第7章-第59話 多様性国家
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「しかし、マスコミというのは困った存在だな。国会議員に当選した途端、掌を返してくる。奴らはこちらが反撃するとは思わないのか?」
財務大臣就任の記者会見で消費税増税を含む大幅な税制改革を行うことを発表したのだが、新聞週刊誌各誌ともに大幅に紙面を割いて、ネガティブキャンペーンを仕掛けてきたのである。
改革内容は独身世帯が重税感が強く、夫婦世帯で所得税減税、子育て世帯は育てている子供の数により、支払った消費税が還付される仕組みになっている。
同時に健康保険制度も見直す予定で、成人した子供が保険金を支払っていれば、その人数により、自己負担割合が減る。5人以上いれば、自己負担ゼロだ。
現在は結婚して子供が出来ると生活が苦しくなり、自分自身に投資できなくなる。そのため結婚しない人間が多い。その感情を逆手に取り、結婚しないと生活が苦しくなり、子供ができれば更に生活が楽になる。そして多くの子供を育て上げれば老後の心配をせずに済む制度にするのだ。
この改革により、少子高齢化は改善されていくだろうが、改革開始後生まれた子供たちが成人するまでに20年掛かるため、外国から労働力を補充する必要があるのだ。年0.5パーセントずつ最終的に10パーセント消費税を上げて補填する計画になっており、20年後に労働者人口の増加割合に応じて見直す予定である。
問題は夫婦世帯に入れない人間が居ることだ。いわゆる性少数者と言われる人々である。
少数者といわれているが、最近の調査では5パーセント前後居ることが解っており、秘密にしている人々を加えると10パーセント以上いると言われている。
これらの人々も大切な労働力であり、できるのであれば子供も産み育てて貰いたい。そのために婚姻と同様に扱うことを定めた同性パートナー制度と性差別に対して企業への行政指導を含む厳罰化を同時に施行することを定めている。
具体的には性的少数者を理由も無くクビにした場合や採用しなかった場合、改善されるまで青色申告できなくする。しかも、クビにした理由や採用しなかった理由が正しいことを企業側に証明責任を持たせることで、別の理由があったかのように装わせることを防ぐのである。
これだけの改革を断行しようとしているのに、紙面には『山田トム議員はやはりオカマだった』とか、人口の割合からいえば性少数者の100分の1にも満たない『子供を産めない女性への差別だ』とか国の運営というマクロで考えるべきところをミクロの視点でつついてくる。
古今東西、日本のマスコミの特徴と言っても過言じゃなく。さもそれが大部分の人々の考えであるかのようにして、多くの人々が何年も掛かって考え抜いた法案を議論も無く潰しているのである。
「でもゲイやビアンって、子供を作れないんですよね。社会に組み入れても仕方が無いんじゃないですか?」
ここにも1人解ってない人間が居る。
「千代子。あのな、生まれたときから同性愛者というのは性少数者の中でも極少数なんだ。下手をすると結婚して子供を作り、結婚相手への無理解から同性愛に目覚める人もいっぱい居るんだ。そういった人々も血を分けた子供への愛情は全く別モノだと言っていたぞ。」
選挙期間中にLGBTを支援する団体の話を聞いたし、知り合いの当事者にも聞いたことがある。俺のアキエへの愛情もそうだ。元妻から血が繋がっていないと告げられたときにはショックだったが、変わらず愛情を感じていた。それが嘘と解った今はさらに深い愛情を注いでいるつもりだ。
「その極少数の同性愛者に同性パートナー制度で結婚して頂いて、特別養子縁組制度で子育てをして貰うんですね。」
「もちろん、そうだ。出来るのであればもう1歩2歩踏み込んだものにしたい。」
制度としては特別養子縁組の裾野を同性パートナーと独身者にまで広げるつもりだ。子供が成人する240ヶ月のうち、一定額以上の生活費を補助できた期間に応じた割合で健康保険の自己負担額が変わってくる。
「えっ。他に展開があるんですか?」
「ああ、両方に精神的苦痛を負わせてしまうが性転換の魔道具を使う。」
同性パートナー制度で結婚できるだけの愛情を相手に注げるならば、相手が異性に変化しても相手を愛せるはずだという無茶振りである。
異性化し妊娠し、させて子供を産む。それが同性愛者にどれだけの精神的苦痛を伴うか、俺には全く想像は出来ないが、それ以上に血を分けた子供への愛情を注ぐ幸せがあると説いていきたいと思っている。
「あの教団が開発し、奴隷制度の根幹になっている魔道具ですか?」
元々は魔族を拘束するために異世界の勇者が開発した魔道具で、その魔道具を付けると女性化しHPもMPも一般女性の初期値になるものである。
その魔道具を長年掛けて改造し、女性化せずに筋力などの値も初期値になることで奴隷が抵抗できないようにできるらしい。
「ああ渚佑子によると女性化は簡単に有効にできるらしく、女性が魔力を投入することで男性化も可能らしいんだ。」
教団の極秘文書の中に取扱説明書があるそうだ。
何のために男性化の機能まで加えたのか解らないが、当時の勇者もこちらの21世紀の人間らしいから、変に男女平等に作っただけかもしれない。
「それを一般に販売するんですか?」
アホな質問をするなよ。そんなことをすれば、自分の快楽のために使おうとしてくる人間がきっと出てくる。爆発的に売れるだろうが、人々の性自認が混乱するだろう。人類総性少数者になっても不思議じゃない。人間は快楽のためなら、なんでもやってのける動物だからだ。
「同性パートナー制度を利用する人々相手に限定的に提供するだけだ。」
まあ噂が広まれば、トランスジェンダーが同性パートナー制度を利用するかもしれないが、それはそれで子供を産み育ててくれるならば願ったり叶ったりだ。
「しかし、そんなに上手くいきますか? 性少数者は5パーセントしか居ないわけでしょ。同世代で好みの相手と結婚できる割合なんて、一般人の5パーセントですよね。」
性少数者全体からすると5パーセントだがビアンはビアン同士、ゲイはゲイ同士しか相手が居ないわけだから、もっと確率が低くなる一般人の100分の1くらいと予想している。
「信じられないかもしれないが。そういった性超越者を好きだという普通の人々が結構な数、居るらしいんだ。」
ゲイを好きな男性をゲイと呼ぶか呼ばないかは議論があるらしいが、一般男性の5パーセント、一般女性の10パーセントは同性愛者との恋愛ができるらしい。
バイはそもそも両性愛者だから異性と結婚できるし、選択肢が2倍に増えることになる。
トランスジェンダーの性的指向は別モノだ。
「社長って、そういうことは疎いと思っていたのに、何処から仕入れてくるんですか? そんな知識や情報。」
「まあいいじゃないか。それ以上はプライバシーに関わることだ。」
「あっ。解った。チヒロくんですね。最近、元官僚の方々とヴァーチャルリアリティー時空間を利用していると思ったら、そんなことを議論していたんですね。」
大昔、料亭という密室で日本の行く末を決めているという批判があったが、今はヴァーチャルリアリティー時空間という密室の中で潤沢な時間を利用して、日本の行く末を決めているのである。
それもアドバイザーは16歳の少年。いや『男の娘』という、近々女優デビューする人間であることは誰も知らなくていいことだ。
この物語では少子高齢者問題を扱ってきましたが、今回主人公が行なう税制改革もその一環です。
損得勘定一切無しの理想論なので現実世界ではまず無理ですが、独裁者になりつつある主人公なら可能かな。
今後現実世界で少子高齢者問題がどのような経緯を辿るのか興味あるところですが、子供が生まれ労働者人口となるまでには何十年という多くの時間が掛かり、すぐには成果が出ないのだという事実だけでも伝わればと思っています。




