第11章-第113話 きっかけ
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「お、おまえ。」
6階を進んでいくと一人の男と出会った。
「お待ち申し上げておりました。・・・あ・・あのですね。」
運営チームの責任者の男だ。やはり6階へショートカットする方法があったようだ。
俺の厳しい表情を読んだ男が焦ったように言葉を続ける。
「言い訳は後で聞く。貴様がここに居るということは、少女と貴様らは同じチームでこのダンジョンに挑んだんだな。気持ち悪いかもしれんが我慢してくれ。・・・しかし、何故こんなところに・・・。」
俺は男の尾骨辺りに手を差し入れてリセットボタンを押して、メンテナンスモードに移行させる。
ちなみにリセットスイッチはゲーム会社の意図した場所に付けられる。下手をすればセクハラになりかねない場所に設置しなくても良いだろうに。女性相手では痴漢に間違われそうだ。
「初めはお尻の穴の中に設置しようという案もあったんですが、そちらは男女問わず刑罰モードに移行する設定になっています。」
当然、6階エリアのオブジェクトに男のオブジェクトが接続される。これで上位オブジェクトから侵入できる。
刑罰モードとは法廷のようなエリアに飛ばされ、そこで双方から事情を聞き、加害者に罰を与えれるのだ。例えば戦闘モード以外で女性プレーヤーの胸に男性プレーヤーが触ろうとした場合に入る。
まあ戦闘モードで偶然を装って胸を触ろうとしても、そこには何も無い空間なのだが・・・。
刑罰モードでは女性プレーヤー側が庇ってくれなければ即刻アカウント削除になるはずだ。庇ってくれても相応の罰を与え、同じ行為を繰り返せば自動的にアカウント削除や現実世界での公表など、金銭的社会的抹殺される仕組みになっているはずだ。
「このエリアもトラップ系か?」
6階エリアは1階エリアと同様の構造になっていた。俺は男が掛かったトラップを20倍の速度で掏りぬけると男が落ちないように男の重力を切る。
「ええ。即死系なんですが・・・。」
落とし穴に落ちると高確率で即死するらしい。
「これかな。・・・こっちだ。」
男のオブジェクトに繋がっているチームのオブジェクトから他のプレーヤーのオブジェクトに侵入する。幾人か女性のプレイヤーが居る中から、位置関係からトラップに掛かった状態から動けなくなっているオブジェクトを突き止めた。
「この辺りでチームがバラバラになったんです。」
プレーヤーがバラバラの場所に転送されるトラップを踏んだらしい。
「何故、初心者プレーヤーをこんなところまで連れてきたんだ?」
突き止めたプレーヤーのステータス情報はゼロが羅列されていた。明らかに他のプレーヤーとは次元が違う。悪意があって、こんなことをしたのであれば、ヴァーチャルリアリティー上のアカウントの無期限停止も辞さないつもりだ。
だが男の様子からするとそんなふうには見えず、心の底から少女を心配しているように見えた。
「私は彼女に幸せになって欲しかっただけなんだ。」
「幸せ?」
「そうです。ゲームを楽しみ、現実世界を生きなおす切っ掛けにしてほしかった。」
現実世界での少女の身に何かがあったらしい。ゲームの世界に閉じこもってしまうほどの何かが。




