第11章-第105話 かみ
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「わぁっ。」
ヴァーチャルリアリティー時空間からログアウトして現実空間で目を開けると顔の間近に渚佑子の顔があった。
渚佑子の顔がみるみるうちに赤くなっていき、顔を背けた。いったい何を見ていたんだか。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ど・・どうされましたか?」
渚佑子が必死に動揺を抑え、平静を装う姿が痛々しい。
ついこの間、幸子に寝ている隙に啄ばむようなバードキスをされたことを思い出す。あの時はキスの真っ最中で目が覚めて、唇に感じた感触から目を開けた。その時の幸子の様子がこんなふうだったのだ。
まさかね。渚佑子に限って、それは無いだろう。
「状態異常は発生して無いようだね。」
渚佑子の状態のほうが異常だが。俺に魔法を使った様子も無い。目を回したわけでは無いのは目を開けた瞬間に解っている。あの光景はなんだったのだろう。
近くに居た研究員を呼び、ヴァーチャルリアリティー時空間内のことを尋ねるが特に異常は無いようだった。念のために一般人向けの脈拍や呼吸や脳はなどの状態異常感知装置を付けて傍に居てもらうことにした。
「・・・・・・・・。」
渚佑子がジッと睨んでくる。
「別に君を信用してない訳じゃないが、ヴァーチャルリアリティー時空間で可笑しな現象が発生している。幻覚を見ていないか確認のためだ。」
ヴァーチャルリアリティー時空間は人間の脳が夢を見る原理を利用しており、幻覚と同種のものだ。ナルコレプシーを発症した患者が入眠直後にレム睡眠に移行し幻覚を見るように脳に刺激を与え、起きているにも関わらずレム睡眠に移行させ、まぶたの上から視神経に刺激を与えることで、あたかも別の空間を見ているかのような感覚を持つのだ。
従って脳が幻覚を作り出していれば、ヴァーチャルリアリティー時空間にも投影されることになる。
「・・・そうですか。その現象が収まれば、邪魔ですから外してください。」
「あ、ああ。」
何の邪魔なのかは全く解らないが渚佑子が半ば強制的に言うのなら、その通りなのだろう。改めてヘッドセットを被りなおして、ヴァーチャルリアリティー時空間に戻る。
☆
ヴァーチャルリアリティー時空間では、相変わらず視界の隅にチラチラと残像がある。目を閉じて残像を思い出してみると幼い女の子のようだったが知らない顔だった。
自分の脳が作り出した幻覚では無さそうだ。
管理者権限を使い、ヴァーチャルリアリティー時空間を監視し、トラップを仕掛ける。メモリが書き換わればその周囲に遮蔽物を置く仕掛けだ。
念のため、優先度を最大にしておく。どこからか新しいスーパーコンピューターに干渉してきているかもしれないからだ。
『きゃあ。何よ。これ、動けないじゃない。』
トラップに引っ掛かった。意外とまぬけだ。
そのメモリ空間を書き換えているプログラムを探すが見つからない。まるでメモリが勝手に書き換わっているかのようだ。
だが音声も届いている。そこに何かが存在することは確かだ。
「何者だ。」
『・・・・・・。』
問いかけてみるが返事は無い。だが、こんなことは前にも経験したことがある。以前、ハワードの母親の前に現れた女神。メモリ空間のバックアップ履歴を確認したが、今回のようにメモリ空間が勝手に書き換わっていたのだ。
「このヴァーチャルリアリティー空間に遣わされた女神か?」
『なんで解るのよ!』




