第11章-第108話 おぶじぇくとさくじょ
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目の前には沼が広がっていた。足場は僅かしか無く身軽なスタッフが盾持ちと足場を行き来しながら、攻撃するようだ。
盾持ちの周囲に居れば、与えられたダメージは全て盾持ちが引き受けるという非現実的なシステムになっているらしい。しかも盾持ちはダメージの大半を軽減する能力を持っているという。
防弾スーツを着る特殊部隊でさえ、数十発の弾丸に晒されれば、反動で青痣ができるというのに非常識な肉体を持っているらしい。
既存ゲーム機でのMMO衰退は、この辺りの非現実的すぎる設定にあるのかもしれない。今後、開発されるVRMMOではその辺りを引き締める必要がありそうだ。
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「おつかれさん。」
1時間経過してもラスボスを倒せなかった運営チームに業を煮やした俺は、竜のオブジェクトを削除した。なにせ竜の攻撃はダメージを与え続けるチームスタッフやダメージを軽減し続ける盾持ちに集中しており、俺が竜の背中に『移動』しても全く敵意も見られなかったのだ。
モンスターやNPCなどのオブジェクトは単独で動作しており、俺の管理者権限を持ってしても削除できないのだが、各オブジェクトの人間でいうところの尾骨辺りにリセットスイッチがあり、このスイッチを1回押すとメンテナンスモードに移行し、空間に属するオブジェクトとなり、命令を受け付けるようになる。その後、オブジェクトの削除を行ったのだ。
本来はメンテナンスモードに移行したオブジェクトから学習データを取り出し、次期バージョンのオブジェクトに生かされる仕様なのだが、このゲームでは回収しないらしく、バージョンアップの度にモンスターの学習がリセットされるらしい。
もちろん、学習によってパターン化されてしまった攻撃方法もデータが消えてしまうが被害者優先が原則だ。問題ないだろう。
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「またかね。」
「もう1回。」
2階に上がるとモンスターがより強力になったらしい。スタート地点から10分以内に運営チームは全滅するのである。
「まずは何故、こうなっているのか考えてみようじゃないか。君たち運営チームならば楽勝な相手だったわけだろ。何かがあって勝てなくなったわけだ。何があったと思うのかね?」
「2階のモンスターは前回の対戦相手と拮抗する強さになります。ですが我々を凌駕するとなると5つある大手ギルドのトップぐらいですがトップ1人で攻略できるようには作られていません。最低5人1チームの構成でしか攻略できないのですが・・・。」
「じゃあ、その最大手のギルドのトップ5人が集まってチームを作ったんじゃないのか?」
運営チームの話を聞いていると1つの結論に行き着く。いやそれしか考えられないだろう。
「それはありえません。イベントの商品は最大手ギルドとして1歩抜きん出れる威力のある景品を贈り続けていますので協力するはずがありませんし、お互いを忌み嫌っている犬猿の仲のギルドも含まれているんです。」
このダンジョンを真っ先に攻略したチームに贈られる景品が凄いらしい。しかも各大手ギルドが拮抗するようにそれぞれの得意分野のイベントを順繰りに行われているらしい。いわゆるデキレースのようだ。
新規参入には酷く攻略が難しいものになっているらしい。上手く運営が儲けられるように出来ているらしいが新しいプラットフォームはヴァーチャルリアリティー時空間で終わりとなるため、新規参入のプレイヤーが逃げるシステムでは閉鎖も近いのかもしれない。この辺りも課題だ。
「解った。俺がオブジェクトを削除して学習データを消すしかないようだ。」
犬猿の仲でも接着剤の役割を果たす人が居れば、表面上は仲良くできるものだ。俺など環境を整えたに過ぎないがMotyでも仲が悪いと言われ続けながらも再結成まで漕ぎ付けたのだ。中田が接着剤だったのだろう。
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「これで終わりか?」
運営チームが攻撃している最中にモンスターの後ろに『移動』した俺がモンスターのオブジェクトを削除していると、急にモンスターと出会わなくなったのである。
「そんなはずは・・・あっ・・・。」
システムエンジニアを兼務しているという運営スタッフの顔が青くなっていく。
「どうしたんだ?」
「この階のモンスターは倒されると同時に別の場所に出現する仕様なんです。全ての種類のモンスターを削除したから、この階にはモンスターが居ないんです。」
戦闘フェーズ中に対戦相手が倒した場合にのみ、別の場所で生成されたオブジェクトへ学習データのコピーが行われる。
「なるほどな。メンテナンスモード中に上位オブジェクトから削除したから、倒されたというイベントが動作しなかったというわけか。良かったじゃないか。バグフィックスできるじゃないか。これからはオブジェクトが削除される最終処理で動作するようにするんだな。」
有りがちな仕様ミスだ。上位オブジェクトから削除された場合の結合テストを行っていなかったらしい。




