第10章-第92話 えんぐん
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「どうだジョージ何か言ってきたか?」
アメリカ大統領の警護官だったジョージを引き抜いて、タンカーの船長に置いた。戦闘機乗りだったの彼だが退役前にアメリカ海軍の護衛艦にも乗ったことがあり、そちらの経験も多いらしい。
なんといっても隼鷹は空母転用型タンカーなのだ。アメリカ軍との連携において欠かせない人材だ。
「それが・・・言われた通り無視したら、それから何も・・・。何かを待っているように思えます。」
今のところ、北朝鮮軍が南朝鮮の艦船を奪ったのか。南朝鮮が北朝鮮軍に偽装しているのか解っていない。まあ俺に取っては大した違いは無い。
渚佑子によれば南朝鮮大統領へ北朝鮮から書簡が送られてきており、北朝鮮のトップが例のステルス機を欲しがっていたらしい。あれを使って世界征服でもする気だろうか。
「まあ海上自衛隊の艦船だろうな。タンカーを守るために行動を起したら難癖つける気なんだろうさ。」
護衛など要らないが領海に侵入して来ようとしている艦船は放っておけないらしい。南朝鮮の艦船と相手しながら、自衛隊ともやり取りしなければいけないらしい。面倒なことだ。
「イライラする、こちらからぶつけましょうか。」
コイツ、船に乗ると気が短いな。ハイになる戦闘機よりはまだマシだが人材の配置を間違っただろうか。強引に大統領から送られてきた人材だ。掃除夫をやらすわけにもいかない。
「そのうち、嫌でも何か言ってくるだろうさ。」
「何かされました?」
「渚佑子に南朝鮮を叩けと言ってある。そろそろ連絡取りたくても取れない状況に陥るだろう。見捨てられたと思って逃げてくれればいいんだが。」
「渚佑子さまですか・・・彼女なら徹底的にやるでしょうね。」
アメリカまで彼女の怖さが伝わっているらしい。俺の周囲の人間は口を噤んでいるが彼ならどうだろう。結構、口が軽いから聞き出せるかも。
「俺が居ない間に何かあったのか。知っているのか?」
「ええまあ・・・今、国会議事堂の外壁が崩れていますよね。」
「ああ花崗岩だから崩れやすいとか。まさか・・・。」
崩れやすい分だけ免震構造になっているらしい。昔の建築士は良く考えたものだ。
「CIAから大統領に入った報告書によりますと、貴方が居なくなったと聞いて全て吹き飛ばしてしまったらしいんです。」
俺は考える時間を稼ぎたかっただけなんだが、不安にさせてしまったらしい。
「ああなるほど。俺以上にイライラしている。銀河連邦が攻めてくるのも近いのかもしれないな。」
銀河連邦のことを知る手段は彼女の『知識』スキルしかない。指示は出して居ないが銀河連邦が地球のことをどうするか、いつ攻めてくるかリアルタイムに知ることもできるはずだ。
「もしかして質問してないんですか?」
質問などできるか。明日攻めてくるとか言われたらどうするんだ。
「ああ聞いたら教えてくれるだろうが俺のやる気が無くなる。だから聞いてない。今でも俺が死ぬまでに地球連邦を設立できるかわからんのにタイムリミットを聞いたら、逃げ出すぞ俺は。」
経済を牛耳り、政治を操るには表舞台に立つよりも、裏からのほうが何かと都合が良いのに、俺の周辺の人々は何かというと表舞台に立たせたがる。
逃げ出すのは得意だ。そもそも異世界に召喚されたときだって・・・止めよう。もう昔のことだ。
「近いんですか?」
聞いてないと言っているだろうが。まあ不安になるのは解る。
「渚佑子の様子からすると、すぐというわけでは無いと思うがな。最悪、都合の悪い国を排除するのにどれだけの時間が掛かるか試すのに良い機会なんだ。変な邪魔を入れんでくれよ。」
「それ悪役のセリフですよ。」
「一応正当防衛だ。向こうが何もしなきゃ。こんなことも考えなかったさ。うーん。そうだな。せいぜい組織化されたテロリスト相手に試してみるくらいかな。それには『正義の味方』が必要なんだが俺や渚佑子では役不足でね。」
大多数を助けるために少数を犠牲にすることは異世界では当たり前なんだが、今の地球では考えるだけでも悪役にされる。俺だってやりたくない。
銀河連邦が攻めてきたら、どうやっても誰かがやらなきゃいけない役目なんだ。やれる人間がやるしか無いと思うんだがな。
今のままでは、精一杯抵抗して大多数を殺され、良くて少数が奴隷になる運命か。地球上の全人類どころか全生物が消滅する運命のどちらかなのだ。
「やってきましたよ。」
目の前の南朝鮮の艦船との間に割り込むように船が入ってくる。日本の護衛艦だ。日章旗がはためいている。
ん。前?
『大臣! 山田トム殿。私、本庄2等空佐。護衛任務に着任致しました。』
そのとき、自衛隊側の通信が入った。
ちょっと待て、奴は航空自衛隊の基地司令だぞ。海上自衛隊の護衛艦に乗って現れるんだ?