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第8章-第72話 れすきゅう

お読み頂きましてありがとうございます。

「これは酷いな。」


 松阪から北上しながら、市役所と民主政治党の事務所を訪問していく。三重県辺りは最大でも震度4強ほどらしく棚の上のモノが落ちてきて怪我人が出た程度だった。


 しかし、木曽川を越えた辺りから震度5を記録しており液状化現象が発生していた。名古屋港の工業地帯の被害は深刻だった。


 さらに北上し、名古屋駅周辺の高層ビルは免震構造になっていたため、倒壊は無かったものの、全面ガラス張りの建物が多くガラスが降り注いだ跡が残っていたのだ。


「酷いですね。どうして、こんな建物を建てるんでしょうか。」


 一際、酷かったのは奇っ怪な形のビルだった。周囲をガラスでUの字に囲うようにされており、しかも斜めに鉄骨が組まれた建物だった。


 赤黒い血痕が夥しい数にのぼっていることから、多くの人々がガラスの下敷きになったのだろう。


 鉄骨が支え合う構造らしく、ビルの真ん中辺りの鉄骨が錆びて突き出したため、全体の強度が落ちガラスを支えきれなかったようだ。


「当時、名古屋はデザイン都市と標榜していたからな。建てるときの強度だけで設計されたんだろう。」


 メンテナンスしようにも普通足場は曲線構造に対応出来ないのだ。専用の足場が必要でメンテナンス費用も高くつきそうだ。どう考えても完璧なメンテナンスは望めないに違いない。


「あそこに人がっ。」


 目を背ける光景に移動しようと歩き出したところで、渚佑子が瓦礫の中に人が居るの発見した。


「待て。」


 俺は瓦礫を退けようとする渚佑子を制止する。渚佑子の大きな声に反応したレスキュー隊の隊員が近寄って来たのである。


「これは大臣。どうかされましたか。」


 俺の顔を確認すると直立不動の態勢になった。今にも敬礼しそうだ。


「この瓦礫の下に生きている人が居るんだ。助けてやってくれないか。」


 俺の指輪の『鑑』にもシムラカトという名前の人間が居ることが解っている。これが死体なら単なる死体と認識されるはずだ。


「ああ確かに服らしきものが見えます。ですが鉄骨に直撃されたんでは生きて無いと思いますね。我々も忙しいので後で処理しますよ。」


 このビルには取り残されている人間が居るらしい。生きている人間が優先というのは解るが瓦礫の下の人間も生きているのだ。どう考えても、こちらのほうが緊急性が高い。


「解った。俺がやる。」


 鉄骨に手を掛けようとした途端に制止が掛かる。緊急性が高いんだっ。


「ちょっと待って下さいよ。人の力で持ち上がるもんじゃ・・・。なにっ。あ、危ないじゃないですか。」


 煩いな。手伝う気が無いんだったら、退いていろよ。渚佑子と2人で鉄骨を持ち上げて、レスキュー隊員の傍に放り投げた。


「渚佑子。コレを着けろ!」


 俺は自空間からオリハルコンの布で織った手袋を手渡した。もちろん俺も同じモノを装着する。これで手を切らないはずだ。


「何ですかソレは。」


 俺たちが無造作にガラス片をかき分けていくとしつこく聞いてくる。


 本当に煩いな。どう見ても手袋だろう。ペラペラだけどな。同じ薄さの布手袋なら間違い無く掌がズタズタになっているだろう。


 レスキュー隊員の手元を見ると分厚い手袋だ。碌にモノも掴めなさそうだ。


 ようやく身体が見えてくる。頭から首の周囲のガラス片を丁寧に取り除くと、少々強引に身体を起たせた。


「ほらしっかりしろ!」


 手袋を自空間に仕舞い、軽く頬を叩く。


「此処は・・・。」


 一瞬だが目を開けたがすぐに意識を手放してしまう。出血量が多いようだ。レアのHPポーションを取り出すと無理矢理飲ませると息遣いが穏やかになった。これで大丈夫だ。


「お前、何をしているんだ。」


 顔を上げるとレスキュー隊員がスマートフォンを構えて、写真を撮っていた。俺の会社でも深夜の暇な時を除いて業務中にスマートフォンを操作することを禁止している。


 拙いな。写真を撮られた。シャッター音からするとポーションは撮られていないだろうが、これで身体表面に付いた切り傷は治してやれなくなった。すっかり綺麗に治っていたら不審がられるに違いない。


「スクー・・・いや記念に・・・。」


 今、スクープと言い掛けなかったか。いくら何でも勤務中に撮った写真をSNSに投稿なんぞしない・・・と思いたい。公務員がそんなことをすれば懲戒免職を食らうだろう。


 バレなければいいと思っているのかもしれないが、写真画像には撮影日時、SNS投稿には投稿日時が記録されており、投稿が拡散すればするほど投稿者が身バレする可能性が高いのだ。時にはものの1時間で投稿者の名前が拡散してしまうらしい。


「お前、ボランティアか。」


「そ、そうなんてすよ。」


 そんな重装備のボランティアがいるかよ。SNSに投稿してクビになったとしても自業自得だ。私人としても公人としても庇う余地は無い。


「まあいい。ボランティア頑張れよ!」


 俺はそう言い残すと渚佑子と共に愛知医大病院まで『移動』し、彼を救命チームに引き渡した。あのレスキュー隊員は信用出来ない。















「何だと!」


 名古屋市役所に向かう途中で、首相から彼の持つ指輪の『送』から合図が送られてきたので、スマートフォンで連絡を入れたところ驚くべきメッセージが返ってきた。


「どうかされたんですか? 顔が真っ青ですよ。」


 思考が追いつかず呆然と立ち尽くす俺を心配してか渚佑子が覗き込んでくる。


「津波の影響で静岡県の浜々原子力発電所の第1号機で格納容器がひび割れしたらしい・・・そんなバカな!」


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