第6章-第48話 のろわれた
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「マイヤーが妊娠した時点では、トム殿を王族として公開しなければいけないからのう。」
そうぢゃん・・・・。なんで、そのことに気がつかないんだ俺は・・・。
・・・・・・・
ツトムは使い物にならないため、100Gショップは教会の子供達に任せた。
近衛師団の食堂に寄ると早速、モモエさんがお手伝いをしている。
ワイバーンの肉を裁くのは午後からになるらしい。俺は腐敗しない袋を渡し、使い方を教えた。なんと言っても、この世界には冷蔵庫がないからな。後宮と俺の店にはあるが・・・。
午後からの利水工事は、予定通り行われるらしい。俺は、マイヤーの案内で粘土の採掘場所に行き、今日使用するだけの大量の粘土を自分の空間に取り込む。
「それにしても、幾らでもはいりますね。」
「マイヤーでも、これくらいなら入るんじゃないのか?」
「そうですね。粘土は塊なので、一度容器に入れなおせば、なんとか入るでしょう。しかし、トムみたいに、周りの土砂も全部入れる芸当は無理です。」
そうなのだ。取り込んだ内容を確認するとまさにバラバラの内容になっていた。
俺は土砂のみを集積場所に取り出す。少しずつ取り出したつもりだったが、あわや自分まで土砂に埋もれてしまうところだった。気付いたマイヤーが風魔法で土砂を止めてくれなかったらと思うと、冷汗をかいた。
「少し危険ですね。私が『フライ』でトムを上空に運びますから、そこから取り出してください。」
上空で全ての土砂を取り出すと小さな山ができた。うーん、こんなに入っていたのか。
・・・・・・・
今日の作業は、溜め池作りである。少し離れたところに同じ大きさの池を2つ作り、片方だけ防水シートと防水セメントを使用する。いったいどれくらい差が出るのか。コストがそれに見合うものか判断しようということである。
まずは、別の場所に粘土を全て取り出す。念のためにマイヤーに『フライ』で上空に連れてきてもらい、少しずつ取り出していった。いささか面倒だな。
「俺も『フライ』が使えるといいんだが・・・。」
「私の仕事を取り上げるつもりですか!」
「いや、そんなつもりはないが・・・。」
「それとも、私にこうやって触れられるのが嫌なんですか?」
「いや、そんなことはない。」
「なら、私に仕事をさせてください。今度、教えてあげますけどね。私が居るときは私を頼ってください。今日の朝のような思いをするのは、もう御免ですからね。」
「ああ、すまんかった。だから、そんな顔をしてくれるな。」
いつもの強気な様子はなりを潜め、寂しそうな表情をするマイヤーをみて思わずそう言った。
・・・・・・・
溜め池の穴掘りはあっさり終わった。深さ30メートルで周囲を斜めに掘るだけである。既に底に粘土層があったが、さらに50センチほどの粘土層を構築する。そこは、現場の担当者の仕事である。
俺ができることといえば、粘土を底に運ぶくらい。平たく広げる仕事を眺めながら、防水セメントの使い方を担当者に教える。使い方と言っても水で溶くだけである。
粘土層の構築が終り、片方の底に防水シートを敷き詰め、周囲を防水セメントで固めるという作業を現場の担当者に一つ一つ指示しながら進める。
あとは、粘土と掘った土砂で周囲に土手を形成して終りだ。明日は、河川から水を取り込む用水路作りだ。
・・・・・・・
「ごくろう。随分進んだな。」
途中、セイヤが視察にやってきた。もちろん、右軍の中隊を護衛として連れてである。王族として動くのならば、これくらいが普通なのは解かっている。いざ目にしてみるととても俺の流儀ではない。たとえ暴走気味であろうとマイヤーと居るほうがマシだ。
「本当なら、ここまでの作業で2ヶ月以上掛かるのだがな。今まで王家にその能力が出たときは、必ず戦争に巻き込まれているので呪われた能力と言う輩もいるかもしれないが気にすることはない。これほど国にとって有用な能力はないのだから・・・。」
俺は現場の担当者に後を任せ、セイヤに同行する。セイヤは、いろいろと国づくりの構想を語り、いかにこの能力がすばらしいかを語ってくれた。扱き使う気満々のようである。
その時である。突然、狼が集団でやってきた。一気に緊迫する一同。あっという間に俺とセイヤは、護衛に守り固められる。
ただ狼達は疲弊しているようで、半分以上はケガを負っているようだ。
「マイヤー、話を聞いてこい!」
「はっ!」
俺は様子が気になり、指輪を遠方音が拾える『耳』に変えて、マイヤーと狼たちの話を聞き、逐一セイヤに聞かせていく。狼たちはエルフの里からみて北西にある狼王国の住人で、ある人族の国から攻められ、なんとか落ち延びてきたという。この国の北にある山に住む場所を貸してほしいらしい。
「トム殿お疲れのところ悪いが、この場所に簡易住居を作ろうと思う。マイヤーの案内で石材を切り出してきてもらえないだろうか。」
セイヤに言われる通り、石材を切り出し、この場所に細長く設置し、更に内部をくり貫く。だいたい10センチ単位くらいまで、亜空間を形成することができるようになってきた。
ものの1時間ほどで出来た簡易住居をみて、最初は若干の敵意も見せていた狼たちが従順になっていく。この行為が威嚇にもなっているのだ。セイヤはそこまで計算していたのだろう。
俺は腐敗しない袋に残してあった食料を彼らに提供した。たまねぎの入った牛丼でも大丈夫かと心配になったが、彼らは雑食なんだそうで文句は無さそうだった。
あとはテキパキとセイヤが指示を出していく。どうやら、この場所に右軍を駐留させて、彼らの監視と狼王国との斥候を勤めるらしい。アルム少尉たち駐留部隊と交代で、王宮に戻った。
・・・・・・・
王宮に戻ったその時、近衛師団の食堂からなんとも言えない香ばしい薫りが漂って・・・。
次回、かばやきの回です(笑)