第3章-第19話 高等教育
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「やっぱり、認可が下りなかったか。お役所仕事だからな。」
高校時代に就職後十分に通用する技能を身に付けさせるために市内にある商業高校を買収した。
そこでの授業にヴァーチャルリアルティー装置を導入しようとしたのだが前例が無いという理由で認可が下りなかったのだ。
6倍に伸長したヴァーチャルリアルティー装置内では教師授業を再生できるほか疑問点があれば別のヴァーチャルリアルティー装置で待機している補助教諭に説明させられる。またヴァーチャルマシンPCやアナログなノート、筆記用具を使い自習する事もできる。
本当は文部科学省にこういうシステムがあると売り込んだ。無視されたのだ。もうすでにアメリカ・イギリスのハイスクールには試験的導入することが決まっており、その成果を見れば役所の重い腰が上がると思うのだが3年後では遅すぎる。
そこで独自に全国の商業高校を買収し続けているのだ。予定では来年度に合わせて3校、再来年度に合わせて6校で展開する予定だ。
「私がもっとプッシュしていれば。」
鷹山首相が申し訳無さそうな声を上げる。今の時代首相に権限が集中し過ぎていて、碌に頼みごともできない。首相の親族を顧問にするだけで勝手に公務員が動いてしまう。
しかも勝手に動いた公務員の行為も首相の責任にされるのでは堪ったもんじゃない。
「大丈夫ですよ。想定内ですから、それよりも国会議員の前でヴァーチャルリアルティーの説明をしてくださってありがとうございました。お陰で大手企業から引き合いがチラホラと来ています。」
このヴァーチャルリアリティの説明も首相自らが行うと示唆的で批判の対象に成りかねないという理由で与党の若い国会議員にお願いしたのだ。
まあ大企業のトップから打診はあったのだが装置の代金と1時間辺りの使用料で二の足を踏んでいるようだ。会社の経費としてはあげられない金額だからポケットマネーで出すしか無いからだ。
その点、オイルダラーなどの自由に使える金に余裕がある投資家は積極的に導入しており、既にコミュニティーも出来ている。
俺を含む管理者権限を持つ人間は監視の意味もあり、巡回しているのだが何処に行っても歓迎される。数々の合弁企業案件も持ち込まれるが、渚佑子に言わせると壮大なほら話が多く文書として纏まっているものが1つも無いそうだ。
「想定内?」
「そうです。ヴァーチャルリアリティー装置は学校内塾としての利用に限定します。早朝1時間、各休憩、放課後2時間などの空き時間を1日18時間以上自習時間に当てられます。リアルで授業する必須教科を含めた全教科のうちヴァーチャルリアリティーで自習可能なのは86パーセントまで網羅しています。」
料理をするとか理科の実験をするとか物理的な環境が必要なものは今後の課題だ。
「そうすると、この高校の生徒は1日42時間あってそのうち30時間を勉強に費やせるのか。凄いアドバンテージだな。だがこの高校は蓉芙グループへの就職を目的にしているのだろう。必須教科など最低限でもいいと思うが。」
実際にリアルの授業で採用している必須教科は基礎中の基礎だったり、私立大学の受験には存在しないような科目を中心としており、中学から高校への進学のターゲットは大学に進学し辛い傾向にしてある。
「ですが希望の就職先への斡旋はセンター試験の結果と専門科目の結果によって優先度を変更します。」
この専門科目が問題なのだ。今の時代、正しいビジネス会話を教えているところはごく一部の専門学校を除いて何処にも無いのが現状だ。
英語は会話重視の傾向に変化してきているにも関わらず、母国語である日本語は全く会話に踏み込んでいない。それどころか誰も使わない古文を教えて現場を混乱させているのではあきれ返る。
その英語も本来は中学とは違い、グローバル時代の担う外国語を教えることになっているはずなのに巷で溢れている中国語や韓国語を教えているのは在日の学校のみという有様である。
だから我が校もリアルの必須科目としては英語を採用するが学校内塾では中国語や韓国語を履修できるようにしてそれらの成績優秀者は接客を必要とする部門へ優先的に斡旋する予定だ。
尚、数年先には魔法具を利用したイヤホン/マイク型の英語の自動翻訳装置を売り出す予定なので英語だけを履修しようとする人間は優先度が最下位になっている。
「その場合だとセンター試験の結果如何では大学進学を希望しそうだな。」
センター試験では国立大受験と同様に全教科を受験させるので、その課程で奨学金の対象になりそうな人材も出てくるだろう。
「我が社は特別優れた人材を必要としておりません。むしろ邪魔です。部署内に1人優秀な人材が居るとその人に多くの仕事が集中してしまいバランスが崩れてしまいます。そうするとイザその人間が居なくなったときに1人や2人の補充では追いつかないことが良くあって組織編制からやり直すコストまで発生するのですよ。」
居るとすれば外国の支社で1人奮闘してくれる人間なのだが賢次さんのように強い権限を与えるまでに成長させる必要がある。殆ど身内にしか使えない手法なのだ。
俺の会社では大学に進学した人間は今後も採用しない方針には代わりが無いが、蓉芙グループや俺の子会社では必要とすることもあるだろうから、そういう人間の選択肢の1つにして貰うつもりだ。
何十年も経過すればこの高校の卒業生の国立大学の進学率だけが飛びぬけて見えるだろうし、就職後ビジネス人として即戦力になる人材という噂も広がって行けば良いと思っている。
「その手法だと他の高校や予備校が怒りそうだな。国立大や有名大のA評価の人間がゴッソリ居なくなるわけだろ。」
センター試験後諦めずに必死に勉強続けた学生だけが合格でき、センター試験の評価に左右されて勉強をせずに諦めて下位の大学を選ぶ人間も出てくるだろうな。
「無理と思われた学生が入れるのだから喜ぶだろう。センター試験の指導の仕方を間違えば進学校や進学塾の順位の入れ替えは頻発するかもな。」




