第10章-第95話 はずかしがりやさん
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「おいジョージ。セクハラだぞ。」
目の前には裸でしゃがみ込んだ渚佑子の姿があった。俺は目を反らしながら、着ていたジャケットを彼女に掛けた。
「だって、そんな。」
先程、会った姿のままの格好の彼女が報告しに来たとき、チラリと頭を掠めたのだ。その服に触ればどうなるのだろう。
そう考えた俺は誘惑を振り払い、そっと手の届かない範囲に逃げ出したのだがジョージが彼女の肩を叩いて激励したのだった。
咄嗟に視線を外したが信じてくれるだろうか。不可抗力なんて言い訳は通用しない。この手のことは根に持つから怖いんだ。
「着替えますからジョージさんの視線から外れるようにこちら側を向いて立ちふさがって下さい。」
「ジョージと俺が出ていったほうが・・・「言う通りにしてください。」・・・はひ。」
やっぱり怖い。情けない声しか出なかった。
ジャケットの中で渚佑子が動く。動けば白い肌が・・・時々ピンク色のものも目にはいってくる。
「ちょっと待て。・・・確か勇者は『箱』スキルの中から直接装備品を装着出来るんじゃ無かったのか?」
2分経ち、3分経つと頭も冷えてくる。時々沸騰しそうなのはご愛嬌だ。
「ちっ。」
渚佑子は舌打ちすると彼女の1回目の異世界召喚で得たという正装姿で立ち上がる。どうやら、からかわれたようだ。
彼女は時々、こんなふうに男の純情を弄んでくる。普段の彼女とは正反対だ。
「えっ・・・345歳?」
拙い口に出してしまった。普段は指環の『鑑』で女性の年齢を見ることは無いんだが、目に入ってきてしまったのだ。
オカシイ。普段彼女はスキルで偽装しているはずだ。年齢なんて見えた試しが無い。
「見たわね。」
「キミは誰なんだ?」
「私はショウコよ。他の誰に見えるというの。」
確かに指環の『鑑』でも大賢渚佑子のままだ。だが年齢は345歳。異世界で過ごした時間だとしても計算が合わない。チバラギの禁書によると魔王を倒した勇者はレベルアップを果たし寿命も延びるというが200歳前後だ。
「キミは渚佑子じゃない他の誰かだ。」
アポロに取り憑かれていたアポロディーナもこんな融合の仕方じゃなかった。あれはまさに幽霊だったのだ。だかこれは違う。
「ショウコの第2の人格と言って信じる?」
今度は下手に出て来た。下手に出る渚佑子など、反省文を課したときくらいだ。多重人格者ならば信じられる。1回目の異世界では神経をすり減らしたことは、話を聞いて解っていることだ。
だが、ここでも年齢に矛盾が発生している。親人格よりも子人格のほうが年齢が高いなんて、有り得ないのだ。
「信じない。渚佑子の第2の人格ならば、渚佑子よりも後に生まれているはずだ。」
「あ・・・そうね。この世界の多重人格者ならばそうよ。でも違うの。送還魔法のコストとして人格融合されたのよ。」
「キミは俺と同じ空間魔法使いなのか?」
チバラギの場合、送還魔法のコストは僅かな魔力だが、俺よりレベルの低い魔法使いの場合、多大な魔力が必要で特殊な魔道具で補っている。他の異世界ならば、そんなコストもありえるかもしれない。
「そう自分の命をコストとして使う魔法使いなの。」
「なるほど2回目の異世界のことを話したがらないと思ったら、そんな裏があったのか。ショックだったろうな。」
「そうでもなかったわよ。あの子とは心の中で会話できるんだけど、殆ど話してくれないくらいウザがられているわ。」
1回目の異世界では嫌というほど人間の死を見てきたという渚佑子。召喚という誘拐犯の命など気にもとめてないに違い無い。
「違うキミの命のことじゃない。自分の全てを他人に見られているのだろう。恥ずかしがりやな彼女に酷過ぎる。」
彼女たちは心まで通じてないようだが、独り言や裸など全てを見られてしまう。
今も着ている服が崩れ落ち、他の人格に主導権を渡してしまうほど殻に閉じ篭もり恥かしがっているのだ。
「ああだから送還魔法を使った後、しばらく自由に動けたのね。」
「今回のポカミスはキミが導いたのか? それならば排除しなければならない。」
逆にポカミスをフォローしてくれる人格が居たから、彼女は生き残ってきたのかもしれない。だが人格の主導権の握るために動いているのであれば、どんな手段を使ってでも渚佑子から引きはがさなければならない。
今はその手段を思いつかないが、それこそ他の異世界に行けばあるかもしれないのだ。
「ちょっと待って。・・・解っていて教えなかったのは確かよ。でもあんな初歩的なミスを冒すなんて思わないでしょ。」
「助言してやれ。知っていると思うが、困ったことにたまにやるんだ。彼女の冷酷な面はキミの性格か?」
「違うわよ。私は常識的なの。大ごとになりそうなときは宥め役を買って出ているわ。この間の貴方が1人で異世界に逃亡したときは大変だったのよ。私が宥めなきゃ日本の政府機関は全て焼け野原だったでしょうね。」
「なるほど、大ごとにならなきゃ助言してるんだ。」
「まあね。彼女は物理的破壊が得意なの。私が精神が破壊されるような助言をしているわ。」
多重人格の両方共冷酷とかどうなんだ。良心は何処いった。
「人格が融合したことで他に問題は無いんだろうな。」
「無い・・・いえ、良いことが1つだけあるわ。」
「何だそれは。」
「私の寿命が彼女に加算されているの。」
「キミの種族の寿命はいくつなんだ?」
「さあ召喚魔法や送還魔法を使わずに天寿を全うした例は無いけど、最大で1000歳くらいかな。」




