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第9章-第85話 ふぁん

お読み頂きましてありがとうございます。

「なんじゃ。そんなことを心配しておったのか。」


 急遽、押さえたチルトンホテルで祝勝会を開いたところ、どこで聞きつけたのか。お義父さんたちが駆けつけてくださった。できる限り出費を減らそうと試合終了2時間後の8時30分という時刻から球団内部の人間にしか連絡しなかったのに宴会場の定員の9割以上の参加者が集まっている。みんな暇だったらしい。


 俺が今後の出費について話すとそんな答えがお義父さんから返ってきた。


「完全試合でもリリーフを送っても1勝には変わりは無いじゃないですか。同じ1勝なら出費が少ないほうが絶対にいいですよね。」


 1勝は1勝にしかならない。翌日試合の無い月曜日だったから良かったものの翌日の試合は絶対に負けるというジンクスまであってそれ以上、チームに貢献できないのだ。


「選手のモチベーションを上げたり、完全試合を達成した投手が居るだけで観客が増えるかもしれないだろ。」


 完全試合なんてプロ野球ファン以外にはとってどうでもいいことだ。新しいプロ野球ファンが生まれるとは到底思えない。今まで球場に来てくださらなかったプロ野球ファンが僅かに球場へ行ってみようかなという気になってくれるくらいだろう。


「今期限りですけどね。」


 その僅かでも今後10年間に渡って伸び続けるというならまだしも、来年には居なくなるのでは話にならない。


「Ziphoneグループとしては『完全試合ありがとう』セールで売上はあがるから、宣伝広告費を余分に回せる・・・なんじゃ不満なのか。」


 それはあるだろうと思っている。思っているけど、それでは本当の意味で採算性が取れる球団とは言えない。


「親父。損失を出したからと自助努力以外で補填されたら経営者としての資質の問題だと悩んでいるんだよ。トムは。」


 それまで黙って俺の顔を見ていた賢次さんが俺の胸の内を読んだかのようにズバリとついてくる。


「プロ野球球団としては他に収入源が無いので致し方ないと解っているのですけどね。もし次に機会があれば絶対にリリーフを送るつもりです。」


「「それはダメだ!」」


 2人してダメ出しされた。どっちの味方なんだか。


「麻生くんからも言ってやってくれよ。もう2度とあんな緊張感の中でバッテリーを組みたく無いだろ。」


 隣でニコニコと聞いていた麻生くんに同意を求める。


「・・・ええ、社長とは絶対嫌ですね。この人ったら、あと4人という8回に超スローカーブのストライクボールを2球も続けて投げたんですよ。こっちの心臓が持たない。」


 ああ尻餅をついていたのはその所為だったのか。


「心臓が持たないとか言って9回は全球『消える魔球』じゃあ。リードを放棄しているとしか思えないぞ。」


 結果、決め球以外は全て首を振ることになってしまった。


「ええ代わって貰えるなら代わって欲しかったですよ。」


 そこまで言うか。酷い扱いだ。四面楚歌とはこういうことを言うらしい。


     ☆


「あれっ。中田。どうして居るんだ?」


 球団内部の人間しか居ないはずの宴会場で中田雅美を見つけた。


「先輩酷いですよ。お祝い事なら呼んでくださいよ。」


「すまん。球団内部の人間だけのつもりだったんだ。まさかMotyのみんなが来るのか?」


 幾ら身内だからと言って芸能人を呼ぶランクの宴会場に設定にして無い。紹介するための舞台設定さえしてないのだ。経費削減し(ケチり)過ぎたかもしれないな。


「もちろんですよ。抜け駆けなんかしたら、どんな目に遭うか。ジェイ以外は皆、駆けつけてくるそうです。」


 千代子さんに入口で中に入る客と記帳だけの客の選別をして貰っている。祝い金だけ持ってくるような奇特な客もいるらしい。この金は俺個人宛てだから球団の経営には使えないんだよな。


 まるで球団の金を使って私腹を肥やしているようだ。


「今日は最後まで球場で見ていたのか?」


 中田は今日のハーフタイムで1曲歌ってくれたから、来ていたのは知っていた。球団として招待客向けに確保していた座席で見ているとは思っていたのだ。


「もちろんですよ。記念すべき先輩の初先発で歌えただけでもラッキーだったのに完全試合だなんて。千吾なんてブーブー言っていましたよ。」


 俺にも言われそうだ。宥めるのが大変だぞ。これは。


「千代子。すまないな。こんな個人的な用事まで使ってしまって。」


 適当に食べ物を見繕い入口に届ける。球団社長としての秘書は別にいるが俺の交際範囲が広すぎて把握しきれないので、千代子さんにお願いしたのだ。


「あっ。社長すみません。ありがとうございます。」


「しかし、凄い人だな。これが全部、俺の客なのか?」


 エントランス付近一帯は人で埋め尽くされていた。


「違いますよ。Motyのファンらしき女性たちによって、ホテルの外まで長蛇の列が出来ています。各ファンクラブを通して、野球ファンを優先的に通すように指導しています。ファンクラブのトップによれば北村さんがラジオ番組でホテルの名前を言ったそうで、警備員を増員して対応しているところです。」


 これはホテルにも迷惑を掛けまくりだな。後で謝ってこなきゃ。


「混乱を治めるためにチケット購入者限定で握手会でもしましょうか?」


 後ろからついてきた中田が妙案を出してくれる。


「コンサートの企画なんて無かったはずだぞ。」


 シャニーズ芸能事務所で企画して貰っているがスケジュールが合わず長期日程は組めて無いのが実情だ。


「違いますよ。もちろん野球観戦チケットです。新たに野球ファンを獲得するチャンスですよ。多分、皆も賛成してくれると思います。社長の登板予定日の外野席とか余って無いですか?」


「次は平日だったから余っていると思うが、野球に全く興味無さそうなMotyの女性ファンたちに野球観戦チケットを売りつけてもいいのかなあ。」


「大丈夫ですって。野球が嫌いな人間は初めからここに来てないですよ。」


 1時間後から急遽握手会を開催することになった。中田によるとそれまでには北村も含め、メンバー全員が集まってくるそうだ。ジェイを呼ばなかったことをグチグチ言われそうだが、それぞれ個人的な好意に甘えてやることだから、当人が目の前にいないにでは話にならない。


「社長。本当にテレビ局の出演を断って良かったんですか?」


 千代子さんによると当日の夜のスポーツ番組や報道番組から出演依頼があったそうだが全て断っている。


「もちろんだ。1年限りの縛りがある俺では将来、監督やコーチ、野球解説者になる予定も無いしな。まずは選手たちに礼を尽くして、モチベーションを上げてやる方が優先に決まっているだろう。」


「えっ。スポーツ番組や報道番組の出演を断っているんですか?」


「まさか中田。何か請け負ってきたんじゃ無いだろうな。俺はMotyのメンバーとしてテレビに出演するのはやぶさかじゃないが、プロ野球選手としての俺は出演するつもりは無いぞ。」


「拙い。拙かったんだ。ごめんなさい。Motyとしての依頼だったんですけど、懇意にして貰っているプロデューサーから明日昼のワイドショーなんです。絶対に完全試合のことを聞かれますよね。断ってきます。」


「ちょっと待て。どのくらい力を持っているプロデューサーなんだ? 中田1人、仕事が減るだけならいいが他のメンバーに影響が出るのは困るぞ。」


「そうですね。テレビ局内には影響力は少ないですが、有名なエグゼクティブプロデューサーでメンバーが出演した映画とかに関わっています。」


 なるほど聞いてはいたがテレビ局ってヤツはえげつないな。視聴率を取るためにはどんな手段でも取りやがる。スポーツ番組への出演を断っていると聞いて独占出来れば、高視聴率を取れると目論んだのだろう。ここまで搦め手を使われると対処のしようがないな。


「仕方が無いな。今回だけだぞ。」


 単なるインタビューで済めば・・・良いが。

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