第5章-第44話 ちょっとそこまで
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「由吏姉!」
俺は彼女を別室に連れ込む。
「ここは何処?」
「ベッドルームを借りるぞ。」
由吏姉の腕を掴み有無を言わさず歩き出す。
俺は近くに居た大女に声掛けて、勝手知ったる室内を歩いていく。
「えっ。えっ・・・その女は一体・・・それにアポロディーテは? あの子は?」
「おう2人共元気だぞ。文句は後で聞いてやるから黙ってろ。」
☆
「此処は何処なのよ!」
「異世界だ。」
俺は別室への扉を潜り抜けながら、『境渡り』魔法を使い異世界へ移動したのだ。360倍のスピードで時間が進む、この世界なら1日過ごしても日本では4分ほどだ。
「チバラギ・・・じゃ無いわよね。」
由吏姉は周囲の装飾品を観察しながら確かめてくる。これだから、侮れ無いんだよな。
「由吏姉。好きだ。」
彼女をベッドに押し倒しながら囁く。
「ちょっ・・・」
声を上げようとする唇を奪い、そのまま抱き締める。
「どうした。あきらめたか?」
身体の力を抜き、抵抗しなくなった彼女の顔を見つめる。
「後悔するわよ。」
「俺が? 後悔するわけ無いだろ。ずっと、こうしたかったんだ。時間はたっぷりある愛し合おう。」
「絶対に・貴方が・後悔するの!」
俺の性格を良く知る彼女の言葉に躊躇を感じだした。ちぇっ・・・勝てないらしい。
「何故なんだ俺が「日本の政治が嫌いなんでしょ。」」
随分と長い沈黙の後、話を戻そうとすると遮ったあげく肯定の返事が返ってきた。
「由吏姉でも、いい加減怒るぞ。」
「怒りなさい。十分に怒る権利はあるわ。そして、私の元を飛び立った貴方は、何かあるたびに戻って来ないの。だから、これが最後の要求よ。日本の政治を学び、日本を良くして頂戴。」
「イヤだ! 別れるもんか。」
酷い女だ。好きな女を押し倒している最中に別れ話をしやがった。
「もう貴方に私は必要無いわ。」
「イヤだ!」
全身全霊で口説こうとしているのに必要無いと来た。
「どうしてもダメなの?」
「そうだ! いくらでも要求は飲んでやる。由吏姉の要求程度で俺のキャパシティーが一杯になると思うなよ。」
「そうなんだから、もう必要無いと言っているのに。強情ね。」
「だが報酬は貰うぞ。」
「だから・貴方が・後悔するの!」
再び押し倒そうとすると冷静な声で返してくる。やっぱり勝てないらしい。
「やっぱりね。」
貰えた報酬は結局キス1つ、いつものことながら高い授業料だ。
諦めて彼女を置いて、ベッドルームを出るとしたり顔で大女が近寄ってきた。
「なんだ?」
「女性を連れ込んで押し倒すなんて似合わないのよ。」
押し倒されるのがお似合いってか。そういえば、この世界では多くの女性に押し倒されたような・・・やめよう・・・情けなくなってきた。あれからこちらの世界では150年以上経っているはず、流石にローズ婆さんも居ない・・・いや薮蛇になりそうだから聞いちゃだめだ。
「それでお前が俺を押し倒すのか。まあいいベッドの中でアポロディーナの近況を聞かせてやろう。」
「ちょっ・・・なんで、そんなに力強いのよ。いったいどうなって・・・。」
羽交い絞めにしようとしてきた大女から力づくで身体を引き剥がし、丁度出て来た由吏姉と入れ替わりにベッドルームに入り、逆に押し倒してやった。俺を侮った罰だ。




