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第8章-第73話 きょうくん

お読み頂きましてありがとうございます。

「えっ。どういうことですか。浜々原子力発電所は全て運転停止中。しかも1号機は廃炉になっているはずじゃ無かったんですか?」


 東北大震災で福島原発事故が発生したとき、当時の内閣が全国の電力会社に原子力発電所の運転停止を指示し、その後の調査で安全性が確保されないという理由で浜々原子力発電所は運転停止中のままになっている。


 それに耐震工事に掛かる費用により採算が取れないと判断された1号機と2号機は廃炉になっているのだ。


「使用済み核燃料が入ったままになっていたらしい。」


 しかも廃炉にするからと停止中にも必要な耐震工事も行わず、津波対策も十分に行っていなかったらしい。東北大震災の教訓が何も生かされていなかったのだ。


「そうすると、今も放射能漏れが続いているということですか?」


 福島原発事故の程では無いが放射能が漏れているらしい。


「そうだ。すでに半径2キロメートル以内には避難命令、10キロメートル以内には屋内退避命令、安定ヨウ素剤の配布が始まっているらしい。中京電力本社に向う。」


 当時の政権とは党が違うが政府の対応には教訓が生かされているようだ。

















「井筒さん。ご足労頂きありがとうございます。それで放送枠は取れましたか?」


 スターグループのオーナーである井筒さんと中京電力本社前で待ち合わせをしていた。


「ええもちろんです。一星テレビ系列のサブチャンネルの放送枠を全て押えました。」


 既に中京電力本社前には、放送車が横付けられ、井筒さんとテレビクルーが待機していた。


「では行きましょう。」


     ☆


「どういうことですかな。テレビ局が入るなど聞いてない。」


 テレビクルーと共に中京電力に入ると社長が待ち構えていた。原発事故を起こしたとは思えないほど威圧的な態度だ。


 ファーストコンタクトからテレビ局を介在させたのは訳がある。福島原発事故では、東京電力の拙い情報伝達や社長の含みのある発言で当時の日本政府が右往左往させられている。しかも最終的には東京電力の責任さえも日本政府に押し付けられてしまっているのだ。


 あくまで政府は最低限の安全対策の基準を設けているだけであり、さらなる安全対策が必要であるか否かは民間企業である電力会社の裁量によるところが大きいのである。電力会社グループ会社全体で毎年莫大な利益を生み出しておいて、余力が無いだなんて呆れ返ることを言ってのけるのだ。


 今回の事故も廃炉決定後、低温保存されていた使用済み核燃料をさっさと廃棄処理していれば問題無かったはずなのだ。それを莫大な処理費用が掛かるからと原子炉内に放置していたというから、呆れてモノも言えない。


「貴殿の発言は貴殿に責任を取ってもらう。誤解をさせるような発言や含みを持たせた発言などを言って貰っては困るのだ。現段階では1号機から放射能に汚染された冷却水漏れとお伺いしている。本来ならば電力会社の自助努力の範囲内だと思うのだが如何かな。」


 そもそも日本国民は国会議員を超人か何かだと勘違いしている節がある。突然、発生した原発事故に対して大学教授並みの専門性を要求するのだ。周囲の専門家が付け焼刃式で教えたとしても絶対に無理だ。従って、政治家の発言というものは、いい加減で大雑把なものにならざるを得ない。


「そんなっ。津波によって全電源が喪失しているんだ。電源車の輸送も渋滞で遅れが生じている。自衛隊や在日米軍への依頼など日本政府にお願いしなければならないことが多いんだ。」


 津波によって静岡県の沿岸部は甚大な被害を受けており、多くの死者を出している。動ける人々は知人を頼りに近県に移動し始めており、幹線道路は慢性的な渋滞状態なのだ。


「国民の皆さん。特に愛知県、静岡県の皆さん。聞いた通りだ。主要幹線道路から車をすぐに移動させて頂きたい。よろしくお願いします。」


 俺はテレビカメラに向って頭を下げる。福島原発事故で一番教訓を得なければならない電力会社がこんな状況なのである。国民たちもどう対応すれば良いか全く解らないに違いない。こういうときはトップダウン式で一番必要なことを広く伝達するのが一番なのだ。


「それでは足らない。早く早く対応を。」


 これだ。何もこちらに情報を与えず判断を迫ってくる。間違えれば政治家に責任を押し付けようと目論んでいるようにしか感じられない。


「それで全電源が喪失したのは、冷却水漏れが発生している1号機だけなのか。発電所全体なのか。貴殿から通報された1号機だけならば、そこまで慌てないはずだが。」


 福島原発事故のときでさえ8時間分のバッテリーで補っていたのだ。国の基準も変更されており、バッテリーだけで数日持つはずだ。さらにディーゼル発電機を設置済みなのである。


「いや・・・その・・・。」


 これだから嫌なのだ。含みを持たせた発言で政府を惑わせてどうする。


「では発電所全体なんだな。」


 既に渚佑子の『知識』スキルで社長への報告書文章を入手しており事故の全容は掴めている。嘘や含みを持った発言さえしなければ、全面的に任せるつもりだった。


 火急の緊急事態に、このような発言をする輩に現場の指揮権を与えるわけにはいかないようだ。


「そ、そうだ。」


 社長は汗をハンカチで拭きながら答える。


「今の発言で国民の貴殿の信頼は失墜したと思いたまえ。これ以上嘘を吐かれては困る。現時点から中京電力の一時国有化を宣言する。民間企業に戻れるか否かは中京電力の職員の努力如何による。以後の指揮命令権は首相より原子力災害対策本部長を拝命したわたしが執る。」


 すでに国有化の議論は内閣で話しあわれており、電力会社による誤魔化しなどが発覚した場合の条件付きで野党各党にも了承を貰っているのだ。ヴァーチャルリアリティー時空間内で政策秘書たちに任せてきた法律案を国会で審議、通してもらう手はずになっている。


 東京電力の件があり、骨子は出来上がっている。あとは中京電力向けに肉付けするだけだ。


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