第1章-第1話 確認済み飛行物体
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先進国首脳会議が日本で開催され、首脳宣言が採択された後にアメリカ大統領の下に向った。
用件はアメリカと共同開発していたスペースコロニーの売り込みと聞いていた。
開催地の三重県志摩市のホテルには、テレビでよく見る日本の首相やフランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、カナダの首脳たちが集まっており、それぞれと握手をしていく。
実は日本の首相以外は顔見知りだ。アメリカ・イギリスを通じて防弾スーツの売り込みに伺ったときに正体を明かして挨拶している。防弾スーツは万が一流出するとテロに利用されかねないため、紛失時には各国の秘密警察と同様の権限を持つ超法規的条件が付け加えられているのだ。
「ファンなんだよ。サインを頂けないだろうか。『消える魔球で完全試合』と書いて欲しい。」
鷹山一太郎首相がセパ統一球と色紙をおずおずと出してきた。プロ野球選手としてのサインが欲しいらしい。
ボールへのサインは試合開始前のファンサービスとして、毎試合10球程書いているから手馴れたものだが、色紙へのサインはそれほど機会は無い。精々テレビに出演したときに共演者からお願いされるくらいである。
もちろん球場で販売されているサイン色紙のレプリカは大量に販売されているが、オリジナルのサイン色紙は希少価値が高いかもしれない。
「はい。これでよろしいですか?」
鷹山首相の言う通り、サインボールとサイン色紙を書きあげて渡した。とても嬉しそうだ。本当に俺のファンらしい。最近はペンネームや本名からサインを作り上げる業者もあるらしいが、俺のサインは高校時代にMotyとしてデビューする際に自分で作り上げたものでプロ野球選手としては肩書きがMotyからZiphoneフォルクスに替わっただけのものになっている。
周囲の見回すと各国首脳から生温かい視線が送られてきている。皆、俺の空間魔術師としての能力を知っているので消える魔球が本当に消えていることもバレているはずなのだ。
ここからは山田ホールディングス社長としての実業家の顔に変える。
そういっても積極的な売り込みは行なわない。水面下ではアメリカ、イギリス、ドイツ、カナダの順で約10万人の人々が生活できる規模のスペースコロニーが各国の予算が通り次第、赤道直下の国々の協力の下、開発が進められることになっているのだ。
今日のところはグアムで開発中のスペースコロニーの映像を交えて説明するに留まる。現在、計画の3分の1の大きさまで開発が進んでおり、来年中には開発が完了する予定であり、NASAやアメリカ軍の協力の下、実際にスペースコロニー内で自給自足が可能かどうかの段階に進む予定だ。
全ての開発が完了するのが早くて3年先で各国で民間人も交えた生活できるスペースコロニーの1号機の開発が完了するのが5年後を予定している。
☆
次にアメリカ大統領自らがプレゼンターとして、映像を見せてくれるらしい。席を辞するつもりだったが引き止められた。俺の意見も聞きたいらしい。
円卓会議机の椅子を勧められたが流石にそれはお断りし、オブザーバーとしての別の席で映像を拝見することとなった。
映像の内容は月探査21計画に基き撮影されたものであった。
「まさか・・・未確認飛行物体?」
映像は月探査機が月に到着するところから始まり、数台の月面探査車を排出。月面のある一点に向かって出発。時折見える地球との位置関係からすると月面の裏側にあたるところだった。
「始めは火星探査機が地球を出発する際の映像の一部に月面のクレーターと思えない大きな円形の物体が映り込んでいたことに由来し月探査21計画として21世紀に初の月探査機計画が持ち上がったらしい。」
明らかに月に遺棄されたと思しき円盤型の物体が映り込んでいた。月面探査車がその中央部に迫っていく。そこで映像が止まる。明らかに何らかの文字が大きく映し出されていた。
「トム。何が言いたいかわかるかね。映像解析の結果、地球上の人類が書いた文字ではありえないという結論が出ているよ。」
俺の異世界人としての知識でなんとか解読してほしいということだろう。
だが大統領と同じ結論が出る。異世界と言ってもパラレルワールド。地球上のあらゆる言語とどこかしらに共通点が存在するのだ。
これは渚佑子の『知識』スキル若しくは『翻訳』スキルに頼るしか無い件のようだ。スマートフォンで渚佑子を呼び出すと文字通り『転移』魔法で部屋に現われた。
慣れていない鷹山首相はギョっとした顔をしたが、その他の国々の官邸には『転移』用の専用スペースを設けて貰っている。鷹山首相にも俺と渚佑子の正体を明かした。
「じゃあ、消える魔球は・・・。」
おそらく俺のファンが1人減ったな。まあいいけど。
「銀河連邦第36方面軍地球探査機122号機とあります。」
渚佑子に映像を見せるとスラスラと解読してくれた。




