものはみつかりませんでした。」
「それは彼が偽名を名乗っている・・・いやそれは無いな。君の『鑑定』スキルの前では無意味だ。」
「それに神から頂く固定スキルの名称が僅かに違っていました。ですから、この世界の神からあのスキルを貰った人間では無いことになります。」
「それはますます不確定要素が強いな。でも1つだけ解ることがある。」
「それはなんでしょう。」
「彼は戸籍を持っていないということだ。」
「ええそうですね。それが何か?」
「考えてもみろ。戸籍が無ければ結婚も就職も出来ない。今あるのは渋沢グループという伝手だけだ。これは男としてツライものがあるぞ。」
「そういうものですか?」
「どんなクズスキルであってもスキルを持ってない人間からすれば十分にチートな能力なんだ。合法非合法を問わなければ金を稼ぐ手段など幾らでもあるだろう。だが彼の様子からすると品行方正に近い生き方をしてきている。そんな人間が非合法な手段を積極的に使うとは思えない。そう考えると紫子さんに養って貰っている状況さえも不本意なんじゃないかな。」
『渋沢グループ』に取り入った手段というのも紫子さんの子供の誘拐事件の救出を手伝うという真っ当なものなのだ。
「しかし、戸籍を提供したとしても素直に受け取るでしょうか?」
「おそらく受け取ると思うが。最悪、受け取らざるを得なくする。」
「どういうことでしょうか?」
「今の彼は紫子さんの外孫と自称している。だから、その通りの戸籍を提供するのだ。それで過去に彼が吐いてきた嘘も帳消しになる。逆に受け取らなければ、大葉夏音という人物が別に居ることになり、詐称していることになってしまう。それは避けたいと思うはずだ。」
そこまで考えるかどうかは解らないが、拒否するようならば少しだけ臭わせればいいのだ。名前を取り上げられるという最悪の選択を取るとは思えない。
「相手の品行方正さを逆手に取るわけですか。凄く性格が悪いですね。でも逃げられませんか?」
ドSの渚佑子に性格が悪いなんて言われたくないぞ。
「誘拐事件のことがあった所為か。先方は高層マンションの一室の譲渡を打診してきている。紫子さんに事前に話を通しておけば逃げ道も塞げる。そのときに説明しておくよ。今の俺がどれだけの権力を持っているか。それを聞けば紫子さんも懐柔に動くさ。」
逃げるということは『渋沢グループ』からも離れるということだ。子供の命の恩人である彼を紫子さんが手放すはずも無いし、直系親族となる彼も紫子さんから逃げられないに違いない。
「しがらみが無ければ、しがらみを作ってしまえというわけですか。本当に厭らしい手段を思い付きますよね。」
厭らしいかどうかなんて表面上解らない。あくまで好意によるものとして提供しておけばいいのだ。まず疑われまい。
「そうか?」
「私ならブチ切れますね。」
「それば困るな。じゃあ渚佑子に懐柔策は使わないでおこう。」
「えっ・・・。どんなことを考えていたんですか?」
「さあな。」
天下無敵の怪獣のような渚佑子が欲しがるものならどんなものでも提供するしかない。銀河連邦の件が終われば全てを差し出しても構わないとは思っているが本人には言えないな。
「言ってくださいよ。」
「今はダメだ。銀河連邦の件が終わったら話してやるよ。」
この言葉を覚えていた渚佑子は銀河連邦の件が終わったあとに勇気を持って要求しますがそれはなんでしょうかねえ(笑)
その要求がかなえられたあと大失敗をしてしまい、どん底に落ち込むことになってしまいますが(笑)




