第11章-第102話 生と死
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「そうか。回復したか。良かった。何が原因だったんだマイヤー。」
あれだけ痩せ細っていた、さつきが順調に回復している。体重もほぼ元通りだという。
「それが・・・食べなかっただけのようです。」
一瞬、マイヤーが間を置くが、返って来た言葉に拍子抜けした。なんだそれっ。
「なにっ。本当か。さつき。なんだ、体調が悪くて食べれなかったのか?」
いやいやいや、妊娠すると味覚が変わったりもするらしいから、怒るのは後だ。
「いいえ。太るのが嫌だったんです。」
ストレートに返って来た。こういう言い方が流行っているのだろうか。
「あのな。産後のヒダチが悪いとかいうだろ。」
「はい。」
「ヒダチとは肥えると書くんだ。それだけ、産後は太ることが重要ということなんだ。」
「それは知っています。」
あっさりと答えが返ってくる。いったいなんなんだ。さつきが文化の違う外国人に見える。
「ゴメン。理解出来ない。何故食べなかったんだ。」
「貴方が魘されているのを聞いてしまったんです。」
「俺が魘されていた。どんな寝言を言っていた? まあ気にするな。俺にも弱い部分があるんだ。」
「それがそのう『来るなっミネルヴァ!』と叫んでいました。」
さつきは、悲痛な表情になる。太ることで嫌がられると誤解していたのだ。
クリスだな。アポロディーナはミネルヴァが1度死んだことを知っているし、しばらく魘されていたことも知っているはずだ。
確かに重量級になったミネルヴァから逃げ出していたところをクリスに見られていたから誤解しても仕方がないか。
「それで誰かから聞き出したのか・・・。参ったな俺の所為か。俺の所為だな。スマン。だが違うんだ。彼女は1度死んだ。ただそれだけなんだ。」
「大切な人だったんですね。」
それを聞いた、さつきは穏やかな表情になった。
「ああ大切な従業員だ。流石に目の前で死なれては・・・ね。」
さつきは険しい表情になった。普段とは違いコロコロと表情が変わる日だな。今度は何だ。
「あのう。貴方は私と従業員のどちらが・・・いえ聞かなかったことに、してください。」
1度聞いてみたかったのだろう。仕事と私とどっちが大切か。
「さつきに決まっているじゃないか。さつきも従業員だろ。しかもパートナーだ。比べられるわけが無い。」
パーフェクトな答えだと思ったんだが、さつきの表情がさらに険しくなっていく。何処がいけなかったんだろう。
「足し算・・・。1+1・・・いえ答えないでっ。」
そんなに割り切って答えが出れば楽なんだけど、否定しようにも両手で口を塞がれてしまった。まるでパートナーと従業員が同じ扱いをしてきたかのような言い方だ。
でも多くのパートナーが出来て1人当たりの扱い方が薄くなってしまった感は否めない。改善しなくてはいけないよな。
「じゃあ私はどうなのよう?」
突然、静かに聞いていたマイヤーが割り込んできた。
「なんだ突然。」
「前にパートナーだと言ってくれたでしょ。」
随分、古いことを持ち出してきた。あのときはパートのオバサンという意味だった。大切な従業員だ。
でも今は専業主婦だ。
「答えて欲しいのか。本当に?」
「いえいいの。その理屈なら、幸子さんがトップなのね。」
ちょっと脅してみると直ぐに引っ込める。そんなに簡単に答えは出ない。マイヤーにはパートナーたちを取り仕切って貰っている。一種の管理職だ。
「いやそれは・・・確かに彼女とは関わった時間が長いから。失いたくは無いな。」
否定しようと思うが、数多くのパートナー中では頭1つ飛び出している気がする。さつきやマイヤーと比べると違う気がするが。
「長い時間ね。それならば得意よ。絶対にトップに立ち続けてみせる。」
寿命のことを言っているんだろうけど、その前に俺のほうが死ぬから、早く死ぬから。