第6章-第46話 俺はババコン?
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「なにをするんですか。山田さんったらババコンだったんですね・・・あれっ、ここはどこですか?」
さすがは親子だ。ほとんど同じリアクションだ。
「ババコンって失礼です。私は婚約者ですわ。決してトムはババコンでは、ありません!」
そっか、俺ってババコンだったんだ。目の前で、推定50歳と80歳が睨みあっている。
いかんいかん、思わず遠い目をしてしまった。
「あらあら、そうなのね。あっアキエちゃんだわ。」
「ヤマイのおばあちゃん。いらっしゃいませぇ。」
「あらあら、ちゃんと挨拶できるようになったのね。えらいわね。そういうことは、ここは福岡県?」
ツトムといい。この母親といい。なぜ、そう決め付ける。そいっちもなんか、俺の福岡県民にみえるか?
俺がぐったりとしていると、セイヤが説明してくれる。
「ここはチバラギ国である。私は国王のセイヤ・チバラギと申す。よろしく頼むのう。」
「へっ・・・陛下ですか?これは、失礼しました。ヤマイ・モモエといいます。ツトムがお世話になっているそうで、よろしくお願い致します。」
ようやく、立ち直ったのでモモエさんをツトムのところへ連れていくことにする。しかし、その前に異世界での宿を決めて置かなくてはならない。できれば、アキエに会いに来れる辺りに住んでもらうといいな。
俺は、そうセイヤに伝える。
「ちょうど近衛師団の食堂スタッフを募集していたかのう。そこならば、近衛師団の宿舎を提供できるぞ。」
「という、わけなんだけど、よかったでしょうか?」
「私は、何でも生活していければ・・・。それに、もうアパートは引き払いましたので、行くところもございませんし・・・。」
「マイヤー。念のため、モモエさんに神からの祝福を受けてもらってくれるかな。」
「はい、わかりました。」
暫く待っているとマイヤーとモモエさんが戻ってきた。
「どうだった?」
「『料理人』と出ましたわ。」
「凄い!セイヤさんの見る目は違うなぁ。じゃあ、マイヤー案内してあげてくれる?」
とりあえず、偶然なんだろうけどセイヤを褒めておくことにした。モモエさんの件、我がままを聞いて貰ったしな。
「マイヤーが住んでいたところに入ってもらえ。わかったかのう。」
「はい、わかりました。」
・・・・・・・
「こんなに、広いのですね。マイヤーさん。」
「家具は備え付けのものを使用してください。これが他の支給品です。足らないものは買い足してください。」
俺がこちらのお金を渡そうとすると固辞されてしまった。
「ツトムも此方で生活しているのでしょう?ツトムから貰いますので・・・。」
・・・・・・・
「かあちゃん・・・。」
「まったくもう、心配掛けて。お前、ここで店長しているの?出世したわね。私も此方で生活することにしたから、当座のお金をちょうだいな。どうせ、溜め込んでいるんでしょう?」
「えっ・・・いくらくらい?」
「そうねぇ。日本円で10万円分くらい?」
「えっ。そ、そんな・・・5万円くらいにならない?」
「あるんでしょ。出しなさい。」
「はっいっ。」
ツトムは100G金貨を10枚渡したようだ。ツトムは、こちらに涙目で訴える仕草をするが・・・。とりあえずは、目を逸らしておいた。どうやら、なけなしの1000Gだったようだ。きっと、武器や防具を買うために溜め込んでいたに違いない。
「では、後でまた寄りますので・・・。ツトム君、この世界のことを全てお母さんに伝えておいて。解かったかな?」
「はい!」
まあ、積もる話もあるだろうしな。この世界の説明は、とりあえずツトムに丸投げでいいだろう。
教会に着き、5日間100Gショップに勤めてくれた子たちに報酬を渡す。ツトムの約2倍の売り上げを達成していた。それぞれの子供に少し色を付けて報酬を渡しておいた。ツトムの報酬より随分多いことは確かだ。モモエさんの前では言えないがこれでは、本当にツトムが必要なくなる日も近いかもしれない。
・・・・・・・
メッツバーガーとミスドーナツと牛丼のスキスキの商品を全て、子供達に手渡し終わったときだった。突然、セイヤの声が頭に鳴り響いた。マイヤーによるとギルドカードによる呼びかけだそうだ。
そういえば同じ機能が指輪にも付いていると聞いた覚えがある。
「市街地にてワイバーンが3頭飛来、非戦闘員は全て建物内に避難せよ。なお、近くに居る右軍及び左軍、近衛師団、そしてCランク以上の冒険者は非常体制下に入ること。以上だ。折って連絡を入れる。」
「マイヤー。俺たちも行こう!」
「ダメです。危険です!」
「うるさい!俺1人でも行くぞ。」
俺はそのまま、100Gショップ方面に走り出す。
「ツトム!店を閉めろ!非常事態だ、モモエさんを連れて近衛師団に駆け込め!お前も戦士なら戦え!わかったか!」
「はい!」
俺は、そのまま王宮に駆け込み、原付スクーターのエンジンを掛ける。
「マイヤーは、ここに残るか?」
「いえ、行きます!」
「じゃ、しっかり捕まっていろよ!」
・・・・・・・
市街地に着くと、そこは戦場だった。100メートル上空から飛来しては、攻撃を加えるワイバーンに対して軽装備の近衛師団の団員は、帯刀している剣で威嚇しつつ、市民を逃がすのが精一杯の状態だった。
「マイヤー、なんとかなるか?」
「ダメです。ワイバーンには、火も水も風魔法も効きません。唯一、効くのが雷魔法ですが、私では1発撃つのがやっとで距離的にも届きません。剣の打撃なら多少は効きますが、そこまで近寄ってはくれるかどうか。」
「そうか、わかった。」
俺は、ライフルを取り出し、指輪を『目』に変える。
「じゃ、マイヤーは俺の後ろに・・・。」
「それでは、護衛失格です。」
「そんなことを言っている場合か、俺の周囲は例の防具があるから大丈夫だ。わかっているのだろう。」
「は、はい。」
「マイヤー泣くな!お前にも、怪我人を治療する仕事はあるんだから。とりあえず、プライドは置いておけ!」
「はい!」
ようやく、前に居たマイヤーが後ろに行ってくれた。
まだ、ワイバーンはこちらを気付いていないみたいだ。500メートルほど離れているのだから気付かないのは当然だ。しかし、ライフルを撃ち始めたら此方に向かってくるのは確実だ。
バーン、バーン、バーン・・ン・・ン。ワイバーンのお腹に1発、2発、墜落してきたところを脳天をふっとばし、なんとかまずは1頭を始末した。
味方が殺されたのを見て、近衛師団の団員を攻撃していた2頭が、一斉に踊りかかってきた。
「マイヤー、右1頭の足止めを頼む。」
「はい!わかりました。」
マイヤーが周囲に被害を出さないように『ファイアウォール』を唱えて、少しでも時間を稼ごうと躍起になっている。ワイバーンも本能的に火が怖いのか。迂回しようとしてくる。
バーン、バーン、バーン・・・俺は、頭に狙いを付けて3連続で発射したところ、1発がくちばしを傷つけ、2発目が目から脳を貫いた、2頭目はそのまま墜落してひしゃげた。
さすがに3頭目は一度マイヤーから遠ざかったあと、再度こちらに向かってくる。
バーン、バーン、バーン、バーン、バーン、バーン・・・ン。
ち、うまく脳天をぶち抜けない。当たったのはお腹や羽根ばかりだ。
バーン、バーン、バーン、バーン、バーン、バーン・・・ン。
さあ、ラスト1頭はどうなったのか?