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第7章-第65話 ぎんこうはたん

お読み頂きましてありがとうございます。

 その時だった。トシヒコくんのスマートフォンから警報音が鳴り響く。


「あれっ。千葉房総銀行本店前に集合?」


 トシヒコくんがスマートフォンを開き、メールを確認する。財務省からの緊急メールだったらしい。


 実は今地方銀行が危ないのだ。企業に融資するよりも右肩上がりだった株式投資に偏った銀行では日経平均株価が大暴落した際に随分と赤字を出している。特に首都圏の地方銀行は大手都銀よりも高い金利で預金を集めていたから、破綻するのも時間の問題だった。


「緊急呼び出しのようだな。送っていこう。」


 土曜日だろうが日曜日だろうが銀行破たんは突然やってくる。事前に金融庁に知らせておけば良いものを銀行はギリギリまで隠し続けるのだ。


 そのため、金融庁の職員のみならず、内閣府から財務省の手隙の者まで呼び出される。トシヒコくんは形式的に財務省に所属しているだけなので本来呼び出されるはずは無いのだが、猫の手も借りたいほどの騒ぎになっているのだろう。


     ☆


「なんだね。その格好は! しかも酒臭いっ。」


 渚佑子を背負い、千葉房総銀行本店前まで『移動』魔法を使い、周辺まで送っていくとトシヒコくんが上司に突然怒鳴られた。


「俺が送ってきた。緊急呼び出しをしておいて、その態度は無いだろう。」


 トシヒコくんはトランスジェンダーとして公表している。官公庁で女装はしていないようだが上司たちも認知しているはずなのだ。今の態度は十分ハラスメントに該当する。


「なんだ貴様・・・だ、大臣。」


 俺が顔を出すと威圧的な態度がコロリと腰が低くなる。こんな社員が俺の会社に居れば、間違いなく窓際行きだ。財務大臣兼金融担当特命大臣になったからといって、職員どころか官僚トップの人事権も握ってないのだ。別に媚諂う必要は無い。


「それどころじゃないんだろう? とうとう破綻したか、随分持ったほうだな。」


 それでも不快な態度を示すと脇にいた金融庁の職員が間に入ってきた。


「それが中に入れる入れないで押し問答になっていまして、警察庁出身の彼に来て頂いたわけでして。」


 トシヒコくんの顔が曇る。公安調査官は元の省庁に籍は残っており、いずれ昇格し戻ることになる。トシヒコくんは第2種国家公務員試験で警察庁に入庁した準キャリアで巡査部長だったはずだ。


「貴様もその態度を改めろ。内閣府の人間なんだから俺が国会で通そうとしている法案を知らないわけじゃないんだろう? 見た目は大柄な男性だが中身は女性なんだ。男性の役割を押し付けてはいけない。仕方が無い。私が行こう。」


 トランスジェンダーと公表していても、あらゆる場面で男性としての役割を押し付けられ、嫌な思いをする。公表する前は計り知れないくらいの嫌な思いをしてきたに違いない。


「私は大丈夫です。大丈夫ですから・・・。」


 1人称が変わった。これが本来のトシヒコくんなのだろう。


「それならば一緒に行こう。」


 既にマスコミも破綻を掴んで待ち構えていた。深夜にさしかかろうというのに周囲から眩しいくらいにフラッシュが焚かれる。しまったな。女装姿のトシヒコくんが明日の1面記事に載ってしまうぞ。仕方が無いか。


 1面のタイトルは『女装官僚とオカマ政治家』かな。笑うしかないな。


 俺たちが千葉房総銀行本店の玄関に乗り込むとあっさりと扉が開く。どうやら観念したらしい。とにかく受け皿銀行を探して月曜日の朝までに破綻処理を済ませなければ、取りつけ騒ぎに発展してしまうのだ。そうなれば内閣の体面を失ってしまう。


 俺が財務大臣兼金融担当特命大臣に就任したときに渚佑子の『知識』スキルで破綻が迫る銀行の洗い出しは済ませており、事前にZiphone銀行といなほ銀行に調べさせているので、どちらかの銀行を合併相手として指名すれば良いのだがしたくない。それほど千葉房総銀行は内情が悪いのだ。


 できれば一時国有化した上で不良債権に公的資金を投入し、正常な金融債権のみを譲渡させたいところである。


「貴様。何しにきた!」


 頭取室に通されると頭ごなしに怒鳴りつけられた。


「もちろん、この銀行を潰しに来たのさ。頭取や創業家の皆さんの資産を全て差し押さえさせて頂く、それでも随分足りないがね。」


 既に内閣では預金保険法の資本増強の対象銀行と決定しており、100倍増資をさせた上で99パーセントの株式を国がゼロ円で引き取ることになっている。


「ふざけるな! 貴様のおかげでこんな騒ぎになっているのに全てを取り上げるつもりかっ。」


 確かに日経平均株価が大暴落したのは俺の所為と言えなくもないが、地方銀行のくせに多額の預金集めを行い、本業の企業融資を行わず、株価に頼った運用を行ってきたツケが回ってきただけだ。


「国がな。正常債権だけでもグループで引き取って助けてやろうかと思ったがヤメタ。連鎖破綻でもなんでもしてくれ。どうせ公的資金を投入しなければならないのなら、一気に破綻してくれたほうが手間が掛からないからな。」


 この創業家の縁戚にはまたまだ破綻しそうな銀行が沢山繋がっているのだ。長期に渡る資産凍結に発展すれば、他の銀行へ波及し連鎖破綻も免れまい。


「わ、わかった。」


 俺がそう言うと頭取はガックリと肩を落す。


「それから金融商品取引法第166条違反の疑いもあるから、刑事罰も受けてもらうぞ。」


 この銀行では短期的融資の内容で企業の赤字転落を探り当て、空売りを繰り返し利益を得ていたというのだ。こんな明らかなインサイダー取引を放置して、俺のような民間人を槍玉にあげる。まだまだ護送船団方式の悪癖が残っているのかもしれないな。


「悪いがトシヒコくん。ここは班長として活躍してもらうぞ。その手柄をもって警部補に推挙しておくから、頑張ってくれよ。」


 実は俺の会社に身売りしてきた千葉県内の企業の中にこの銀行からいなほ銀行にメインバングを変更した際に異常な短期的資金融資の実態が明らかになったのだ。


 それによると株式公開を果たしている企業への融資としては異常な低金利で1ヶ月単位で企業の要求通りしていたらしい。そうなれば、明らかに企業収支が悪化しキャッシュが不足しているときには多くの融資が必要で、収支が良くキャッシュが不足していなければ、融資は不要というわけだ。


 翌朝の朝刊には予想通り、俺とトシヒコくんが千葉房総銀行に乗り込んだところが1面トップに掲載されていた。流石に遠慮したのかオカマ政治家とは書かれなかったが、トシヒコくんの経歴がデカデカと掲載されていた。


 これでLGBTが何処にでもいる存在として認知が進んでくれるといいんだがな。

トシヒコサイドの話。ムーンライトノベルズ「女装Gメン ~新たなる戦い~」を投入しました。

R18。ボーイズラブ作品となりますのでご注意ください。


尚、R18作品への直リンクは禁止事項となりますので実施致しません。

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