第2章-第8話 姑息
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『お菓子屋探検隊。隊長のお菓子屋十万石です。今日のお題はこれだ!』
テレビ画面に『火曜深夜スペシャル!グアム島のスペースコロニー近くのアメリカ軍基地に異世界への入り口は実在した!!』と浮かび上がる。
「これがトムが協力したテレビ番組なの?」
俺はさつきとお義父さんと一緒に放送が始まった番組を見ているところだ。
「わしも少しだけだが出演しているぞ。」
あれを出演と言っていいのかわからないが確かに映っているはずだ。
「お父さんはともかくトムはこういう番組は好きそうじゃなかったのに。それに本当に異世界への入り口が設置してあるわけじゃ無いんでしょ。」
「何がともかくなんじゃ。我が娘ながら失礼な奴じゃのう。」
「お父さんは話がややこしくなるから黙ってて! それでどうなの?」
「まあまあ、それを言ったらつまらないだろ。番組を見ようよ。」
☆
コマーシャルを挟み、番組が始まる。コマーシャルが蓉芙グループの企業ばかりだったのは仕方がない。
『さあやってきました。グアム島。青い空。美しい海。そして上空に長く続く鎖の先には、アメリカが実験中のスペースコロニーだ。』
透き通るような青い空、浜辺は僅かだがトップレスの水着の女性が横たわり肌を小麦色に焼いている姿が映し出される。深夜枠の所為か。若い女性たちが次々と映し出される。長い長い。
アメリカ軍の兵士が見守る中、海上のアンカーがとそれに繋がる鎖が大写しにされ、上空に延びている様子が映し出される。そして画面が突然切り替わりNASAが提供しているスペースコロニーの映像が映し出された。
『隊長! 本当にこんなところに異世界への入り口があるんですかね。』
番組で副隊長を務めるフリーアナウンサーの海元浩が映し出される。
『バカだなあ。あるわけないだろう。』
『じゃあ、何をしにきたんですか!』
『決まっているだろう。グアム島といえば青い海だ。テレビ局にギャラを貰ってバカンスが楽しめる。こんな企画、僕が参加しないはずが無い!』
『酷い! 探検隊隊長としてそれは頂けない!』
『そんなことを言う君も前日海辺で日に焼けた金髪のねーちゃんに声を掛けてたじゃないか。』
『それは内緒です。嫁も見てるかもしれないんですから止めて下さい。それに今日のゲストに皆持ってかれました。』
『奴を連れてくお前さんがバカやねん。さあ登場して頂きましょう。今日のゲストはキタムーこと北村多久実くんだ。』
本当はお菓子屋十万石さんと中田のほうが仲が良いんだが、極力俺が協力していることを悟られないようにした苦渋の選択だ。
アメリカやイギリス連邦では内密で『ゲート』設置の認可が下りており、記者会見が開かれる予定になっている。初めは政府高官や軍専用と利用されるため、運輸業界への影響は最低限に抑えられるそうだ。
4年後の一部解放に向けた計画も着々と進められており、山田ホールディングスへいち早く情報を流した貨物業界からの商談が引っ切り無しに入っている。
実は鷹山一太郎首相を通して、日本とグアム島間の『ゲート』設置も申し入れたのだが政治家たちは乗り気なのだが官僚たちが話を進めてくれないのだ。
このままでは日本での設置が暗礁に乗り上げると危ぶんだ俺はアメリカやイギリス連邦での記者会見直前に一星テレビの深夜枠を使って事前に情報を流してしまおうとしているのだ。そうすれば嫌でも日本国民が情報を知ることになり、それが外圧と共に設置への推進力になると踏んでいる。
テレビ画面では北村が笑顔で登場している。俺が頼むと2つ返事で了承してくれたが、内容は教えていない。お菓子屋探検隊メンバーの中で知っているのは、お菓子屋十万石さんとこれから登場する人物の2人だけである。
『そして民族性を撮る映画では右に出る監督は居ないと言われている世界的に有名な映画監督。スギヤマ監督です。よろしくお願いします。』
スギヤマ監督とは良く仕事を行っているがあくまでスポンサーとしての立ち位置で、現場で顔を合わすようにしており、裏で繋がっていることは誰にもバレていないはずだ。
そのスギヤマ監督がハンディカメラを持って登場する。こちらも笑顔だ。やや悪巧みっぽい顔をしているのは戴けない。本人は演技が出来ないようだ。
自己紹介と笑いを取るトークがあり、放映時間の3分の1が経過してコマーシャルが映し出された。
そして問題の『ゲート』が設置されている建物の前に舞台が移る。
それはグアム国際空港の端にあり、ここにある『ゲート』を通ってワシントン・ダレス国際空港の端に空間連結の魔法で繋がっている場所である。反対方向にはロンドン・シティ空港と繋がっている『ゲート』も設置済みだが、こちらは厳重な警備体制を執っている。
もちろん、この場所も普段は厳重な警備が敷かれているが、テレビ番組的「やらせ」で僅かに兵士が周回する程度に抑えているのだ。
珍しく次週に続く・・・申し訳ない。
来週もよろしくお願いします。




