第4章-第38話 しんそう
お読み頂きましてありがとうございます。
「どうしたらベッドを共にしてくれるの。ただ寝るだけじゃないわよ。エッチすることよ。」
余程、鈍感だと思われているらしい。この流れでそれが解らない男なんていないのではないだろうか。
「やめてくれよっと言っても無理なんだな。軽蔑するなとは言わないが、今から言う話は他言するなよ。言ったらお前の前から完全に消えるからな。約束してくれなくては話せない。」
大学時代の親友から迫られた。男女間でも友情は育めると思っていたのに価値観が総崩れだ。
「もちろん約束するわよ。教えて。」
あっさりと肯定の返事が返ってきた。やだなやだな・・・やーだな。深呼吸を1つして、世界で多数の人格を持ち多数の妻を持つに至った経過を説明した。
「軽蔑するだろ。誰とでも寝る男だ。種馬かもしれないな。」
コネをより強固にするために多くの妻を持ち、子供を作る。異世界の王族としては一般的だが、こちらの西洋社会では決して許されない行為だ。
「そんな・・・権力者のゴリ押しなの。」
あっ・・・そういう見かたもできるのか。
「いや違う。彼女たちを愛しているんだ。愛の無いエッチはしていないつもりだ。」
言い訳ばっかりしているな。
「でも、経緯はそうなんでしょ。そうすると私の場合、日本の官僚のトップ・・・いや無理ね。日本の首相に成り上がって脅迫まがいに迫ればいいのね。」
石波が思案しているとぶっ飛んだ案が出て来た。なんだそれ。
「なんで・・・そんな結論になるんだ? 止めてくれよ。」
「止めるつもりは無いわよ。次なる目標ができたんだから、それに向って邁進するだけよ。たとえ貴方の力を利用してでも成り上がってみせるわ。」
「ちょっと待て。そのとき石波は幾つだよ。俺は嫌だぞ。」
老獪な女首相に迫られる図を想像してみる。俺にそんな趣味は無い。
「大丈夫そのときトムも同い年よ。」
それ全然大丈夫じゃない。まあ石波が首相に成り上がるなんてありえないんだし友情のまま終ればいいんだよな。
「大統領。何故、ここに彼女が居るのでしょうか。」
日米野球のアメリカでの開催初日が行われるヤンキースタジアムにアメリカ大統領が到着したと知らせを受けた俺は、ご機嫌伺いに来たところなのだが、石波と大統領が何やら仲良さげにお喋りしていたのだ。お前ら絶対俺の悪口を言っていただろう。
「ここに来る前に着任の挨拶があって、野球談義で盛り上がったので連れてきたんだ。」
嘘を吐け。大学時代に野球の話なんか一度も聞いたことが無いぞ。
「友人からトムが日本のプロ野球選手として完全試合を達成したと聞いたときはぶっ飛んだわよ。何で教えてくれないのよ。それ以来、ネット配信に釘付けよ。ようやく日本に戻って、日本シリーズ第5戦をダフ屋から高額でチケットを買って観戦していたらイキナリ降板なんだもん。しかも調べてみると日本政府のそれも官僚が暴走しているっていうじゃないの。事務次官に直談判しにいったら説得役に任命されたというわけよ。」
ダフ屋って。恨み節かよ。言ってくれてばVIPルームに招待したのに。
「だからここで完全試合をお願いするよ。」
メジャーリーガー相手に完全試合を要求するなよ。アメリカ大統領なんだからメジャーリーグの選手を応援しろよ。
つまり2人で盛り上がったのは、俺の完全試合を直接観戦できなかったことだったということか。
「無理です。知らないんですか、この試合は日本の若手選手たちに世界の舞台を経験させてあげるためにあるんです。俺が1試合丸々投げられるわけじゃないんです。精々3イニングかな。」
「直談判してくる。」
「止めてください。」
大統領が回れ右するところを引き止める。
「何のために日本に戦争を吹っ掛けたか解らないじゃないか・・・。」
確かにあの演説が無ければ、プロ野球選手は引退していただろう。誰も俺に辞めろと言える雰囲気じゃなかったのだ。
「そ、そんなことのために・・・。」
あの後、大変だったのだ。
俺関連の会社以外の株価が大暴落に継ぐ大暴落で日経平均株価が一時期半分になるわ。安く優良企業の株を手に入れたし、山田ホールディングスの連結子会社の株価が爆騰して資産総額が跳ね上がったけど。
官僚の暴走と止められなかった鷹山首相に不信任案が決議されて衆議院を解散することになるわ。俺の応援演説と野党党首と官僚との密会の証拠を渚佑子の『知識』スキルを駆使して手に入れて暴露し大逆転勝利を収めたけど。
沖縄で米軍基地が急速に無くなることで補助金の大幅減額が決定的になると基地撤廃を叫んでいた沖縄県知事に対するリコール運動が巻き起こるわ。支援者から先の知事選の選挙違反を暴露されて失職したけど。
今度、政権与党推薦の候補が立候補するらしいがそのまま無選挙で信任されるのだという。
本当に大変だったのだ。




