第4章-第39話 こまる
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「トム。すまん。」
「いやですよ。お義父さん。」
俺の逮捕劇は日本の政界や財界に甚大な被害をもたらした。
元凶である官僚のトップである事務次官は全て退官したが、その中で法務事務次官だけは東京高等検察庁検事長に就任した。もちろん、渚佑子の破壊行為により壊滅的ダメージを与えられていた裏口入学シンジケートを闇に葬るためである。
歴代の事務次官も含め全てあの黒幕に脅迫されており、日本の教育制度を歪めてきたらしい。今、どうすれば国民に知られずに元に戻せるかをヴァーチャルリアリティ時空間の中で考えて貰っているところだ。程なく10年掛けて徐々に戻す計画案および予算案および法律案が鷹山首相の下に届けられるはずだ。
政界も大変だった。与党内の反鷹山派どころか親鷹山派の議員も掌を返し、不信任案に賛成票を投じると党を割って出て行ってしまったのだ。
その後、不信任案を提出した野党に合流したのだが、その野党のトップや幹部が俺の逮捕状を請求した公安調査庁に頻繁に接触していた事実が暴露されると完全に逆風となり、解散総選挙でなんとか人員をかき集めた与党が大逆転勝利を得たのだった。
その書類の所在を『知識』スキルで突き止め、入手した渚佑子がスターグループ所属のマスコミ各社を使って選挙運動期間中に暴露したのだ。
そして財界では各証券所の平均株価が暴落に継ぐ暴落で半分を割り込み、3大銀行グループが持つ資産が大幅に目減りしたのだった。
ここにも1人甚大な被害を被った人物が居る。それがZiphoneグループのCEOであるゴン・和義・カルタスこと義父だった。
俺の逮捕で取引先の株価がガタオチする可能性を考慮して大増員体制で監視していたためZiphoneグループの資産は多少目減りしたたけで済んだが、俺関連の株を売る気の無かった義父本人の個人資産を株式市場で運用していたため現金が底をついてしまったのだ。
「いずれ株価は元に戻るだろうから当分の間、塩漬けにするつもりなんじゃ。しかし株価が上がっているからといってフィールド製薬を売りに出すわけにもいかんしのう。困ったもんじゃ。」
現金が底をついたといっても投機資金であって直ぐにお金に困っているわけじゃないらしい。だが、それらの資金から高層マンションの建築代金を賄うつもりだったらしいのだ。
「月基地の保証金としてアメリカの国家予算から支払われた分がありますので心配しなくても大丈夫ですよ。」
月基地建設は俺個人が請け負った仕事で基地の建物自体はNASAと六菱重工が共同開発したものだが、それを俺が買い取り月に建てたことになっているのだ。資産価値としては数兆円を超えるが月自体誰のものでもないため、税金を払う相手が居ないらしい。
「おおっ。早かったのう。」
大袈裟なゼスチャーでホッとしてみせる。この点は大勢の前だけではなく1対1で話していても同じだ。相変わらずな姿に頬が緩む。
本当は分割払いにしてくれと言われたのだが、他の国からも引き合いがあることをチラつかせたところ即金で入金されたのだ。
そしてその資金を元に下がりに下がった日本市場の株を買い支えているのだ。
「何をホッとしているんですか。俺が身内に甘いのは先刻承知でしょう?」
株を買うと言っても、今後取引出来そうな会社の株を物色しているところだ。
「いや沢山我が儘言った上で、肝心なことも出来ないなんて不甲斐ない思いで一杯なんじゃ。」
珍しく情けない顔をする。十数億円の現金を用意出来ないのが堪えているらしい。
「どうしたんです。お義父さんらしくもない。」
「さつきが塞ぎ込んでおっての。それでそのう・・・2度も死にかけたというじゃないか。」
2回って。お喋りだな。もう。
実はチバラギで自殺しかけたことは、あの場所に居た人間だけの秘密になっていたのだ。
俺にとっては随分前の出来事だが、さつきたちにとっては1年も経っていない。参ったな。鈍感にも程があるぞ。
「ご心配をおかけして申し訳ありません。それであのう、お義父さんに言うのも可笑しな話ですが、さつきはあまり表に出さないタチのようで、もしよろしければ、さつきに変わったところがあれば、教えて下さい。お願いします。」
改めて頭を下げる。
本当に情けないが取り返しのつかない状態に陥るよりは良いはずだ。
「うむ。本当にワシたち親子の傍にいてくれるんじゃな。何処かに消えていったりはしないな。」
これが普通の反応だよな。あのとき、異世界へ送り出してくれた奥さんたちの心情はどれほどだったのだろう。
「もちろんですよ。これから激動の時代を迎える。ここで放り出して逃げ出したりはしません。この世界が俺を必要としてくれているかぎりね。」
着々と手は打っているが、問題は俺や渚佑子が居なくなった後だ。誰しも死は訪れる。子孫たちにいったいどれだけのものを残してやれるだろうか。
「そうか。そうじゃよな。」
そのためにはどんな手段を使っても地球を一つにまとめあげるのだ。そのためには金が居る。
確かに俺や勇者たちの力を使えば、圧倒的な力差で押さえつけることも可能だが、俺が居なくなれば機能しないようなものを作り上げても無意味だ。
経済的に押さえつける。困窮を作り出すのではない。俺の会社が無いと機能できないように社会構造を作り替えてしまうのだ。悪魔の所業だが人々の幸せを追及しながらでも絶対にできるはずだ。
まずは日本、しかもチャンスは向こうから転がってきた。これに乗らない手は無い。
「お義父さんの塩漬けしている株式を教えて頂けますか。最近、面倒になってきてしまって。」
「どういうことじゃ?」
「将来、山田ホールディングスの協力会社になりそうなところを見繕ってアルドバラン公爵家が設立したファンドに株を密かに買わせていたのですが、偏ってしまうと株価操作の疑いを掛けられると思いまして。」
「それは大丈夫じゃろ。今、お主を逮捕するどころか噂記事さえ書けずにいる弱腰マスコミが何か掴んだとしても各上層部が闇に葬るじゃろうて、新聞社はスポンサー激減で廃刊の危機を迎えているんじゃ。これ以上、スポンサーを失うようなことをするとは思えんぞ。放っておけば良い。」
企業収益自体に影響が出るのはこれからだが、株式市場から資金を得られなくなった企業が次々と広告費を削減していっているのだ。
黒幕と繋がっていた日々新聞社は廃刊が決定しているし、俺への批判記事を描いた週刊誌各誌も休刊が続出しているのが現状だ。
まだまだネット記事では独自に批判記事を描く記者も居るが、賛同を得るどころか炎上を繰り返しているのが現状で、逆に炎上商法を疑われている出版社さえあるのだ。
特に政府が言論統制を掛けたわけでもなく、このような事態になっているところを見るにつけ、つくづく日本は『カネ』で回っている国なのだと思い知らされた。
「株式市場への口先介入も限界みたいですし、ソロソロ本気で仕事を回したいので企業グループの統括をお願い致します。」
初めは協力会社の発表をするたび、その会社の株価が連日ストップ高を記録していたのだが、最近は鈍ってきている。
「そうかな。財務大臣の言葉なら違うじゃろ。」
お義父さんの言葉に思わず口が開いたままになってしまう。
「お・・・俺が財務大臣・・・ですか?」
「なんだ聞いとらんかったのか? 民主政治党の最大派閥の領袖なんじゃ、当然回ってくるじゃろうて。」
与党から出て行った議員の穴埋めを引き受け、俺の会社やZiphoneグループ、蓉芙財閥の中から政治に興味がある若者たちに立候補してもらったのだ。
あまりにも劣勢の戦いに各都道府県の議員たちも尻込みしてしまったのが原因だ。
国会議員は職業の兼務が可能なため、休職して選挙を戦って貰ったところ、その殆どが当選してしまったのだ。まあ、野党議員のスキャンダルを渚佑子に見つけて貰ったのだが、やり過ぎだったと反省しきりだ。
「はあ、アチコチ飛び回っていたので。」
その大半が日米野球なのだが、誰も何も言って来ない。別に恐怖政治ってわけじゃ無いのになあ。
鷹山首相に何か役職を振ると言われていたが、まさか財務大臣とは。一年生議員が財務大臣なんて有り得ないじゃないか!
そう言うわけで、政治編に突入します。
なんで、こうなった!
予定に無かったので調べるのが大変なんです。はあ。




