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第9章-第83話 あなうめ

お読み頂きましてありがとうございます。

「やっぱり先発か。」


 原清の謹慎理由を聞きにきた監督から3日後の先発を言い渡された。予想通りだ。


「ハラッキヨの件はアイツがそこまでやったんなら仕方が無い。那須くんの二刀流の件も了解した。だが圧倒的に先発陣が足らないんだ。穴を埋める意味でも社長に回って貰うしか選択肢は無い。まあバカスカ打たれて先発陣の気持ちも解ってやれや。」


 打たれること前提かよ。


 だが誤魔化す意味でも全力で投げる必要のある消える魔球は2ストライクを取ってからだよな。それまで体力を温存できるピッチングを行なう必要がある。


「ところでスイッチを使ってもいいか?」


 実は自分は右投げなのか左投げなのか分からずに両方共、同じように練習してきている。右投げの球のほうが速いので右投げで登録してあるのだ。


「・・・・・・・・。」


 監督はポカンと俺の顔を見ている。


「何か変なことを言ったか? ちなみに左は時速155キロしか出ないがな。」


「それだけ出れば十分だ。そういうことは早く言ってくれ。」


「俺の練習風景なんぞ。1度も見にも来なかったくせに。」


「仕方が無いだろ。夜中の3時とかに練習するヤツがどうかしているんだ。」


 キャンプ中はできるかぎり、他の新人選手と同じように練習していたがどうしても時間が足りなくなって、投球練習は主に夜中に行なっていたのだ。


「まあ通常業務を終らせた後だったからな。」


 キャンプ以外では制球力を付けるためのヴァーチャルリアリティ空間でのイメージトレーニングが主だったから見れる訳も無いけど。


「わかったわかった。なんでもやってくれ。あれほど目立ちたくないとか言っていて。これかよ。」


 お手上げと言わんばかりに空を見上げる。大げさだなあ。


「何か言ったか。スイッチピッチャーなんて珍しくないだろ。偶に居るじゃないか。」


「野球漫画くらいにしか居ないんだ。日本の公式戦では初めてじゃないかな。」


 そうか結構見たと思ったのは野球知識を埋めるために読んだ漫画の所為か。


「じゃあ・・・拙いか。目立ちたくないし、止めておくか。」


「社長! 見たいから投げてくれ。お願いだよ。そこまで出しておいて引っ込めるなんて酷いぞ。」


 監督に懇願されてしまった。何故だ。


     ☆


「高城。すまんがスローカーブを教えてくれないか。どうやってもションベンカーブになってしまうんだ。」


 左の球種はストレートとスライダーしか投げられない。付け焼刃でもいいからストライクを取りやすいカーブをヴァーチャルリアリティ空間で1000球程度投げ込んでみたが僅かに曲がる程度で殆どスローボールだった。


「あれっ。社長ってカーブ投げれましたよね。」


「右投げはな。左投げでカーブが投げられないんだ。高城は左投げだから丁度いいと思ったんだが拙かったか?」


「・・・・・・・。」


 どいつもこいつも何故呆れた顔で俺を見やがるんだ。スイッチピッチャーは珍しいかもしれないがプロ野球選手なら出来ないことは無いだろう。


「そんなに珍しいのか。高城も投げようと思えば右でも投げられるだろう?」


「ええ。高校時代は右投げでしたから。大学に入ってから左投げに転向した所為でスカウトして頂いたんですが、プロ野球の公式戦で左右両投げにしようなんて考えたことも無かったです。面白いかもしれませんね。頑張ってください。」


 このときの話で興味を持った高城選手が翌シーズンから左右両投げ投手に転向して球団トップ年俸の選手へと成長していくとは誰が思っただろうか。


     ☆


「社長はルールがイマイチ解っていないようなので言っておきますが1人の打者に対しては途中で変えられませんからね。グロープを必ず反対の手につけて投球する手を示さなければならないそうです。」


 登板前日に麻生くんとサインの確認を行なっているとそんなことを言われた。確かにルールは付け焼刃だからな。主に野球漫画で習得した。


「不思議なんだが。過去に1度も左右両投げの投手が公式戦で投げたことが無いのに、そんな事細かくルールが決まっているんだろうな。」


 普通ならそういった対戦実績があってルールが作られていくものだろうに、左右両投げの投手に一方的に不利なルールだけ既定されている。左右両投げの投手なんて出るなと言わんばかりだ。


「野球規則は基本的に人を惑わす行為に対して厳しいですね。」


「なるほど、そういう面なのか。でもピッチャーなんてバッターを惑わせるのが仕事じゃないのか? スピードボールの後にスローボールを投げたり、内角のボールを投げてバッターを仰け反らせて、外角でストライクを取るわけだろ。」


「まあ特殊なことができる人間が一方的に有利になるのが許せないみたいですね。やろうと思えば誰でもできることが原則ですね。」


 なるほど、そのうち魔法を使える人間は魔法を使ってはダメというルールが盛り込まれるのかもしれない。まあ、そのときは俺も球界に居ないからどうでも良いけど。


「本当に1順目は1打席毎に相手が右打者か左打者か関係なく右投げと左投げを変えていくんですか?」


 1番は右投げ、2番は左投げと交互に投げる手を変える。右打者には右投げ、左打者には左投げでは肩に掛かる負担が偏ってしまう。できるかぎり両方の肩を均一に使っていくのが望ましいと思ったのだ。でもそんな年寄りくさいことは言えない。本当に年寄りだけど。


「ネクストバッターボックスでタイミングを合わされていることが無くなるだろ。それに心の準備が全て無駄になる。まあ麻生くんがランダムで決めてくれてもいいし、データから明らかに苦手としていることが解っている打者の場合は指示してくれても構わない。」


 データ野球の司令塔はキャッチャーの仕事だ。各打者のデータまで頭に入らない。


「それで2順目は1順目と反対で投げるんですか。性格悪いっすね。」


「まあそれもある程度ランダム性を持たせてくれ。偏り過ぎるのは困る。」


 とりあえず最後の一言は無視する。


「それで決め球は『消える魔球』を使うんですね。」


 だが相手もそれが解っているから1球目、2球目が勝負だろう。できるかぎり惑わすのが得策だ。


「もちろんだ。監督からは幾ら打たれても5回までは代えないとお墨付きを貰っているから、出来るだけ惑わす作戦でいこうと思う。」


「打たれるつもりも無いくせに良く言いますね。」


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