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第10章-第96話 ちえぶくろ

お読み頂きましてありがとうございます。

「そういえばジョージ。捕虜がどうのと言っていたのはどうなったんだ?」


 渚佑子の意識が元に戻り、別人格のことは知らない振りをしていると未だに壁に張り付いたままのジョージに声を掛ける。


「あっ。ああーーーあっ。拙い周辺海域・・・に、人影はありません。浮き輪も散乱してない。どうしてでしょう。」


 ジョージはタンカーに備え付けられたカメラで海上を隈無く探すが茫然とした顔で振り向いた。


 船底に穴が開いたならば、沈む前に船を離れることも出来るだろうが脆くも崩れさったのだ。中に居た人員諸共海底に沈んでいったに違い無い。


「そんなこと俺に聞くな。きっと防具の一部と判断されたんだろう。甲板に居た人員くらいは自衛隊が救い上げたんじゃないかな。」


 まあ戦闘中に甲板に人が居たとは思えないし、海に飛び込んだとしても船が沈む際に引き起こす潮の流れで溺れ死んだだろう。


 それに自衛隊の護衛艦は魚雷を受けている。救助している余裕など無いに違い無い。まあ全て自業自得だ。


「これって、『ゲート』の所為には出来ないですよね。この船の秘密をバラしますか?」


 ジョージが嫌なことを言い出す。確かに船首に取り付けられたオリハルコンだけでは説明出来ない事態だ。


「そうだな。『防弾スーツ』くらいなら・・・いやいや拙い拙い。『防弾スーツ』もアメリカでは第1級の国家秘密だ。新兵器と言うとタンカーに兵器を積んでいたことになるし困ったな。」


「相手の艦船が老朽化していたという推測を入れてはどうでしょう。」


 俺が困っていると渚佑子が助言をしてくれる。この考えは別人格のものだろうか。ご老人の知恵まで借りれるとはついているのかも知れない。女性に向かってご老人なんて渚佑子には言えないが。 


「そうだな。それくらいしか考えつかないな。」


 何処かでボロが出そうだが海底に沈んでいる艦船の欠片を全て拾い上げても真実にはたどり着かないに違い無い。


     ☆


「はあ? 鷹山首相・・・なんて仰いました?」


 遅れてやってきた他の護衛艦と共に帰路につき、高層マンションまで帰ってきたのだが首相官邸に呼び出された。


「南朝鮮政府が日本政府に対して損害賠償請求をしてきた。」


 全く耳を疑うな。日本の政治も魑魅魍魎と思ったが、それを上回る異様な状況だ。


 攻めて来て負けたら、全て日本が悪いことにされてしまった。南朝鮮の世論も同調しているらしい。


 北朝鮮に奪われた船を賠償しろということらしい。


「逆じゃないんですか。日本政府に謝罪と賠償をした上で国交正常化の話し合いの場を設けてもらいたいというのがスジでしょう。」


 あの戦闘が終わり、日本政府は南朝鮮に対して国交を断絶しており、人物金(ひとものかね)の行き来を一切停止しているのだが諸外国の外交官ルートを使い、一方的な通告をしてきたのだ。


「かの国に世界の常識を求めても無駄だ。」


「やっぱり、あの国はガンですね。さっさと北朝鮮に併合されてしまえばいいのに。」


 数年前、在韓米軍の撤退を引き金に引き起こされたクーデターは韓国を2つに引き裂いた。北朝鮮寄りの南朝鮮とアメリカ寄りの韓国。どちらも民主主義国家となっているが共産主義を標榜してないだけで似たり寄ったりの社会構造だ。


「おいおい乱暴だな。落ちぶれたとはいえ、金持ちがまだ沢山居るんだ。おいそれと併合されないだろう。」


「そうですね。ソングループは厄介だ。まあアッチは任せておいてください。既に手は打っています。」


 クーデターの際に刑務所に入っていた財閥の主要人物と共に強引に南朝鮮側に帰依させられたのである。


「いったい何をしたんだ。」


「大したことは無いですよ。ヴァーチャルリアリティー時空間に賛同頂いている企業に南朝鮮製部品の排除をお願いしているだけです。2次受け3次受けも含めて排除率の高いところから、優先的にヴァーチャルリアリティー時空間を使用できる条件つきです。」


「それって、独占禁止法違反、いや景品法違反、いや下請け法違反じゃないか。」


「多分ね。南朝鮮の法律など無視です。日本の法律で発覚すれば止めますが、報道されれば公正取引委員会は南朝鮮の味方かと世論の的です。偶には高見の見物もいいかもしれません。」


 普段から商売の手法を詳しく報道しては、やれ仁義がどうだとかバカなことを言っているのだ。


 商売など儲ければ勝ち、会社を存続し従業員を雇用し続ければ勝ちなのである。仁義が関係あるとすれば、消費者にソッポを向かれることだが、競合他社が居ない商売をしているのだ。誰に遠慮する必要も無い。


 昔、中国に進出した商売人の中には、先に中国企業に商標を取得され泣きを見たヤツらも多い。だがどちらも中身は中国製の商品である。質も大差なく日本の管理費で商売すればコスト的に負けるのは必然だ。


 さらに商標権まで取られていることを知っていて、相手の土俵に入っていくなんて無謀の極地だ。仁義があるとすれば日本の土俵で戦う必要があるということが解って無かったらしい。そのニュースでマスコミがこぞってバカなことを言っていたことを思い出す。


「はあ・・・怒りが突き抜けているようだな。」


「もちろんですとも、ですが抜け道も有ります。別の国の企業に身売りをすればいいんです。最終組み立て工程さえ別の国であれば、南朝鮮製とは言い難いですからね。」


 全ての部品を海外から購入しておいて、最終組み立て工程だけ日本で行い、日本製として売っている物の方が最近は多いくらいだ。


「それって、株式交換で吸収して特許などの技術だけ貰って、2代目の子会社を設立すれば、切り離しも可能・・・それを裏で働きかけるのか・・・悪どいな。」


 そこまで想像するか。確かにそうするけど。俺にケンカを売ってきたのだ報復されないなんて思う方が間違っている。


「詳しいですね。」


 俺が誉めると更に饒舌になっていく。意外と扱いやすいな。


「水で薄めるタイプのある乳酸菌飲料の企業なんて酷いぞ。支援先の企業の不採算部門を押し付けられて、他の企業に身売りさせられた。ほぼ寡占状態だったこそ出来る荒技だった。」


「そうですね。吸収合併後、商標を取り上げられましたよね。あれは酷かった。」


 商標権を取り上げられた会社は単なる工場運営会社になった。殆ど下請け同然になってしまったのだ。


「ヤツらはトムを指名してきたぞ。行くか?」


「予想を裏切らない奴らですね。もちろん行きますよ。渚佑子も暴れ足りないようですからね。」


 俺がそう言うと緊張した面持ちの鷹山首相の顔が青くなった。

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