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第1章-第3話 おおばか

お読み頂きましてありがとうございます。

「あれは・・・。」


 『渋沢グループ』の当主である渋沢紫子(ゆかりこ)さんの49回目の誕生を祝うパーティー会場に入った。


「どうした渚佑子。」


 取引先の誕生日パーティーに呼ばれたときには男女に関係無く花束を用意していくのだが今回は失敗したかもしれない。いつも和装で現れる紫子さんを想定した色合いの花束を用意したのだが、今日に限って洋装それも胸元の開いたドレスを着ていたのである。


 しかもいつもは地味すぎるくらい清楚な雰囲気なのに身体を磨き上げ、10歳くらい若返って見える。まあそんなことは当人には言えないが。


「渋沢様の隣に居る男性は『勇者』のようです。」


 紫子さんに釘付けだった視線を隣に向けてみると確かに称号が『勇者』の男性が寄り添っていた。紫子さんの視線も彼の方にばかり向いていた。なるほど新しい彼氏が出来たんだな。


 彼女は随分前に夫と死に別れている。当時90歳だというから大往生といっても良い年齢だったはずだ。


 彼女の夫は当時日本を代表するファッションデザイナーとして有名だった島次郎氏で昭和から平成に掛けて『パリ・コレクション』で活躍されていたという。


 しかし晩年、世界各地25箇所の彼のブランドショップに現地妻や婚外子が居ることを暴露されると一気に凋落の一途を辿ることになる。それを救ったのが紫子さんで破綻寸前だった『島ブランド』を『渋沢グループ』に吸収、しかも彼に婚外子を積極的に認知させたことが世間に知られるようになると『島ブランド』が立ち直ったのだという。


 今では島次郎氏の弟子や子供たちが幾つものファッションブランドを立ち上げ、『渋沢グループ』の柱の一つとなっている。


「解った。念のため、指輪は『偽』にしておこう。渚佑子は離れた場所で彼をよく観察していてくれ。」


 いつも着けている指輪の片方を『偽』に変更し、一般人を装う。これで山田ホールディングス社長の山田取無でしかなくなるはずだ。


 渚佑子もスキルで偽装できるそうだが異世界に合わせた仕様のため、現代世界の人間に見えるような偽装はできないらしい。


「本日はおめでとうございます紫子さん。今日はいつにもましてお美しい。これは嫌がられても紫子お嬢様とお呼びしたほうがよろしいでしょうか。」


 基本的に社交界で女性と初めて出逢った場合、年下ならたとえ50代でも『お嬢様』、年上であれば『お姉様』と呼ぶことにしている。大抵は直ぐに名前呼びされたいとお願いされることになるので2回目以降も呼び続けることは無い。


 紫子さんも初めて逢ったときに訂正させられている。


「嫌だわ。今日は鈴江を連れていらっしゃらないのね。」


 紫子さんは元妻の親しい友人だったらしく結婚式にも出席して貰っている。社交界でお会いしたときも妻のなつきが産休中で元妻にパートナーをお願いしたときに向こうの方から声を掛けてくだり、それ以来親しくお付き合いさせて頂いている。


「ええ。あいつは今頃『ハロウズ・ジャパン』の代表取締役社長としてイギリスでの決算報告に立ち会っているはずです。」


 会社名としてのヤオヘーは消滅したが一部地域に根強い人気があるため、『ヤオヘー』という看板は下ろせないでいる。その所為か未だに元オーナーとしての豪徳寺鈴江というブランドも生き残っているのが現状だ。


「もうそんな時期なのね。ヤオヘーを手放すと聞いたときは、どうなることやらと思ったけど、落ち着くところに落ち着いた感じね。奥様はお元気ですの?」


「ええ。無事2人目を出産しました。今回は産後の肥立ちも良くて丸々と太っていますよ。なのでパーティーは出たがらなくて困りものですがね。お隣のパートナーを紹介して頂けますか。」


 今回のパーティーもスケジュールが合えば元妻をパートナーとして連れてくるはずだった。


 本来、この規模の個人的なパーティーに参加することは滅多に無い。偶然スケジュールが空いていたと千代子さんは言っていたが作為を感じる。元妻と寄りを戻せとは直接言えないが仲良くさせるため、画策しているようなのだ。


 そのことを言及し、女性陣から総スカンを食らうのが嫌な俺は経営権を持つ『ハロウズ』にアルドバラン公爵家から働き掛け、執行役員トップの元妻にスケジュールをねじ込んだのだ。


 我ながら卑屈過ぎると思うが元妻との関係性を崩す方が心理的負担が大きいのだから仕方が無い。


「外孫の大葉くんです。こちら、例のヴァーチャルリアリティ空間の提唱者の山田トム氏よ。」


 孫というよりはツバメといった感じだがそこは言及しないでおこう。彼女と島次郎氏との子供は20代と聞いているので現地妻の孫だろう。血の繋がりは無いが子供は全て認知されているはずなので戸籍上は直系親族だ。


「大葉夏音(かのん)です。凄いですヴァーチャルリアリティ空間。何といっても6倍の時間が使えるのは画期的です。」


 カノンというキラキラネームにも取れるが『大馬鹿』のインパクトには負ける。何を思って親は名付けたんだか。


「ありがとう。紫子さんの孫ということであれば優先登録枠を提供しよう。是非とも活用してくれたまえ。」


 富裕層を中心に導入が進んできたヴァーチャルリアリティ時空間だが、世界的にその裾野は企業や中流家庭まで広がってきており、ヴァーチャルリアリティ社による登録作業は追いついていない段階だ。もちろん日本での優先順位は山田ホールディングスグループ・Ziphoneグループ・蓉芙グループの企業及び従業員優先で余った枠を他社に割り当てている。


 資本提携を行ったことで余力が出来次第、渋沢グループにも優先枠が割り当てられる予定になっている。それとは別に俺個人の優先枠もあるので、それを融通しようというわけだ。


 彼の文書化された情報は渚佑子の『知識』スキルで引き出せるだろうがヴァーチャルリアリティ社の登録時にはDNA情報も必要なのである。


 これは機密事項だが月に墜落していたUFOには宇宙人の遺体も残っていた。それによると宇宙人は地球人と似通った構造だがDNAレベルでは現代人と原始人ほど違いがあることが解っている。このDNAの違いを利用して地球に滞在している宇宙人をあぶり出す仕組みを密に開発しているところである。


 今のところ『勇者』は地球にしか居ないと思われるが万が一ということもある。この若者の情報は一滴たりとも見逃すべきじゃないと俺の勘がつげているのだ。

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