第6章-第58話 じばく
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「オカマ野郎がっ!」
選挙戦の最終日。つまり投票日の前日の夜は一星テレビの討論番組が行われている。
参加者は党の代表だったり、幹事長だったりしたのだが、何故か民主政治党の代表として俺が呼ばれていた。
それも頷ける。議題がヴァーチャルリアリティ時空間に関してのことだったからだ。
いまさら感も強いが、それだけ真面目に取り組まなくてはいけないことに気付けたというだけでも進展があったと言うべきだろう。
参加者からの質問に対して真摯に答えていたのだが、どこの世にも気に入らないと思う人がいる。
始めはイジワルな質問が多かったのだが、真摯な第度が功を奏したのか和やかな雰囲気に包まれていたのが気に入らないようで、その人物だけがイジワルな質問を続けていたのだ。
そして大抵は俺の人格を害するような言動を吐いてしまった。
だが場所が悪かった。テレビの生放送番組で、このような失言をしてしまえば、傷つくのは吐いた人間の人格だ。
慌てて口を塞ぐが、もう遅い。
「大野木さん!」
司会者も慌てたように制止する。
そういえば、民主政治党の幹事長だった時代からこの人は失言が多かったな。数日後、世論の反応をみて大きな反感を食らえば訂正するのが常だった。だが明日は選挙日だ。
「貴様はトムだけでなく私の人格も傷付けた。報復するから、そう思いたまえ。そうだな。我が国、および同盟国への入国を拒絶する。」
その場に突然現われた人物が会場内が騒然とする中、厳しい口調で言い放った。
なるほど。突然アメリカ大統領からキャンセルが入ったと思ったら、この番組に出演するためだったのだな。たとえこの場所が高層マンションにある一星テレビのスタジオだからって、気軽に現われるなよな。
「な、内政干渉だぞ。」
アメリカとその同盟国に入国できなければ、彼の外交的政治生命は終わりだ。共産圏に強いパイプを持っている強みも活かせない。
どこに、そんな気力が残っていたのか。言い返す。
「ほほう。我が国の宇宙軍の中心人物たるトムを拘束した国の政治家のくせに。良く吠える。トムを拘束した人物との繋がりも深い。これだけでも十分なのに、私の名誉まで毀損しよる。だがこれまでだ。私の視界から、ご退場願おう。」
黒幕の側近は全て渚佑子により排除されており、関係性が希薄な政治家だけが残っている状況だ。その中でも一番黒幕に近い政治家が彼だった。
まあキャリア官僚出身の政治家の大半が黒幕と関わっていたことまで調査済みである。
どうやらアメリカの調査機関も掌握していたようだ。
「くそっ。この尻軽男め。これで済むと思うなよ!」
俺へ向き直ると罵声を浴びせてスタジオを出て行った。その一部始終が生放送として流れていることさえも沸騰した頭では考え付かないようだ。
結果は火を見るよりもあきらかだった。
日本の特性上仕方ないのかもしれないが、都市部では民主政治党が大勝利で農村部では地盤を持つ政治家が生き残った。
大野木もその1人で彼の設立した新々党は彼を除き全員落選、側近だった沖縄県知事だけが国政に出馬しなかった所為で生き残った。それも次期沖縄県知事選挙では、在日米軍の縮小に伴う補助金の縮小で落選すると言われている。
まあ『金も欲しい米軍も減らせ』という国政かるすると理不尽な彼の主張はグァム島のアメリカ宇宙軍創設により、片方だけ叶えられたわけである。




