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第9章-第89話 きしゃかいけんじょう

お読み頂きましてありがとうございます。

「最近の消費動向の冷え込みについて、どう思われますか?」


 財務大臣の定例記者会見だ。最近、大手新聞社の記者は当たり障りの無い質問をしてくれるので簡単に済むのだが、この静岡県に本社がある中日本新聞社の東京地方版の東日本新聞の女性記者が時間を取るようになってきた。


 この質問で9件目だ。いい加減にしてくれと思う。


 いくら平等に質問する権利があるという建て前の記者クラブでも東京で1パーセントにも満たないシェアの新聞社の記者に、こんなに時間を与えてどうするんだか。


 それに的を得た質問ならいいのだが、さっきから質問する内容は下手に答えれば国際的に支障が出るものばかりなのだ。


 この質問も録に調べずに聞いている。事前に配布した資料に答えが載っているのだ。


「もうキミの持ち時間はオーバーだ。それにその答えは配布した資料に載っている。それを書き写して貰いたい。」


「何故ですかっ。終了予定時間にはまだ10分ほど、残っているはずです。私は増加傾向のあった消費が消費税率アップによって冷え込んだとみています。これについて、どう対応されるつもりか聞いているんです。」


 これだ。この記者は、こうやって後出しで質問を追加してくる。そしてこちらがあたかも質問を聞いて無かったと記事にするのだ。その記事だけを見た読者は経緯を知らずに批判の矛先を向けてくる。厄介な記者なのだ。


 この手法で何人もの政治家が的にされSNSで叩かれている。まるで愉快犯だが、それでも僅かずつでも売上部数が上がっているので効果はあるのだろう。


「ちょっと待った。この記者会見はキミの持論を展開する場では無い。」


「表現の自由を侵害するつもりですか?」


 これだ。マスコミは何かというとこの言葉を盾に、どんな場所でもどんな相手でも持論を展開してくる。表現の自由は東日本新聞の紙面で記事にすればいいだけの問題だ。どんどん書いたらいい。どれだけの人間が見るかわからんが。


「キミには権利が無い。私は大臣だ。大臣に対して持論を展開する権利を持つのは国民に選ばれた国会議員が国会で質問に立った場合だけだ。だからキミの持論に対して肯定も否定もしない無視する。それにこの記者会見場で持論を展開するのは威力業務妨害に当たるかもしれんぞ。」


 大臣が持論を展開する人間に個別に対応するのが義務だとしたら、キリが無いのだ。新聞記者だからと言って特別な権利が与えられていると思うほうがどうかしている。一般人と同じだけの権利しかない。


「どういうことですか?」


「解らないのかね。キミの質問が話題になれば、他の新聞社でも扱わざるを得ない。だが、キミは新聞記者だ。他の新聞紙に持論を載せることを半強制的に行わなければならないとしたら、他の持論を持つ新聞社にとって妨害でしか無いと思うんだが如何かな。」


「そんな新聞社などあるわけが無い。」


「そうかな。今度、個別に各オーナーに会って聞いてみるとしよう。」


「三星新聞社と癒着されるつもりですかっ。」


「おいおい大丈夫か。私はキミの持論は無視するが、今の発言は三星新聞社から名誉毀損で訴えられかねないぞ。」


「・・・先ほどの発言は撤回させて頂きます。」


「公的な場所で発言しておいて謝ったら終わりかね。東日本新聞の新聞記者は気楽な商売だな。さあ持論が展開できないことは理解したかね。質問なら受け付ける。」


「・・・ぐっ。・・・今後の消費意欲上昇のための政策は何かお考えですか?」


 初めから、こうやって質問すればいいものを。最近の新聞記者はテレビ番組のコメンテーターか人気芸能人になったつもりなのか良く解らない人間が多すぎる。


「何もしない。」


「どういうことですか、税収も落ち込んでいるのでしょう?」


「税収は上がる。ヴァーチャルリアリティー時空間で支払う料金にも消費税が掛かるからな。それに出生率が上がり、消費者が増えれば勝手に増える。」


 低所得層は増えた時間を利用して、お金を稼ごうとするだろうし、富裕層は積極的に消費してくれるだろう。経済活動は何倍にも膨れ上がる。


「また、それですか。僅かに上向いた出生率でなんとかしようって甘いんじゃないですか?」


 これだ。まるで友だち関係のような喋り方、今が記者会見の場であることを忘れているようだ。


「さあな。段階的消費税率上昇法案は通ってしまったから、子供を産むしか国民に選択肢は無いんだ。」


「それはどういうことですかっ。」


「20年後に出生率が2に満たなければ、引き続き消費税率は上がっていく。法案も見ていないのか。もっと調べてから質問するんだな。」


 ちょっとでも子作りをサボれば沢山の税金を払う法律なのだ。


「それって強制。子供を産まなければ税金を払うためだけに働き、老後も働き続けて、病気になっても高い自己負担が払えず死ぬしかないなんて。」


 おっ。意外と詳しく調べているじゃないか。


「キミもさっさと結婚して子供を沢山産んで、楽に老後を暮らしてくれ。」


「それはセクハラですよ。」


「いいや違う。これからは男性も子供を産める時代だ。子供を産むことに性差は無い。キミこそ、性的差別が染み付いているようだな。」


「なんですって!」


「臨床試験段階だがな。もう妊娠が数例報告されている。一番最初は餅田良夫さんだ。出産に成功すれば記者会見を開くからキミも来てくれ。」


「そんなっ。ヤツに子供ができる。拙いわ。拙いわ。拙いわ。」


「へえ。そう言えば同じ苗字だね。もしかして旦那さんかな。それは頑張って育ててくれよ。」


「イヤー止めて! そんなの無いっ。」


「じゃあオチもついたことだし、これで記者会見を終わる。」


 あースッキリした。これで一躍有名な新聞記者だ。本望だろう。


     ☆


「あれって偶然ですか?」


 最近、秘書役を頑張っている渚佑子が記者会見が終わったあと確認してくる。


「そんなわけ無いだろう。臨床試験の被験者をLGBT団体を通じて探していたら、向こうから立候補してきたんだ。」


 流石にゲイの夫婦でも出産には二の足を踏むらしく音沙汰は無かったのだが、資金援助と冷凍精子提供を条件に立候補してきた。


「ゲイいやバイセクシャルの旦那さんだったんですね。」


「それがどうも違うらしい。僅かに性同一性障害のケはあるらしいが、本当に子供が欲しかったらしい。」


「奥さんに産んで貰えばいいじゃないですか。」


「子供を作る条件で結婚したらしいんだが、いざ結婚したら、エッチするのは年に1回か2回で放置されたらしい。浮気すれば仕事で知り合った弁護士に頼んで多額の慰謝料を要求すると脅して、離婚もさせてくれなかったらしい。可哀相だろ。だから徹底的に叩いてやった。」


 LGBTなどの性少数者差別的発言を弱小とはいえ新聞記者がするわけにもいかないだろう。表面上は仲の良い夫婦を演じるしかないわけだ。


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