第11章-第114話 まにあうといいけど
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「解った。あとは本人から話を聞こう。」
ヴァーチャルリアリティーで出会った人に全てを話しているとは思えない。俺の管理者権限を持ってすれば、ヴァーチャルリアリティーに接続している場所の特定も可能だ。現実世界に戻った少女に『移動』魔法で接触し、確認すれば良いだろう。
男は少女が気になって仕方がないのか。度々、トラップに引っ掛かる。落下系は重力を操作することで難を逃れているが矢が飛んできたり、壁がせり出してきたりと多種多様なトラップに引っ掛かるたび、6階フロアの入口に死に戻っている。
面倒になってきた俺は6階フロアの床と壁の透明度を上げるとセンサーと思われる紋様が浮かび出た。
「申し訳ありません。お待たせいたしました。」
ようやく俺が進んだところまで追い着いてきた。
「この壁の向こうだ。・・・・うっ。」
そのまま進むと落下系トラップの落とし穴が開いたままになっていた。覗き込んだ俺は目にした痛々しい光景に思わず唸ってしまう。
人がギリギリは入れる空間に1本の槍が立ててあり、落ちた少女は脳天まで串刺し状態だった。
「大丈夫かっ。」
男が必死に助けようと手を伸ばして引き上げようとするが軽そうな少女の身体は持ち上がらない。
「まあ待て。君の身体と入れ替えよう。」
6階フロアから接続された男のプレーヤーのオブジェクトの位置情報と少女のプレーヤーの位置情報を入れ替えると瞬時にその姿が入れ替わり、男のHPがどんどんと減り始め数秒後には6階フロアの入口にしに戻ったようだ。
その直後、少女の身体も消え失せた。ログアウトできたらしい。
☆
キンコーン。
少女のプレーヤー情報から接続された住所を割り出した俺はログアウトして、渚佑子と共に『転移』魔法で、そのマンションの扉の前に立ち、インターフォンを押したところだ。
「どちらさまで・・・あっ・・・今、開けます。」
扉の向こうから水の流れる音が聞こえたあと、インターフォン越しに声が聞こえると慌てた様子だ。
「着替えた後でも構わない。」
6時間もヴァーチャルリアリティー時空間に居たんだ。トイレはギリギリ間に合ったといいが・・・。
「社長。向こう側を覗けるんですか?」
渚佑子は驚いたように目を剥く。渚佑子はなんらかのスキルを使って向こう側の様子を知ることができるらしい。相手がどんな格好をしているか解るみたいだ。
「そんな訳無いだろう。状況により想像できるだけだ。」
「どうぞ。」
扉の前で30分ほど待たされて扉が開く。覚えのある顔が顔を覗かせる。
「やあ災難だったね。お邪魔させて貰うよ。」
あきらかに芳香剤を撒いたと思われる匂いのする室内に通される。もう何も言うまい。