第1章-第2話 あめりかんじょーく
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「トム。驚かないんだな。」
「いやだなジョン。これは何のジョークだい。渚佑子と組んでまで俺を罠に掛けるなんて酷すぎる。君が引退するのなんて何年も先のことじゃないか。宇宙開発の先鞭をつけた偉大な大統領として歴史に名前を残すはずだ。」
歴代のアメリカ大統領の中には、現役時代平穏無事に過ごしてしまい歴史に名前を残せなかったような人物が引退後、UFOを見たとか異星人に会ったとか言い出すことがあるのだ。まあ名前が残る先が地元新聞社やネット百科事典だとしても悪あがきをしてしまうらしい。
「何のことだい。本物だって。」
大統領が本物だと強調すればするほど、嘘臭く聞こえてしまうのは彼がアメリカ人でジョークを飛ばすのが好きだと皆が知っているからだろう。
本物の映像だということは指環の『鑑』を通してみているから解っている。
それに渚佑子の不満そうな顔が何もかも物語っている。あとでフォローが大変だ。
女神からチバラギ国と日本国が滅ぶかもしれないと警告を受けたことを思い出す。
あのときは将来戦争が始まる可能性を考えたが、良く考えてみると隣国から核ミサイルが降り注いだとしても、日本は消滅するはずがないのだ。せいぜい日本の国土が僅かに消えるだけでそれがチバラギ国と一蓮托生に滅ぶことなんてありえない。
だが相手が宇宙人ならどうだ。星間宇宙船を製造できる科学技術レベルを持つ彼らならば、文字通り地球を消滅させることもできるかもしれない。
そんなことをこの場で言ってどうするというのだ。世界をパニックに陥れるのか。それは愚者のやることだ。とにかくこの場はアメリカ大統領のジョークということで収めてしまうのが得策だ。
☆
「ジョン。どういうつもりだ。」
サミットが終わり、各国首脳が帰っていったがアメリカ大統領だけは、松阪市にある遊郭跡地に来ている。ここで俺が接待することになっていたからだ。松阪肉のすき焼きが超有名な『牛金』というお店から派遣されてきた女中さんが焼き上げている。
初めは松阪肉だけをこの店から買う予定だったが、店で出す吟味につぐ吟味を行なった100グラム5000円以上もする本物の松阪肉は出せないらしい。焼き方次第では不味くも硬くもなってしまうかららしい。そこでお店で調理を担当する女中を阿坂家の遊郭に出張して頂いたのだ。
アメリカ大統領に供するものとはいえ、一体幾ら掛かったんだか。
隣にはファーストレディと娘さんが遊女のコスプレ姿ですき焼きが仕上がるのを今か今かと待ち受けている。
松阪は田舎で男尊女卑が色濃く残っており、調理できた松阪肉のすき焼きはアメリカ大統領、俺、ファーストレディ、鈴江の順に取り分けられていく。
俺の声の掛けるタイミングが悪かったのか。ジョンに取り分けられた松阪肉を娘さんが取って行ってしまった。そんな泣きそうな顔をしなくても、満腹になるまで食べられるから大丈夫だよ。
「そのセリフはこっちが言いたいよ。トム。」
その視線は俺に取り分けられた松阪肉に向っているが無視して口に放り込む。トロけるとはこのことを言うのだろう。殆ど噛むところが無いほど柔らかい。
「とても美味しいです。」
女中さんにお礼を言っておく。どんなにお金が掛かっていても、この女性が失敗すれば全てが台無しになってしまうのだ。ニッコリと微笑んでくれる。
お肉が一巡すると玉葱や豆腐、白滝などの具材が投入されるとそれらも順々に各人の皿に配られていく。そしてまたお肉が投入される。
「あんなところで見せる映像じゃないだろう。事前に打ち合わせしておくべきだった。」
「あっ・・・また取られた。事前とはどういうことだ。」
またタイミングが悪かったのか少し目を離した隙にファーストレディに取られてしまう。
はいはい。追加注文だね。解っているとも。
「攻めてくる可能性もあるということさ。うん美味い。どうした食べないのか?」
ジョンの箸が止まってしまう。またその隙を狙って、ファーストレディと娘さんの箸が動く。箸使いが上手いな。ジョンがモタモタしている分、余計に上手く見えてしまうのかもしれないけど。
「何故!」
何度かジョンの前と俺の前に松阪肉が置かれた。意外とスルスルと入っていったが流石に満腹だ。
「以前、この世界の女神に会ったときに告げられていたんだ。ご馳走様でした。」
そう俺が告げると女中さんは笑顔を残して帰っていった。
「えっ。えええっ。・・・あっ・・・肉食って無い。」
驚いた声を上げたと思ったら、そちらの問題かよ。
久しぶりの松阪肉ネタでした(笑)
『牛○』の肉鍋は、白葱じゃなく玉葱を使うのが本当なんです。
記述間違いではありません。でもそんなミニ知識要らないよね。
いつもの新作告知です。
「暴君ネロはオリンピックに出たいんです ~ドーピング検査が陽性になったので古代ギリシャを滅ぼすことにしました~」が連載開始しました。
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人生を奪われた男が紀元48年に転生しオリンピック出場を果たす物語です。
時期的にピッタリな話題になっていると嬉しいな。
よろしくお願いします。




