第5章-第43話 ばかなおとこ
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「鷹山首相がお見えになりました。」
結局、三多村肇氏の周辺から俺がバックアップしないという情報が漏れたらしく。反鷹山派のみならず、親鷹山派の筆頭である大野沢派が内閣不信任案に賛成票を投じて、賛成多数で可決し衆議院は解散することになった。
反鷹山派は新党さきばしりを結党し、民主政治党を離党。これがきっかけなのか若手に押し切られた形で大野沢派が新々党を結党し、民主政治党を離党したのだ。
早速、公式に会いたいと鷹山首相からアポイントメントがあった。
この時期に会うつもりはさらさら無かったのだが、同行者の中に久継氏の名前があったため会わざるを得なくなった。
まさか由吏姉さんが久継氏の説得に失敗したのだろうか。
「やあ。お邪魔するよ。」
鷹山首相と久継氏が満面の笑顔で部屋に入ってきた。
他の同行者の顔触れを見て、嫌な予感が的中したことがわかった。
そこには肇氏と由吏姉さんの姿もあったからだ。しかも、何か思いつめた表情だ。聞きたくないことを言いそうで耳を塞ぎたくなる。
どうやら三多村家本家の説得に成功したらしい。これは腹をくくるしかなさそうだ。
「それで、ご用件はなんでしょうか。」
いつものように握手をしてハグる。最近首相は大統領に影響されアメリカナイズされている。どうしてこうも俺の周りの男どもはハグを要求するんだろう。日本ではほとんど見ない光景だ。
まあ賢次さんのように妹に嫌がらせするためだけに引き離されるまで抱きすくめられるよりは、いいけど。
「この度、三多村久継氏とその奥様である由吏さんが揃って我が党から立候補してくださるそうだ。全面的バックアップをお願いしたい。」
情報が頭に入ってこない。何を言っているのだろう。
「え・・・ごめんなさい。今、なんと仰いました?」
これだけの言葉を返すだけでも1分以上時間が掛かった。物凄く頭の動きが鈍い。
鷹山首相が不思議そうな表情を向けてくる。
「三田村さん夫婦が揃って出馬してくださるそうだ。」
その手が・・・あったか!
確かにリスクをかけろと言った。それに返ってきた答えがこれだ。
由吏姉さんは夫をそそのかし、自らも出馬するという欲望にまみれた女を演じているのだ。万が一、由吏姉さんが落選したならば阿坂家に関連する企業群は泥水を強いられることになるだろう。
そんな全身全霊のリスクを掛けてきたのだ。
俺はそれ以上のリスクを背負わされるのだろう。なんてことだ!
「どこから出馬・・・すると?」
俺は恐る恐る聞くと肇氏が答えてくれた。
「久継が三重県松阪市で小選挙区単独で、由吏さんが比例代表単独だ。」
その比例代表の順位を聞いてみると民主政治党が前回以上の得票数を得ないと当選しない順位だった。
つまり俺が民主政治党を全面的バックアップしないと絶対に当選しないということだ。
「全面降伏だ由吏姉。要求はなんだ?」
俺は由吏姉さんに向き直り、バンザイしてみせる。俺もお義父さんに似てきたなあ。
あわよくば由吏姉さんが別れて俺のところへ来てくれるなんて思ったのがバカだったのだ。
だが生半可なバックアップでは由吏姉さんが当選出来ない。彼女が出馬する選挙区でも複数の現職の民主政治党の議員が新々党に参加しているのだ。彼女なりの勝算があっての行動だろう。
経営に関しては超えたと自負しているが政治に関しては彼女が師匠だ。思いもつかないアイデアがあるに違いない。
「山田取無。貴方が民主政治党から立候補するのよ。そうすれば、これから民主政治党を離党する人は居なくなるし、野党でも民主政治党寄りだった議員は入党するかもしれない。」
また頭の動きが鈍くなる。俺って、こんなにバカだったのか。
本人は否定するでしょうが好きな女に振り回される人生。ある意味幸せなのかも(笑)




