第1章-第4話 かわいいおねがい
すみません。遅くなりました。
「ちょっと待ってください。もう投票終わったんですよね。何故、オールスター出場名簿に俺が入っているんですか?」
完全試合を達成したのがファン投票の最終週だったため、投手部門でギリギリ落選したというのにオールスター出場名簿に俺の名前が載っていたのだ。
監督推薦だと思った俺は抗議に来たのだ。
「監督推薦なんてものは存在しないんだ。その代わり、選手投票というものがあるんだよ。」
「そうなのか。それに選ばれたのか?」
選手が投票するならば、自分の球団の選手に投票するだろうけど、今年1年を振り返っても本拠地変更や契約更改の引き締めなど、余り好かれるようなことはしていない。完全試合のときの特別ボーナスが効果を発揮してしまったのだろうか。
「いいや。違うよ。志正くんがファン投票でも選手投票でも二重に選ばれてね。空いた枠にコミッショナー采配で社長が選ばれたんだ。」
志正くんね。注目のルーキーで我が球団の目玉でもあり、ファン投票でも投票開始1週間目にしてほぼ出場は確定だったはずなのだ。
彼は異世界から持ち帰ったものを現金化した。選手との付き合いに必要だというところまで聞いていたがオールスターの選手投票が目的だったんだ。まあ確かに俺が完全試合を達成したときは何か焦っていたもんな。賄賂代わりに食事でもご馳走したのかもしれない。
「普通はもっと将来性とかで選ぶんじゃないのか?」
コミッショナーの悪印象を払拭できたには球団経営としては良かったが、忙しさは倍増してしまった。
大統領にしてもコミッショナーにしても俺は単なる経営者だと言いたいのだ。忙しさにかまけて何かが疎かになっている気がしてならない。
「違う。集客力だな。今年はハラッキヨが出ないから、注目を集める目玉が無いと思われていた。ところが社長の完全試合だ。これを使わない手は無い。社長も経営者だからわかるだろう。」
またハラッキヨの所為か。祟るな全く。
金銭トレードは既に発表され、オールスター時点では所属として向こうの球団だ。読々シャイニーズは別リーグとなるため、ハラッキヨへのファン投票は無効票となってしまうらしい。
「あとこの日米野球ってなんだ。オリンピック開催を控えているのならわかるが再来年だろう?」
「あれっ。伝わってないのか。開幕すぐだったかな。CEOが千葉Ziphoneスタジアムで日本選抜チームで2連戦とZiphoneフォルクスチームで1戦。アメリカでも3戦するとか。コミッショナーには通してあるそうだぞ。」
ああ俺が怒っている振りをしているからか、最近大人しい。言い出せなかったんだな。
「まあそれはいい。だが選抜予定メンバーの名前に俺が入っているんだ? もしかしてCEOのゴリ推しなのか。」
幾ら何でもお義父さんのゴリ推しでもそこまで決められないだろう。またコミッショナーなのだろうか。
「ああそれはアメリカ側の要望で、なんでも日米野球自体がアメリカ大統領のゴリ推しで決まったとか言っていたぞ。」
「あのクソ親父たち。」
「タチ?」
「ああ先日までサミットで大統領が来日していたのは知っているだろう?」
「そうだな。サミットの後、2日程日本に留まっていたとか。」
「宇宙・・・宇宙開発について協議ついでに接待していたんだよ。そんなこと一言も言っていなかったぞ。」
危ない宇宙船の話をしてしまうところだった。なるべく早くあの宇宙船を回収しないと拙い。そのためにはスペースコロニーから発着できるタイプの小型宇宙船が必要だよな。
「どうしたんですか社長らしくも無い。まあ社長でもキレることがあるんですね。」
そうでも無いんだがな。
「ああすまん。大統領に無理難題を言われて大変なんだよ。」




