第11章-第109話 ようかん
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「うわっ。最悪モードだ。」
面倒なので2階のボスをサクッと削除して3階に登った。
「なんだ。その最悪モードというのは?」
運営スタッフが呟いた言葉をオウム返しに聞き返す。こっちはド素人なんだ初めから説明してくれよな。
「ここは火山のエリアなんですが1万分の1の確率で発生するモードで辺り一面熔岩の海になるんですよ。ボス自体は弱いので僅かにある身軽さに特化するか。防衛力特化した盾持ちが熔岩の海を渡って攻略します。」
俺の厳しい視線が耐えられなかったのか。攻略を諦めきっているのか。随分素直に教えてくれる。
熔岩の海を泳いで渡らせようとか鬼畜な設定だな。
「俺が『移動』して、ボスを倒せばいいんだな。」
HPが10億ほどあるので、熔岩の海を渡ってもいいんだが、心理的抵抗感がありすぎる。誰だ。こんなことを考えたの。
「『移動』って何です?」
運営スタッフが初耳とばかりに聞いてくる。
「いわゆるテレポーテーションだ。」
「この世界の魔術師にそんな魔法は、使えません!」
今まで何を見てたんだ。散々使ってきただろうが。自分自身のオブジェクトを今居る空間から別の空間にムーヴさせるだけで、歩いていることと大差無い。
「右手の前方がボス部屋の前だったな。じゃあ行ってくる。」
「ちょっと待って下さい。俺たちも連れて行ってください。ボス部屋の扉が開くと同時に、こちら側は熔岩に飲み込まれるんですっ。」
物凄く必死な様子が伝わってくる。
極悪な設定だな。次の階に進んだ時点で死に戻るらしい。
「まあいいか。試さなくてはいけないこともあるから協力してくれ。」
20倍で動く俺なら多少目測を誤っても続けて『移動』できるし、たとえ熔岩の海に落ちてHPが減っても死なないが、彼らはどうだろう。
運営スタッフチームの5人を次々と『移動』で飛ばしていくと4人目でボス部屋の前に『移動』できた。女性メンバーくらいは助けないとな。
3人目までは熔岩の海にジュっといって落ちた。しかも1秒毎に減っていくHP量が少ないのか。なかなか死なない。ゲームで生き地獄を味わって何が楽しいのか。皆、笑顔だった。
まあそのおかげで俺は1発でたどり着けたんだから、見なかったことにしておこう。
「・・・何?」
ボス部屋に入ろうとしたとき、連れてきた女性の運営スタッフの視線を感じた。
「鬼畜。」
それを運営スタッフが言うかなあ。
「・・・・・・。」
もう1人の女性は何か言いたげだ。まるで俺が非道な行いをしているときの渚佑子のようだ。
絶対。Sだ。
この女性が極悪モードのデザインをしたのだろう。
☆
「なんだこりゃ。・・・しかも、この匂いは何処かで嗅いだことがある。」
ボス部屋に入った途端、出て来たモンスターに目を丸くする。地面から四角いワームが出て来た。
モンスターが吐き出した液体の臭いが部屋中に充満する。甘ったるい臭いだ。
「そうでしょうね。黒糖羊羹ですから。」
後ろでドS運営スタッフの声が聞こえた。
「なんで・・・ようかん・・・って・・・まさか!」
極悪モード専用のモンスターで誰でも簡単に倒せるって言っていたよな。『熔岩の海』から上がりボスを倒せば、ボス部屋に『羊羹の海』が出来・・・。
「サクッと倒してください。」
「いや譲るよ。このゲームはバグだらけだ。実稼働でのテストも兼ねてやった方がいいんじゃないかな。」
「そうですか。じゃあ遠慮無く。」
俺は『フライ』を使って飛び上がる準備をしながら、そのときを待つのだった。




