第9章-第82話 くっしょん
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「なんですか。この壁の気泡は。まさかウレタン?」
格納庫から魔法の袋を取り出し、傍の螺旋階段をゆっくりと上がっていく右手には戦闘員のための船室があり、左手には分厚い壁がある。
「凄い。良くわかったな。」
壁には、所々に穴があり気泡が見える。明らかに柔らかそうな物体だ。それは見た目だけでかなり硬いのだが。
「ええっ。本当にっ。」
自分で正解を言って驚くなよな。
「軟質ウレタンフォームの製造過程にミスリルを混ぜ込むことで、反発速度が1万分の1の低反発フォームが出来上がったんだ。今、話題の素材なんだぞ。」
「何処で話題なんですか? 聞いたこともありませんでしたよ。」
カーディーラーでは話題になっているらしい。まあ数千万円はする最高級車種のディーラーだから一部の富裕層しか知らない、でも売れているらしい。
でも、オカシイな。売り込みの時に自動車工業会の会長へアポを取って貰っているはずなんだが、自社の製品に対する予備知識とか秘書には要らないのだろうか。
「時速150キロメートルで壁に衝突しても席から投げ出されないんだ。それに熱伝導性能はゼロ。太陽の傍まで行っても内部の温度は変わらないんだぞ。各自動車メーカーの最上位機種にはオプションで選択できる。」
外宇宙を航行できるシロモノを造ろうとしていたのだ。第2次改造時には宇宙に行ける推進能力を絶対に付けてやるぞ。
「そんな凄いものなんですか。でも何故最上位機種だけなんですか? もっと広範囲な車種で売れそうなのに。」
高いのだ。一般車種を扱うカー雑誌では高すぎると叩かれている。だが建前上、金持ちにしか売れないなんて理由では誰も納得しない。
「時速150キロメートルで壁に衝突すると最上位機種じゃないと前面ボディが運転席を押し潰すそうだ。自動車メーカーの安全性もいい加減だな。それに高いんだ1シート2000万円以上するらしい。」
まあ日本の道路事情では時速150キロメートルもスピードを出せないのだが諸外国では違うらしい。
シートメーカーへの卸値で200万円程度だ。カバーが一般的なものならもっと安く作れると思うのだがプレミアがついた素材ばかりをつぎ込んだものになっていて高くなっているらしい。
「ということは、この壁の低反発フォームは幾らなんですか?」
「この壁だけじゃないぞ。タンカーの外周部には1メートル幅で接着されている。そうだな原価ベースで100億円くらいかな。」
「ちょっと待って下さいよ。このタンカーはオリハルコン製ですよね。」
「ちがーう。いや違わないのか。防弾スーツと同じもので出来ている。」
「ええっ。防弾スーツって繊維ですよね。」
「もちろん、水も空気も通さないけどな。」
だから宇宙服にも採用されている。
「オリハルコン製ならば魚雷の直撃を受けても壊れない。クッションなんて必要無いんじゃないんですか?」
「総オリハルコン製の船か。市場価格で日本の歳出を全部注ぎ込んでも無理だ。それにある一定の大きさの板しか製造できないんだ。継ぎ目や骨格には他の金属を使う必要がある。攻撃を受ければその金属が金属疲労を起こして壊れるだろうな。」
機密情報の塊なのだ。売り物にしようなんて気はさらさら無い。こんな船を何処かの国に使わせたら戦争を起こしてしまうだろう。
「それで防弾スーツなんですか。」
「防弾スーツには致命的な欠点があって、どんな弾丸も通さず弾くが衝撃の吸収力は悪いんだ。数百発の弾丸を喰らえば青痣が出来てしまう。だからHPポーションを染み込ませた使い捨てのインナーを着て貰うことになっているんだ。」
まだまだ生産能力は低いがコモンのHPポーションならばフィールド製薬で製造できるので1着1万円の使い捨てインナーを販売している。それをこの低反発フォームを使用した恒久的に使えるインナーに置き換えようと思っているのだが上手くいっていない。
「インナー・・・臭そう。」
価格が高いこともあるだろうが発汗の揮発能力が悪いらしく蒸れる。それに臭いなどが付着しやすく洗濯すれば消えるのだが、着回しができないことが問題らしい。
「良いどころを突いてくるな。その辺りはトモヒロくんに依頼中だ。」
この辺りはトモヒロくんと共同で設立した合弁会社が担当してくれるらしい。この会社はユニセクシャルの服を製造している会社でインナーにも拘りがあるらしい。心強い限りだ。