第10章-第97話 きづかれたのはなぜ
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「予想を裏切らないヤツらだな。」
中国を経由して南朝鮮の空港に到着した途端、誘拐された。行き先は北朝鮮だという。外務省の同行者を断っておいて良かった。
公式訪問では無いという名目で断った。随行員は同時通訳ができるという名目で連れて行った渚佑子だけだ。
もちろん、いつ狙撃されても大丈夫なように片方の指輪は『守』にしてある。
「そうですね。前回は暴れ足りなかったので、もっと暴れられるかと思ったんですが肩透かしです。」
前回は南朝鮮が誇る5Gネットワークを破壊してきたらしい。任務を果たしつつ、十分に経済的打撃を与えている。素晴らしい攻撃だ。
「ストレスが溜まっているなら、遅れてついて来てもいいぞ。」
ストレスが溜まっている渚佑子の傍に居たくないなんて、言えないから鷹揚な態度を取ることにした。
「貴様ら、何処の言葉で喋っているんだ。」
南朝鮮のこの場のトップと思われる人物が焦った様子で言う。
「チバラギという場所の日本の方言だ。」
チバラギ国の言葉は滞在中に思い出していたが使ってみたのは初めてだ。返す渚佑子は『翻訳』スキルを使って返してくる。当然、南朝鮮人には解らない。
配置された人員は日本語が解るだけでなく、主要な言語が解るのだろう。まさか異世界の言葉を喋っているとは思うまい。
板門店に到着する。クーデターが勃発したとき、北朝鮮寄りの南朝鮮政府は真っ先にここを占拠した。その際には軍規の厳しい韓国軍の第3歩兵師団と北朝鮮軍との三つ巴の戦いが展開され、南朝鮮政府についた陸軍本部直轄部隊を何度も退けたそうだ。
軍事停戦委員会本会議場の傍を通り抜け北朝鮮側に入った。周辺の警備は北朝鮮軍の兵士がちらほら見えるだけで南朝鮮軍の兵士は見当たらない。そして、「板門閣」に入っていくとここまで連れて来た南朝鮮政府側の人間が何か怖がるようにそそくさと出て行った。
そこには北朝鮮の最高指導者の姿があった。
南朝鮮政府が北朝鮮寄りでも、北朝鮮側は常にすげない態度を取り続けてきており、彼の逆鱗に触れた南朝鮮の大統領をはじめ政府首脳に対する直接対話の凍結を何度も繰り返している。その度に南朝鮮政府はトップを交代させ、あくまで北朝鮮の核の傘に入る姿勢を取ってきている。
「乱暴な扱いをしてすまなかった。キミとは1度じっくり話をしてみたいと思っていたんだ。」
俺は手を差し出す彼に歩み寄り、その手を握った。俺と同じくらいの身長だろうか。常に強権を振るう北朝鮮の最高指導者とは思えない腰の低さを感じた。
「いやいや丁重な招待、悼みいる。」
こちらも敵対する意思が無ければ、北朝鮮をどうのこうのする意思は無いのだ。
「そちらのお嬢さんは・・・やはり、キミ達は魔法を使えるのだね。異世界の方々。」
フイを付かれた。まさか、北朝鮮の最高指導者に気付かれているなんて。渚佑子を視線を交わす、臨戦態勢を整えているようだ。
「何を言っているのだね。現実主義者として有名だと聞いていたが認識を改めないといけないようだ。」
「オリハルコン鋼、ミスリル鋼でも十分だが、先日の戦いの最中にキミの船から発射された光の中の女性が目の前に居る。それでも言い逃れをする気かな。」
マスコミ各社のヘリの死角をついて発射したはずだ。アメリカの情報では北朝鮮自前の衛星を持っているそうだから、その辺りから撮影されていたのかもしれない。
「要求はなんだ?」
決して要求には応じないつもりだが、俺たちのことを詳細に調べたのだろう。そこで魔法使いという情報を得た。真に受ける人間が居るとは思わなかったが何かがあるに違い無い。