第2章-第18話 おきにいり
お読み頂きましてありがとうございます。
1人のアルバイトが挨拶に来た。彼は勤労学生で朝早くから100円ショップの品出しを嫌がらずに毎日続けてくれた。
その彼の母親が再婚し、生活苦から抜け出してからも新規出店したヤオヘーの早朝品出しをやってくれたので、その素直さ可愛さから順調に早朝品出しをしてくれる従業員が伸び、何とか軌道に乗った影の立役者でもあるのだ。
「渚佑子。良かったのか。挨拶しなくても。もう戻ってこないかもしれないぞ。」
彼はカノングループの加納会長の1人息子の長男で直系男子は彼しか居ない。父親はグループと関係の無い会社に勤めていた際に彼の母親と交際していたらしい。
だがその父親が政略結婚させられそうになった際に一緒に夜逃げしようと母親に迫ったそうだが捨てられた。そのとき既に彼を身ごもっていたという顛末らしい。
その後も独り身を貫いていた父親が、婿養子の義兄が失脚したと同時に海外事業本部長としてグループの経営に携わるようになり、彼の母親を探し出して結婚に漕ぎ付けたらしい。
会長は英才教育も受けていなくて、血筋も良くない彼を後継者にするつもりは無かったという。だが実際に会って見ると聡明だったらしい。しかも調べてみると俺に近しい関係にあることが解り、グループの経営に参画させるもの面白いかもしれないと言っていたのだ。
「いいんですよ。あんな鈍感男。いなくなって清々してます。」
「好きだったのか?」
渚佑子も結構多情なところがあるよな。
「ああ、好きだったとかじゃなくてですね。路地裏だろうが、組事務所の前だろうが、客引きの出没する繁華街どころかですね。朝鮮マフィアをシメていようが、ヤッパ持った男を取り押さえていようが、こちらがどれだけ殺気立っていても、声を掛けてくるんですよ。」
彼にはアルバイトの他に渚佑子の言葉遣いの教育係として、いつのまにか幸子が付けていたのだ。
表面上は接客も問題無いくらい渚佑子の言葉遣いは改善していたが、俺や目上の人への言葉遣いが改善されないのにやきもきして、ことあるごとに注意をしていたらしい。
「おいおい。そんな誰がいるかも解らない場所で行動する渚佑子が悪い。裏の仕事に関してはもう何も言わないが、見られないところでやれ。」
「だって普通は裏の人間しか居ないところなんですよ。どんなところでも平気な顔して入ってくる。その筋の人間が居ても平気で言葉遣いをチェックしてくる。その所為でその筋の人間には可愛がられていて、SNSで交流までしているらしいんです。」
「大丈夫なんだろうな。彼に危害が及ぶようなことにはならないんだな。」
「それは大丈夫です。私の怖さを見せ付けている輩ばかりですから、逆に彼に何かあれば言ってくるでしょう。それにもう引退されていますが関東任侠会のお目付け役のジジイに可愛がられていますから。」
最近は無いが新聞や雑誌で暴力団抗争があると必ず調停役として挙がってくる名前だ。本人は暴力が嫌いで夜の世界でもお水系の比較的真っ当な稼業らしく。暴対法にも名前が載っていないらしい。
普段は好々爺といった感じだが一度怒らせるとその筋の人間が漏らしてしまうくらい怖いらしい。
「なんか凄いな。なんの力も持たない彼が、実は凄い権力者なのか。」
実の祖父とはいえ、あの加納会長に気に入られるわけだ。
「それに絶対に社長の傍に戻ってきますよ。あの徹底した意思の貫き方だけは尊敬できます。」
渚佑子は悪口を言いながらも気に入っているらしい。
☆
「どうしたの。溜息なんかついて。」
今日は日曜日で社長業はお休み、代わりにナイトゲームのピッチャーとして先発マウンドに立つため、ギリギリまで自宅で寛いでいたのだが、SNSに連絡が入ってきたのだ。
「さつき。この間、加納会長の孫の話をしたろう。」
「社内でトムのコピーと言われている子ね。アルバイトを辞めたのよね。」
「何故、俺のコピーなんだ?」
「小さくて可愛くて鈍感だからみたいよ。」
聞くんじゃなかった。
「プライベートで接客の穴を見つけてくれたようだよ。例の流水プールの警備員に充てた人材が拙かったみたいだ。」
Ziphoneドーム関連は今事業の顔となっている部署なんだから、ベテランを投入するべきで、新人には裏方でシッカリと教育してから、出す必要があると進言してきてくれたのだ。
「それで何故溜息をついていたの?」
「俺が常々欲しいと言っていた人材に成長しているみたいだから。何故、手放してから後悔するんだろうな。」
俺の方針に逆らっても進言してくる人材は珍しいのだ。俺だって間違うことだってある。そういった進言をしてくれる人材は今、喉から手が出るほど欲しいのだ。
それにまだ16歳だ。のびしろは十分にある。これから、どんな人材に育ってくれたかと思うと惜しいことをしたと後悔しているのだ。
恒例の新作告知です。
拙作には珍しい男主人公で流行の『学園モノ主役キャラの友人役』で
『学年一の美少女』『豊胸美人女教師』『札付きの悪の妹』相手に『鈍感』な彼がモテる作品。
・・・ただ彼が○○○なだけで王道中の王道。
本話に登場している通り『ネトラレ男のすべらない商売』の世界観ですがほぼ独立した物語になる予定です。
「友人Aの俺をプロデュースしてくれる件 ~○○○がモテるわけがない!~」
https://ncode.syosetu.com/n4679eu/
↓にリンクも貼ってありますのでよろしくお願いします。




