第3章-第20話 げんなり
お読みいただきましてありがとうございます。
少し遅れました。ごめんなさい。
「面倒だな。何故、この日々新聞社は恣意的な記事を掲載するんだろうな。」
この日の日々新聞の1面に日本の主要持ち株会社の平均賃金の一覧が掲載されていたのだ。実業がある会社と純粋持ち株会社がごちゃ混ぜに平均賃金順に掲載され、俺の会社は最下位に掲載されていた。
「クレームを入れますか?」
千代子さんが即座に反応してくる。
「無駄だろう。それにこの有名自動車メーカーを傘下に持つ会社からのクレームのほうが厳しそうだから、うちの会社の声は掻き消されてしまうさ。」
もちろん純粋持ち株会社の社員のほうが専門家を集めている所為で平均賃金は高くなっているから、実業を持つ会社のほうが不利なのは明らかなのだ。
「でも放置されますと求人に差し障りが出るかと?」
「確かにそうだな。何か案はあるか?」
最近は千代子さんにもできるかぎり案も出させるようにしている。いろんな案から検討したいためだが、過去に俺がやったようなことしか出てこないのが難点だ。
「スターグループでキャンペーンを張ってもらっては如何でしょう?」
「恣意的な記事に恣意的な記事で対抗しようというのか。却下だな。バレときのダメージが大きい。」
規模が小さいときは笑って誤魔化せるがここまで規模が大きくなると全グループに対する風当りが強くなるのは避けられない。
「違います。この記事を後押しするかのように社員に街頭インタビューしてもらうんです。そうですね。職種と年収くらいで十分かと。」
「却下だな。」
「えーなんで?」
「社員に負担が掛かりすぎる。」
「別に嘘を吐いてもらうわけじゃないですよ。」
「当り前だ。それでもだ。」
「じゃあまず社内アンケートを取ってみます。」
俺の会社ではアンケート用のグループをSNS内に開設している。閲覧率が90%を越え、賛同数が80%を越えると法律上予算上問題なければ俺が却下しないかぎり意見が通るようになっている。
社員の自主性を育てたい俺は却下したことは殆どない。全く無いと言えないのは俺のプライベートまで踏み込んでくるような企画を組んでくることがあるからだ。
何故、そんなことを。と思うようなことまで踏み込まれるのだ。俺のプライベートに関することは一律却下にしている。大抵はさつきたちが暴露するので余り意味がないのだが。
☆
結局、企画は通ってしまった。面倒だが仕方が無い。
「井筒くん。頼みごとばかりですまないな。」
「いえいえ。こちらもその分スポンサーが増えて助かっていますから。」
一星テレビではテレビクルーにスキャンダルがあったとかでスポンサー集めに苦慮していると聞いた俺は蓉芙グループやZiphoneグループに声を掛けているだけだ。
「これが企画書だ。内容は変えてもらっても構わないが意図しない結果でもそのまま放送してもらいたい。」
企画書を井筒さんに手渡す。俺は一切手を加えていない。ざっと見て問題無いことを確認しただけだ。1点気になったところはあったが問題視するほどでは無かったのでそのまま通している。
失敗したらしたで良い経験になるだろう。
「そうですね。朝の時間帯は生放送となりますし、HPに出す資料も生データで出すことをお約束します。」
☆
「いよいよですね。」
「千代子は参加してこないのか?」
「私は従業員じゃありませんから。」
以前、俺が役員だと言ったことを気にしているらしい。しまったな。あのままスルーしておけば良かった。定年の年齢までは随分と先なのだ。バレる年齢のころには忘れていたに違いない。
結果は解っていたことだが同業他社と比べると随分多い賃金が暴露されることになり、求人に対する応募が増えた。しかし、従業員たちの経営者への要望というコメントで俺の職場見学の希望や俺との交流が多かったのには驚いた。
会社の規模が大きくなって忙しくなった分、減っているのは解っていたがプレッシャーになるだろうと手控えていたのだ。嬉しい反面、さらに多忙になるのだと考えたら、げんなりするのだった。




