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第2章-第10話 ついうっかり

お読み頂きましてありがとうございます。

「えっ。殺人事件ですか。それで誰が死んだんですか。・・・女・・・誰・・・わかりません。今、アメリカにおりまして帰れないですね。全ては次期家元・・・いえ石井雪絵さんにお任せします。はい。よろしくお願いします。」


 それはMotyのアメリカ公演の振り付け確認の日、振り付け師荻尚子に掛かってきた1本の電話から始った。


 日本の警視庁からだった。


「何があったんだ?」


 俺は恐る恐る聞く。振り付け師としての仕事中の彼女は鬼だった。できなければ殴る蹴るが当たり前のように飛んでくる。那須くんは大変な人間に見込まれたもんだ。


「屋敷で女性が殺されたそうなんです。警察の話では今回の発表会の打ち合わせで来ていた人だそうなんです。」


 普段はこんな風だが振り付け中の彼女は鬼だった。おそらく鬼の彼女が本当の彼女なのだろう。


「大変じゃないか。建前上帰れないのは仕方が無いな。発表会ということは那須くんも事情を聞かれるかもしれない。代わりに俺が様子を見てくるよ。」


 本当に鬼だったのだ彼女は。だから逃げ出したいのが本音だ。


「そうよね。那須くん。」


 彼女は何かを思いついたように持っていたスマートフォンで何処かへ電話を掛ける。


「雪絵・・・。うん聞いた。それで那須くんに仕切って貰って・・・代表代行を任せようと思うの。よろしく言っておいて。じゃあ発表会は頑張ってね。当日には着くと思うから。」


 那須くんが仕切るらしい。もしかして俺が言い出した所為?


「あと1時間だけ練習したら、行っていいわ。後でヴァーチャルリアリティの中で確認しますからね。那須くんに指導してもらって。大丈夫。私より随分優しく教えてくれるわ。見本を見せるだけだけど。」


 どうやらこちらの思いなど見抜かれていたようだ。更に1時間と言いながら2時間掛かりの鬼のような特訓で随分踊れるようになったので解放された。


     ☆


「お手数をおかけして申し訳ありません。」


 那須くんから連絡が入っていた。警察から事情を聞かれるので立ち会ってほしいらしい。その後、警察からも連絡があり、席を設けたということだった。


 日本に戻ってきても荻尚子の指導は止まらなかった。さらに厳しくなる一方だ。何か苛立っているようだ。そんなにも俺の出来が悪いんだろうか。ヘコむな。


「いや100点満点をあげれるよ。Ziphoneフォルクスの球団社長として君たち選手が関わりのある事件となれば、積極的に関われるほうがどれだけ安心できるか。しかも荻尚子さんとも個人的な繋がりもあるから、今回の事情聴取はこちらから同席をお願いさせて貰うべき問題だ。」


 那須くんと会うと心が休まるよな。彼が振り付け師となったら、どうなるんだろう。俺が言うことじゃ無いが染まりやすそうだから、荻尚子のようなアクの強い人間に染まって欲しく無い気もするが彼の人生だからな。親でも無い俺が口を出すことじゃ無い。


 彼のご両親は亡くなっているのだ。その事を調査報告書から知ったとき気付いたのだが、彼の母親は荻尚子ソックリだったのだ。血縁関係でもあるのかもと思い、調べさせているところだ。


「基本的に異世界とか勇者とかスキルとかの話はしないこと。君の持つスキルで知ったことは『そんな気がする』と言って曖昧なままにしておくんだ。向こうが勝手に調べてくれるからね。」


 昔読んだ小説にそんな口調の探偵が居た。よほど警察から信頼されていたのか。それに沿って警察が裏付けを取ってくれるストーリーだった。


     ☆


「警視庁捜査1課の新田と申します。」


 本庁の捜査1課が動いたのはここが千葉県だからだろう。警察は縄張り意識が強いのか千葉県警の人間も同行していた。


「Ziphoneフォルクス球団社長の山田と選手の那須です。」


 まずは自己紹介からだ。横柄な態度もいけないが卑屈でもいけない。面倒な相手だ。


「我々はなにぶん部外者なものですから上手く説明出来ない部分もあろうかと思いますがご了解頂きたい。まずは殺人事件が起きたということしか知らない我々のために概要だけでも教えてくださいませんか。」


 続けてこちらから釘を刺す。事前にある程度調査済みだがそんなことはおくびにもださない。向こうが話を聞きたいのだ。そこまで下手に出る必要はない。


「それはもちろんこちらもわかっています。それでは被害者から説明させて頂きます。千原チズ34歳。愛知県春日井市出身で現在愛知県名古屋市でチズチアーズというダンスチームを主宰しており、愛知県全域のカルチャーセンターで子供たち向けにチアダンスを教える傍ら地元プロバスケットチームのチアガールとして活躍しております。」


 これだけ聞くと凄いマルチな才能だと思うが、ここまでしてもまだ他にアルバイトしないと喰っていけないというから大変だ。


「荻ダンススクールとの関連性は以前タップダンサーの勇大氏とダンスパフォーマンスチームを結成しており、その関連で今回の20周年記念発表会のゲストとして呼ばれていたそうです。今回、発表会の打ち合わせに荻ダンススクールの本部に訪れ、被害にあったようです。」


 それに引き替え、荻ダンススクールは規模が大きく1回の発表会で数千万円の金が動く。各教室の生徒はもとより、アシスタントやインストラクターからも出演料を取るらしい。しかも、1回2~3分程の曲につき1人5000円というから驚きだ。


 その曲を生徒に教える際にもインストラクターは生徒から授業料を取っており、その収入でギリギリ食っていける程度になるのだそうだ。


 経費も掛かるが、規模が大きくなればなるほど出演者1人当たりの経費が低下するため、荻ダンススクールでは屋敷を持ち社員も数人養えるほど収入があるということだった。


「僕があの屋敷にお邪魔するようになって日が浅いためかもしれませんが見たことも聞いたことも無い人です。」


「そうでしょうな。関係者に聞いたときも前々回の10周年記念発表会でゲストとしてダンスを見ただけという人間が多かったですな。」


「そんな人がどうして。」


「それが我々にもわからなくてですな。こうして話をお伺いに来ているわけでして。」


 発見者は屋敷の近くの商店街に建ったマンションに住む女性だそうで、その夜実家に用事があって小雨の中、屋敷の前の道を東から西に向かって歩いていたらしい。


 屋敷の前を通りかかると中から重厚な屋敷に似つかわしくない重低音の洋楽が聞こえてきたらしい。


 発見者の女性はここにダンススクールの本部があり、さまざまな年齢の人間がスポーツバッグを片手に出入りしていることを知っていたので別段どうとも思わなかったらしい。


 そのまま通り過ぎようとしたところ、突然音楽が止み、近くのくぐり戸から黒い人影がよろめき出てきて、思わず小さな悲鳴をあげてしまった。


 『誰か。助けて救急車を呼んで!』とその人影が叫ぶとその場に倒れ込んでしまったそうだ。


 恐る恐る近付くと黒いTシャツを着た長いつけまつげの女が化粧が剥がれ落ちてマダラ模様になった顔をこちらに向けて、すがりつくように手を伸ばしていたらしい。


 その発見者の女性は全力で悲鳴をあげ、近所の男性が駆けつけたときにはもう女は死んでいて、その背中には不釣り合いな庖丁の柄が生えていた。


 このあたりは調査報告書と一致している。我々は部外者だと解っており隠す必要もなかったらしい。

拙作『帰還勇者のための第二の人生の過ごし方』の第3章の裏話となります。


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