第6章-第50話 選挙戦
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「全く大げさだな。この記事なんて酷い。分身の術だとさ。」
衆議院議員総選挙の公示日に全国47都道府県の300近くある全ての小選挙区で鷹山首相と共に演説を行ってきただけである。
午前8時から午後8時、休憩時間を含めて12時間が選挙活動時間だ。1選挙区だと約2分の持ち時間になる。
『移動』魔法で街宣カーの壇上に降り立ち、鷹山首相と仲良く肩を抱き合いながら交互に演説を行ったのである。
「ネットニュースでは相変わらず社長を叩いている輩が多いみたいです。これなんて酷い、鷹山首相との肉体関係ですって。」
俺の悪名のうち、3割くらいは肉体関係が取りただされる。各国首脳を身体で誑し込んだと言われているらしく、社交界では軽蔑の眼差しと情欲の視線が送られてくることもあるのだ。大抵は会話を交わすことで無くなっていくがしつこいのもある。
ハワードなんか、その筆頭だ。シュワルツベルク城に伺うと約束してしまった。国会議員になれば、今まで以上に忙しくなる。シュワルツベルク家はドイツ政界に繋がりも多い。まあそのうち、公式な招待状がドイツ政府から送られてくるだろう。
「奴ら凄いよな。意地の悪い質問されても、始終ニコニコしているもんな。」
俺と噂された友人たちは、記者から俺との肉体関係を問われても激怒することなく、いつも笑って誤魔化してくれる。
そんなふうだから、こちらも怒らなくてすんでいるのだ。
「明日も続けるつもりですか?」
千代子さんが民主政治党から提出されたスケジュール表を見ながら確認してくる。
「ああ首相のスケジュール次第だが毎日続けるつもりだぞ。明日は握手だな。」
声を掛け、握手をする。どぶ板と言われる地味な選挙活動だが、高齢者には効果があるらしい。
当分人手不足が続きそうな日本では高齢者も労働力の一役を担う重要な人材だ。今のところ予定は無いが高齢者採用も視野に入れるならば、今回の経験も何処かで役に立つときもあるはずだ。
「各国首脳からアポイントメントが入っていますが、どうされますか?」
元々付き合いのある国のみならず、ロシア、中国、南アフリカといった国々からもアポイントメントが入っていた。基本的に『ゲート』は秘密裏に西側諸国と進めてきたが、いずれ他の国々も協議を重ねる必要がある。それにヴァーチャルリアリティ時空間のことも聞きたいに違いない。
どうせならば、この機会に各国との太いパイプを印象付けてしまえばいいのだ。
「アメリカ大統領はともかく選挙前から各国に借りを作るのも気が進まないが、選挙に勝たないと全く意味が無いからな。お受けして。そうだな1日に2カ国。日本時間で午後9時から午後11時の間に30分ほど、記者たちの前で冗談を交えながら、日本の政治、経済について語り合う場を設けて貰うのが条件だ。」
条件など出せば反感を買うかもしれないが、『ゲート』の提供時期によっては、その国の経済に壊滅的打撃を与えることも可能だ。冷静な対応をしてくるに違いない。
「この国は、どうされます?」
千代子さんが1枚の紙を出してきた。ある国から来た『ゲート』技術供与の要望書だ。
「無視しておけ。」
ヴァーチャルリアリティーを開発したときにも同様の要望書と送りつけてきている。日本がその国に技術供与するのが当たり前という態度がみえみえでバカバカしいので放置している。
この国は隣国と戦争状態にある。『ゲート』の設置も隣国との終戦後という条件付けをさせて貰っているが、国同士の決め事を簡単に撤回したりする国なので終戦を宣言できたとしても10年くらいは設置を見合すつもりだ。




