第5章-第41話 じじょう
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侍女が2人エアコンの前に陣取っていた。しかも手には掃除道具を持っている。
「あの~、掃除終わったのですか?」
「あ、いえ、そのう・・・。」
「はい、終わりました。」
そう言ってそそくさと逃げていった。まったくもう・・・。まあ、部屋の中はそこそこの温度に下がっているからいいけどね。
「それで、マイヤー?俺が初恋って、どういうことか話してごらん?」
「あの、その・・・。まずは、私がこの国に来たのは成人して間もない35年くらい前なの。」
うん、計算がいきなり合わない。
「・・・エルフは40歳が成人?」
「そう、解りにくくてゴメンね。陛下が言った通り、この国とエルフの国が友好を結ぶために遣わされたのよ。王族とエルフとの間で子供ができたら、その子供は長生きする。その子供が国王になれば長期安定してチバラギ国にとっても得だし、エルフの国と敵対することも無くなるからって・・・。」
「たとえ、国王にならなかったとしても、それだけ長い間、国に貢献してくれるだけでも心強いよね。」
「それで、あなたのお父様の皇太子の側室に入るつもりだったのだけれども正室を愛しているからと拒否されてね。実は貴方の側室になることが、内定していたのよ。一度だけど、貴方とも会ったことがあるのよ。覚えていないでしょうけど。貴方は優しい言葉を下さったわ。その時、一目見て惚れちゃったのよね。5歳の子供に、恥ずかしいけど・・・。」
あとの筋書きは、およそ見えたけれど、口は挟まない。
「そのまま貴方のお父様が国王になれば、よかったのだけどクーデターが起こり、あの男が国王になったわ。今度は私に手をだそうとしてきたの。私は当然拒否したわ。こんな男のモノになるくらいなら死んでやるって、川に身を投げたわ。」
ドキっとする。彼女は目の前にいるのだ。俺は、そっと彼女の手を握る。
「私は教会に拾いあげられました。教会が全面的にバックアップをしてくれて、国王もなかなか手を出しづらいことになったらしくて・・・。ときおり、ちょっかいを出すだけになったのだけど・・・。」
教会には裏があったのか。俺の表情を読んだのか。続けて話す。
「30年余り、教会の暗部に使われ続けてきたというわけ。でも、それでも終わらなかったわ。あの男は業を煮やしたのか。突然、貴方を抹殺しに日本に暗殺者を送り込むって・・・。」
それが、こっちにも絡むのか。
「その時、初めてセイヤ様に会って、二人の利害が一致していることが解ったの。共同戦線で、あの男とセイヤ様のご兄弟を討ったの。そして、私はその見返りとして教会の裏の情報をセイヤ様に流して、セイヤ様が教会の裏部隊を壊滅させたというわけ。エミーたち、教会の表の人間は知らないことだから、なにも言わないでね。」
「・・・・・・・ああ、わかった。」
「それでね。セイヤ様の家臣からは、私を側室に押す声が高まったけど、ずっとエトランジュ様がわがままを装って庇ってくださったのよ。さらにセイヤ様が貴方を召喚することに成功させてくれ、専属の警護役に任じられたというわけ。」
そうか、セイヤのあの行為の裏には、こんなことが隠されていたんだ。
・・・・・・・
夕食の席で、マイヤーに聞いたことをセイヤに軽く伝えると、ゆっくりと頷いてくれた。
「まあ、そういうわけだ。申し訳ないが、引き続き王族を増やすことに、貢献してくれるとうれしいのう。」
「ああ、当分はマイヤー一筋です。ですが、いくらでも引き受けましょう。それでいいか、マイヤー?」
「私は初めから、そういうつもりで嫁いできていますので問題ありません。」
そういう話を聞いたせいかその夜は、いろんな意味で幸せな時を過ごせた。
・・・・・・・
今朝はマイヤーに引き続き、魔法を教えてもらう。まずは後宮専用の教会でレベルを確認してもらうことになった。前回異世界に来たときにレベルアップの自覚があり、マイヤーに伝えてあったので改めて確認するためだ。
「確かに魔術師レベル4に上がっています。これで血統魔法の召喚及び送還が使えるはずです。まずは通常空間の移動からです。指輪の『移』を使われたことは、ありますか?」
「ああ、あるね。」
「あれといっしょです。行きたい方向の50センチ先と亜空間で繋いぐことで移動できます。血統魔法の召喚と送還は異次元間を亜空間で実に50回~100回ほど繋いで行き来する魔法と陛下から教えて頂きました。」
「よく教えてくれたな。王家の最重要機密だろうに。」
「ええ、恥ずかしながら召喚の間で私が試してみたことがあるのですよ。貴方を探し出すために・・・。通常空間での移動はマスターしておりましたし、できると過信していたのですが・・・。まさか、連続50回~100回も放つ必要があるものとは思わなくて。しかも、王族の血には過去に日本から渡ってきた日本人の血が流れて、日本の記憶が脈々と受け継がれてきている。そんなこともわからないなんて。」
そうかだから、あの宝玉が必要なんだ。
「では他の魔法の訓練と同じように、指輪の『移』をイメージして、自分の目の前の空間に一辺3メートルの正方形の穴を作るイメージです。その穴の先は、50センチ先です。」
指輪の『移』は既に何回か使っている。あれは3メートルの穴ができるのか・・・亜空間に。俺は、それらをイメージして一歩踏み出したとたん。辺りの景色が少しだけ変わった。
「さすがですわ。では、冒険者ギルドの転送位置解りますか?」
「ああ。なにやら、四角い空間があったところだろ。」
「あそこをイメージして、私を連れていってください。」
マイヤーと手を繋ぎ、冒険者ギルドをイメージし、一歩踏み出すともうそこは冒険者ギルドだった。これは便利だ。
「倦怠感は・・・・無さそうですね。」
「ああ、他の魔法を訓練したときのような倦怠感は無いね。」
「ではしばらく、後宮と冒険者ギルドを行き来しましょう。倦怠感が出てきたら教えてください。」
10回やっても20回やっても倦怠感は出ない。結局、100回やっても倦怠感は出ずに、周りの景色が変わって、目を回してしまっただけだった。
「おかしいですね。普通は50センチの移動の倍のMPの消費はあるものなのですが・・・すみません。鑑定できる方はいらっしゃいます?」
マイヤーは冒険者ギルドの受付でなにやら交渉しているみたいだ。
「MPの残容量の鑑定ですと、10Gになります。」
冒険者ギルドの職員さんが俺の頭に手を置いた。
「残り88%となっております。」
指輪の『鑑』だと大体のイメージしか解からないが、冒険者ギルドの鑑定魔術師ならば詳細なところまで解かるらしい。
「すごい、空間魔法に抜群の適正があるみたいです。さすがです。では、次は、一気にエルフの森までいきましょうか。まずは、私が何回か休憩しながら、連れて行くので、帰りは後宮まで一気に帰ってきましょう。」
う、それってマイヤーの親に挨拶するってことだよな。おそらく引き止められるだろうから、1日じゃ足らない。いろいろ準備もしたいし、今度にしてもらおう。
「ダメだよ。マイヤーの親とかに挨拶するには、早すぎるよ。」
「ちぇ、いい機会だと思ったのに・・・。」
「それよりも、倉庫代わりの空間魔法を教えてくれ。あれで大量の資材を持ってこれるようになれるんだよね。」
いよいよ、大量の物資を行き来させることが・・・。