第11章-第107話 ゆにーくそうび
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「やはりログアウトコントロールの権限まで渡したのは拙かったようだね。」
ゲーム製作会社の常駐スタッフが居るヴァーチャルリアリティー時空間のコントロール室ではログアウトできずに困っている少女が居ることを把握してなかった。
上位には山田ホールディングスグループのヴァーチャルリアリティー社がいる。VRMMOゲーム製作において、ゲーム製作会社に何処まで権限を託すかを協議したのだが最後まで決まらなかったのがログアウトを一時的に選択できないようにする機能だったのだ。
「本当にそのような人間が居るのですか?」
通常運営しかできないスタッフだけでは決められないらしく責任者をヴァーチャルリアリティー時空間に呼び出した。
ゲームの設定上、ログアウト出来ないのは恐怖を煽るためだけに使用されており、そんなところに何時間も居続けることは不可能だという話だった。
「俺が嘘を吐いているというのかね。」
まあ俺は嘘吐きだが女神が嘘を吐くとは思えない。
「い、いえ。」
責任者はびっしょりと掻いた汗を拭く。
「とにかく、ログアウトを制御している空間に連れていきたまえ。」
「それが10階あるダンジョンの6階に設置してありまして、最高の装備と最高の能力値を持つスタッフでも単独で近づけないようなところなんです。ですから対策チームを組みまして投入するしか無いわけなんです。希望される職業は御座いますか?」
緊急メンテナンスを実施して強制ログアウトすればいいのにスタッフをチームで投入して探す方法を取るらしく。俺もチームで役割を与えられるらしい。
「電子使いだな。」
俺にはスーパーコンピューターの最高レベルの管理者権限が与えられている。それはオブジェクト指向で製作されているVRMMOにも及ぶ権限であり、どんなモンスターが出てこようとも消滅させたり、ゲーム空間を一時停止させて、俺だけが動くといったことも出来る。
「なんですか。それは。」
このゲームには電子使いという職業は無いらしい。
「空間を扱う魔法使いのようなものだ。」
結局は『空間魔術師』に落ち着いた。肉体はヴァーチャルリアリティー時空間の外にあるので魔法が及ぶことは無いが『移動』魔法など現実世界で出来る魔法は全てヴァーチャルリアリティー時空間で再現できそうだ。
痛いのは嫌だから、上位オブジェクトで痛覚制御をオフにする。HPが10桁あったので99億に設定しようとすると、可笑しな値になった。今時32ビットの符合付き整数を使っているらしい。
256ビットコアのスーパーコンピューター上で128ビットのオペレーティングシステムがエミュレーション動作しており、扱えるレジスターやメモリは128ビットが最小だ。
使用するプログラミング言語によっては半分の64ビットの符合付き整数を用意しているが、32ビットは扱えないはずなのだ。
過去のゲーム機のコード資産を流用しているらしい。バグが発生し易いので是正勧告が通達されていたはずだ。一度、ヴァーチャルリアリティー社側でコードチェックをしなければならないようである。
コードの提出を嫌がるようならば今回に監禁事件をネタに損害賠償請求を行い、全てのコードを取り上げてでも実施すべきである。
☆
『それズルい。』
言われると思ったが、まさか女神に指摘されるとは思わなかった。誰のために、こんな苦労をしていると思っているんだ。
1階の最初のゾーンにはトラップが仕掛けてあり、最高装備で最高能力のスタッフで構成されているチームでも何処にどんなトラップが仕掛けてあるか解らないらしい。
穴に落ちて毒の状態異常状態で這い上がってきたり、槍に貫かれて仲間に引き上げて貰っていたりする。
俺は、もちろんトラップに引っ掛からない・・・わけでは無い。引っ掛かるが、新スーパーコンピューターの20倍速で動いているため、6倍速で動いているトラップの落とし穴が開いたころには2歩くらい先へ移動しているのだ。
「君たち、遅いぞ。」
「「「貴方が早すぎるんです!」」」
「ほら、モンスターが出て来たぞ。俺は先に行っているな。」
モンスターと出会っても戦闘フェーズが始まるころには横を素通りして敵の後方に抜けてしまっている。
2匹、3匹と出会っても、出会った場所に敵が居ると思い込んでいるモンスターはひたすら前進して行った。想定外だったらしい。
どの階のラスボスの手前も安全地帯になっており休憩しているとボロボロの装備になった運営スタッフたちが転がり込んできた。
「だらしないなあ。これに着替えろよ。」
管理者権限を使い、相手の装備品を新規オブジェクトとして作りだして手渡した。
「嘘! 世界に1個しか無いユニーク品なのに・・・2個目が出て来た。」
なにやら悲鳴を上げているが2個、3個と作り上げてストックしておく。
「HPやMPは各自で戻してくれ。君たち自身も1個のオブジェクトに過ぎないので、もう1個作り出して乗り換えて貰うことも出来るが、どうする?」
もう1人の自分というのは気味が悪いのか、運営スタッフ全員、千切れそうなほど全力で首を横に振っていた。
「この階のラスボスは土で出来た竜です。攻略法は口の中です。当たり判定が微妙で難しいので我々に任せておいてください。」
大きな盾を持つ運営スタッフが代表して攻略法を教えてくれる。
「ラスボスの部屋は敵が居なくなると自動的に次の階の入口が開くんだったな。今回は見物させて貰おう。」
今後、このゲームをやり込む予定も時間も無い俺が事前に聞いていたのはこれくらいで詳細は聞き出してない。彼らはモンスターと連戦して疲れているようだったが、HPもMPも全回復しているのだから余裕だろう。