第4章-第30話 こわいひとびと
お読み頂きましてありがとうございます。
目を開けると何故かさつきの姿があった。場所は子供たちを庇ったところのままで、隣には泣き腫らした顔の渚佑子が居た。
「すまない。ありがとう渚佑子。」
怒りの波動が凄まじいさつきに謝り、渚佑子の小さい頭を撫でる。自宅でテレビを見ていたさつきがこの場所まで到着するのに数分は掛かる。俺が死んでから『蘇生』魔法で生き返るまでかなり時間が掛かっているのだ。
流石の渚佑子も俺の死に動転したのだろう。
道理で神域に呼ばれたはずだ。本来なら1日、下手をすれば数日分の記憶が飛んでいるところだ。神域での記憶は女神にキスをしたところまで覚えている。あのチビ女神のイタズラらしい。
立ち上がりパトカーのところまで行く。俺にぶつかった後、横転したらしく。ひっくり返っている車体から人が這い出てきた。
さらに隣には横倒しになった日々テレビの車からクルーが這い出てきている。車に据え付けられたテレビカメラは壊れたらしい。
「どうする? このまま同行してやっても構わないが。」
「救急車を呼んでくれ! 同僚が重症なんだ。」
チラリと車をのぞき込むと運転席の警察官はぐったりしており、後部座席の人も微動だにしない。流石に助けてやる気もおきないな。
「いいのか? 逮捕しに来たのだろう。」
今度はビデオカメラを構えた井筒さんにカメラ目線を移す。本当にこの人ってスターグループの儲け話には敏感だよな。オーナー自らスクープをモノにする気らしい。
「そんなことどうでもいい! 早く!!」
たかだか経済犯を捕まえるにしては、少々大げさだったのだ。普通は出頭を要請すれば良い。過去の件なのだ証拠隠滅もくそも無い。この警察官は大々的に俺の逮捕を喧伝するために誰かから頼まれたのだろう。
「はいはい。」
自空間からスマートフォンを取り出して救急車を呼ぶと直ぐ駆けつけてくるそうだ。
「バケモノ! 車の前に飛び出して子供たちを庇って、何故無事なんだ。」
日々テレビのカメラにはバッチリ映っていたらしい。クルーが俺を指して言い募る。面倒だな。どんな言い訳をしても信じないに違いない。
放っておこう。そうしよう。
悪意を投げつけられる度にいちいち応答していては、こちらの身が持たない。
「逃げるのか!」
その言葉に背を向けて、さつきと渚佑子のところまで戻ってくる。井筒さんは暴言を吐き続けるクルーを撮影し続けている。後で使うつもりのようだ。
「渚佑子。大丈夫だ。少し神域で過ごしたから記憶は失っていない。」
俺はチビ女神に出会ったことを説明する。もちろん、さつきが聞いているので最後のキスは抜きだ。
「『鑑定』スキルを使ってもよろしいですか?」
「ああ頼む。」
「『身体レベル』という項目が増えているようです。頭蓋骨には損傷はありませんでしたが、内臓破裂、背骨、肋骨、骨盤、大腿骨まで損傷しており『再生』魔法にて元に戻しました。」
ゾッとするようなことを渚佑子が嬉々と報告してくる。相変わらずのどS具合だ。怖がれば喜ばせるだけだ。俺が死んだことへの当てつけらしい。
「道理で筋力が落ちているようだ。もしかするとレベルアップするごとに筋力も戻るのかもしれないな。丁度良い、今日はデイゲームだ。チバラギに行ってレベルアップしてこよう。後宮に寄ってマイヤーに謝ってくるつもりだが、さつきも来るか?」
「・・・い・・いえ。今のままでは、マイヤーさんに顔向けできません。少々報復行動を関係者と練り直します。」
こちらも怖いことを言う。かなりプッツンきている。俺の余計な行動が彼女の何かに火を点けてしまったようだ。黒幕に被害が集中してくれればいいが、巡り巡ってこちらにも被害が及びそうだ。




