第11章-第116話 おしつけたった
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「お金はいりません。便宜を図って貰えるのなら、鷹州会病院の経営を担って頂けませんか?」
ああ何処かで見た顔だと思ったが、亡くなった院長である鷹乃巣ミノリさんに紹介された孫の1人だった。医者との適性は無いが将来病院の経営を任せたいと言っていたのを思い出す。
「来月には傘下企業として取締役を送り込む予定だ。」
取締役の送り込みはあくまで形だけで経営主体は親族が担う。それが亡き院長の意向だったはずだ。
「母たちは医業に専念したいと何度か交渉させて頂いているのですが、とりあって貰えないと嘆いていました。」
院長の子供は4人居た。上場会社の15%ずつの株式を子供1人1人に持たせる予定だったのだが、1人息子が院長殺害により、権利を剥奪され宙に浮いた状態になっている。
40%の株式を持つ、山田ホールディングスが経営陣に加わり、改めて宙に浮いた15%の株式を残りの3人の娘たちに相続させる予定だったのだ。
1人息子は医業にも経営にも役に立つどころか害にしかならない人間だったが、娘たちは院長の真摯な医業の血を受け継いだらしい。
困ったな。
出来ることなら、便宜を図ってやりたいが、院長の遺志の件もある。
「そうだっ。君が我が社に入社すればいい。それならば、残り15%の株式も引き受けよう。」
「それはどういうことですか?」
「我が社で経験を積み、鷹州会病院の経営の役に立つ人材になれたならば、我が社から取締役として送り込もうということだ。もちろん途中で断念するようならば、我が社は鷹州会病院から手を引く。」
その際に新株予約権を割り当て、親族が過半数を得られるようにすれば、院長の遺志も叶えられるだろう。
ゲーム製作会社の責任者の話では周りから慕われているNPCをロールプレイングするという難しい役も難なくこなしたと聞く。この子は院長のカリスマ性の血を引き継いだのだろう。
「解りました。高校を卒業後、入社するということで宜しいでしょうか?」
高卒入社という俺の会社の方針を知っているらしい。
「いや、今すぐ入社して貰う。学業優先で構わないが当面の仕事はヴァーチャルリアリティー社に出向という形にしておく。君のアカウントには、あのゲームに関する管理者権限を与えられるから、万が一にも再びログアウトできない事態に陥る可能性も無くなるという寸法だ。一石二鳥だろ。」
「いいえ、一石三鳥です。すぐにメンテナンスする必要も無くなり、次のアップデートで十分ですよね。」
勢いづいてゲーム製作会社の責任者も口を挟む。
「君ねえ。解ってないだろ。被害者補償が優先だ。君が被害者たるこの子に圧力を掛けるのはダメだ。費用が浮くのであれば、その分は被害者が嫌がっても金銭的補償を受け取らせること。わかったな。では坂口リナさん。お母さんとも良く相談してください。良い返事を待っている。」
自分のことを棚に上げて語気を強めて言うとゲーム会社の責任者は、はっ、とした顔で頷いた。
「はい。」
少女は少し嫌そうな顔をしたが、頭を振って了解の返事をしてくれたのだった。




