第1章-第2話 ばいばい
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実際にはここ数年を掛けて、関連企業や従業員にはピコキャッシュからの脱却を図って貰っている。
元々俺は投機的要素の強いピコキャッシュは一切手を出していない。だがその暗号化マネーの魅力には興味を抱いていたのだ。渚佑子の『知識』スキルによると同様の仕組みは銀河連邦にも導入されているらしく互換性は無いものの相互運用が可能な作りにしてある。
つまり暗号化理論については銀河連邦が公開している技術を使用しているので、地球の技術では絶対復号化が不可能で不正を働けない。
この記者会見の後、ピコキャッシュは乱高下を繰り返している。大手投資家が操作している疑惑もあり、捜査を開始したとの情報も流れており、短期資金しか持たない投資家ほど大損を繰り返す羽目になっているようである。
実際にアメリカ上院と下院議会が地球連邦通貨を承認したとの情報が回ってからが凄い値動きとなっている。アメリカ議会が簡単に承認したのには訳がある。アメリカ宇宙軍や月基地の経費負担や月基地からの電力供給による一時的な建て替え、スペースコロニーのアメリカ軍やNASAによる実証実験の経費など、国家予算を圧迫しだしたことがあげられる。
元々そうなることは俺もアメリカ大統領も解っていた。だから、これらの経費を地球規模の経費として計上することで地球連邦通貨発行という切り札を使ったとも言える。
当分は固定相場制だが3年後を目処に変動相場制に移行する予定だ。変動相場制移行後に各国通貨の価値が下落すると言われているため、流入量は鰻登りだ。
実はここ20年の間にドルが世界通貨としての役割を終えるというのは中国元の台頭により決定済で、代替えの通貨を探していたとも言える状況だったのだ。もちろん通貨の発行により、中国などの常任理事国にも金が流れることで労力である軍を差し出す必要があるという良い循環の始まりでもある。
既に宇宙船に関する情報は着々と常任理事国間で共有されており、その高度な技術力から協力しようという気運が生まれてきているようである。
「つまり私たちの給料も地球連邦通貨の仮想暗号化マネーであるアースコインで支払われるということですか?」
かなり重大な事項を含むため、事前に取締役と共に従業員の代表を呼んで意見を聞いているところだ。もちろんこの場に来れない従業員の意見もSNSを使った意見も同時中継している。
「そうだ。各国の通貨からアースコインへの入出金は銀行に払う手数料が掛かるが給料として入金する場合は無料だ。もちろん、何時でも経理に行けば各国通貨での払い出しも無料だ。アメリカにいる幸子なんか便利になると思うぞ。」
「まあ便利なのはいいんですけど、ヴァーチャルリアリティ空間のショッピングモールって生活必需品と高級ブティックばかりだし、あまり買いたいものが無いんですよね。なんでもあるヴァーチャルリアリティと言えども食事は出来ないですよね。」
「はは食事はグループ内のレストランチェーンをアースコインで利用して貰うとして、暫定的にヴァーチャルリアリティ空間からインターネットのショッピングモールを利用して貰うつもりだ。」
現実世界での利用はヴァーチャルリアリティ空間のゲストOSへスマートフォンが指示を行い、ゲストOS同士でアースコインをやり取りする。あくまで全てのアースコインはヴァーチャルリアリティ空間の中にあるため、アースコインの健全性も抜き打ちでチェックすることで保証できるのだ。
「それはいいですね。インターネットのショッピングモールって以外と時間が掛かりますもんね。でももっと魅力的な商品がショッピングモールにあるといいんですけど。」
「今、提案できるのは『渋沢グループ』がヴァーチャルリアリティ空間のショッピングモールに参入することになっていることだ。今進めている資本提携が実現すれば参入スピードは加速するはずだ。」
これに追随するかのように問い合わせが殺到している。
「えっ。良質で安価で有名な『5COINS』や実店舗販売にこだわり人気があるアパレルブランドを多く抱える『渋沢グループ』ですか?」
渋沢グループは戦前の渋沢財閥が戦後、第二勧銀を中心としたグループに発展した。実業を重きを置いたグループでインターネットが発展しつくした現代でも実店舗販売を中心としている。
「ああ口説き落とした。向こうに取ってもヴァーチャルリアリティ空間の中で従業員を雇用できる絶好の機会だしな。商品の3Dデータのヴァーチャルリアリティ空間への取り込みもこれまでのヴァーチャルリアリティ社独占から定型フォーマットに対応することにしたから、安価に参入可能になったはずだ。」
今までは高精度の3Dスキャナのデータを脳による補整をシミュレートした限界まで小さくしたサイズにしたものだったが解像度は少し荒いが一般の3Dスキャナの圧縮データを利用できるようにした。これにより、開発時に作成した3Dデータが使用出来るようになったので、殆どの商品をヴァーチャルリアリティ空間に持ち込むことが可能になった。
問題は既存のインターネットのショッピングサイトだ。これまで魅力的な商品を扱い、在庫を持たないことで競争を勝ち抜いてきたが人がモノを売るノウハウが全く無い。その分、実店舗販売ノウハウのある企業が有利でいずれインターネットのショッピングモールは淘汰されていくだろうと予想している。




