第2章-第14話 じょせいはいだい
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「じゃあ。」
ものの数分で友人が踊っているというダンスが終わり、千吾が席を立とうとする。
楽屋見舞いも行かないつもりのようだ。千吾は彼女を見て満足かも知れないが相手のことを思えば顔くらい見せるべきだ。
「ちょっと待て。お前。今日これから暇か?」
スケジュールでは仕事が入っている様子は無かったが仕事上の付き合いとかあるから一応聞いておく。まあコイツのことだから、付き合えといえば多少の予定は変更するだろうけど。
「うん。」
「じゃあ付き合え。楽屋見舞いの後で打ち上げなんだろうが、荻尚子先生で打ち上げと言えばアノ手の店だよな。結構苦手なんだよ。ガードしてくれないか。」
荻尚子の打ち上げと言えば、自身が振り付けをされているショーパブで行われることが多いと聞いている。それだけなら問題ない。だがキャストがニューハーフなのだ。
付き合いでしか行ったことは無いが、どの店でも俺をオモチャにしようとしてくるのが問題なのだ。今回はそこまで付き合うつもりは無かったがコイツを楽屋に連れ込む理由にしようと思ったのだ。
「トムでも苦手なものがあるんだね。いいよ付き合う。」
苦手なものと真正面から付き合うのは感情的になったりして大変なのだ。まあ大抵のことは元妻よりも苦手じゃないからある程度コントロールできているはずだ。
☆
「あれが那須・・・。」
生徒たちと思しきダンスが終わり、インストラクターたちのダンスが始まる。その前の生徒たちからすると物凄く上手に見えるがそれだけだ。特に光るものは感じられなかった。
それらに混じって那須くんが舞台に上がる。野球選手には見えないしなやかな踊りだ。舞台では彼との密会が週刊誌に載った荻雪絵と子供も全く同じ振り付けで踊っており、一糸乱れぬシンクロぶりだ。
そこかしこで溜め息が零れている。
「野球選手ってのは長く持っても40歳が限界なんだ。彼は将来を見越してイロイロ考えている。まだ高校を卒業したばかりなんだぞ。」
「なんか親戚の子供のことのように言うんだね。」
また言われた。今度は親戚の小父さんかよ。
「他の野球選手が何も考えていないからそう思うのかもしれないがな。」
今、懸命にやっている新人選手はいい。だが中堅どころやベテラン勢が自分の花道を飾ることばかりでそれから先のことを全く考えていないことにイラつくのかもしれない。
「違うよ。トムって友人だ対等だと言いながら、まるで子供に対する扱い方をするときがあるよ。僕にもね。」
確かに思い至る節がある。友人知人に対してそんな思いを抱くときはある。
「・・・要らないお節介だったのか?」
「違うよ。でも僕も40歳なんだよ。子供じゃなく大人として甘やかして欲しいな。」
結局甘えるんかい。
「なんだよ・・・それ。」
「時々不安になるんだ。僕はアキエちゃんと同じなのかなってね。」
「高校時代はそう思っていたかもしれない。あの頃のオマエって同情されるのが本当にイヤだったよな。でも俺は優しくしてやりたかったんだ。だから皆に対してそんな扱い方をするようになったのかもしれない。」
イヤ違うな。今思うと異世界で王族としての教育で培われたのかもしれない。国民に対して慈愛の心を持ち愛しめ・・・だったかな。
「違うよ。トムは昔から優しかったよ。・・・どうしたのトム。泣いているの。」
「ああ良い両親に恵まれたんだと思うとな。」
異世界から逃げてきたにもかかわらず、子供の教育方針は変わらずにいられた。恨みつらみが無かったなんてありえない。でもそんなことは子供に感じさせずに育ててくれたのだ。
「僕はキライだよ。最後の最後は放り出したんだもの。」
「まあそう言うなって、友人たちにも恵まれたんだよ。」
「女性って偉大だよね。」
「ああそうだな。」
あのとき由吏姉が居なかったら人生を投げ出していたかもしれない。
「僕はトムが結婚したときに捨てられたって勘違いした。でも彼女が慰めてくれたんだ。」
あの頃にはもうベッタリだったからな。俺も元妻にベッタリだったのかもしれない。その分、裏切られた衝撃が大きかったのだ。
「おいおい。彼女幾つだよ。保育園児か?」
もう12年も前の話だ。今高校生で16歳だとしても4つ。
「うん。ただひたすら、小さな手で頭を撫でてくれただけなんだけど。」




