表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
410/563

第8章-第77話 けなしてもいけない

お読み頂きましてありがとうございます。

「ねえ。那須くんを借りたいんだけどいいかな。」


 スギヤマ監督の紹介でMotyの振り付けを担当して貰っている荻尚子さんだ。


「ダンスの発表会の件か。それは構わないがあまり無理をさせんでくれよ。」


 野球規約上、一定限度の制約があるのは確かだが契約は選手個人と球団で行なっており、常時拘束している従業員とは違い、空いている時間は何をして貰っても構わない。


 本人から話は聞いているし、発表会自体はオールスターゲームの翌日の日曜日で休日なのは確かなので了承している。本人はオールスターに出られるとは思っていないみたいだが、監督は推薦枠に入れるつもりでいるようだ。


 しかし、現役で活躍している新人選手なのだ。怪我をするなんてもってのほかだ。俺も練習をして気付いたがダンスは意外とハードな上、振り付けによってはかなり無理な動きをすることもあるのだ。


「あの子凄い才能なのよ。うちのインストラクターが驚愕するほど簡単に振り付けを覚えてしまう。振り付け師の後継者として育ててみようかと思ったのよ。」


「それは構わないがコピーしか出来ないみたいだぞ。」


 『超感覚』というスキルだそうで、思った通り視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚が鋭くなるらしい。


 だが俺が知っている神から貰えるスキルがその程度の筈が無い。試しにヴァーチャルリアリティで我が軍の投手の投球フォームをあらゆる角度から見せてみたところ、完璧にコピーして見せたのだ。


 3次元的に見せると細かいところまでコピーできるようだ。それをダンスに応用したらしい。


 ただし、コピーしか出来ないようで寸分違わぬ投球フォームとなるため、全く同じコースに同じスピードになるので、そのままではプロ野球では簡単に打たれてしまう。そのためにヴァーチャルリアリティの野球ゲーム制作目的でいろいろな球団の選手のいろいろな球種いろいろなスピードの映像を集めているところだ。


「あらっ。社長は彼を買っていると聞いたけどそうでもないのね。」


 もうそんな噂になっているのか。参ったな。


「那須くんは『勇者』でも特殊で異世界に僅かしか居なかった所為でその厳しさを経験していない。それがどう影響するかは未知数だ。『勇者』として厳しい局面に立ったときに『勇者』らしく立ち向かえるか。おそらく無理だろう。だから彼が希望するプロ野球選手として道を歩ませてやりたいんだ。」


「なるほど。彼に『勇者』としての道は難しそうね。甘ちゃんだから。じゃあ、彼が引退するときを見据えてゆっくりと育てることにするわ。それならいいでしょ。」


 渚佑子なんか。その甘ちゃんなところが嫌いらしくてツラく当たるんだよな。あの脳天気そうな穂波くんでさえ、異世界での経験で思うところが多いようなのだ。厳しい判断を迫られたとしても乗り越えられるだろう。


「ああ構わない。」


 プロ野球選手は引退後の道が多ければ多いほど良い。必ずしも指導者として解説者として才能が恵まれるとは限らない。プロ野球と関われずに引退後に自身を見失う選手が多いのだ。


「彼には騙しうちになってしまうんだけどMotyのバックダンサーとして使ってみない?」


「騙しうちとは穏やかじゃないな。何をする気なんだ。」


「簡単なことよ。私の代役として振り付け師として派遣した現場でバックダンサーが急遽来れなくなるわけ。」


「振り付け師として育てるんじゃなかったのか?」


「有名歌手のバックダンサー経験があるのと無いのでは天と地ほど扱いが違う業界なのよ。私も散々苦労したわ。スギヤマ監督に才能を買って貰わなければ今頃インストラクターだったでしょうね。」


「そうだな。バックダンサーの固定メンバーとして兼業は無理だし、一時だけメンバーにすると贔屓にしていると見られる。良い案かもしれないな。」


「その線で話をしてみるわ。社長はやっぱり彼を贔屓にしているのね。」


 散々貶したつもりだったがバレてしまったようだ。


     ☆


 那須くんが進めてくれた荻ダンススクールによるストレッチはなかなか評判が良い俺も参加してみたが、インストラクターの指導通りに動くだけで全身身体が温まる。


 ストレッチの後、那須くんだけは発表会の練習をするようでそれに合わせた衣装を身につけていることも注目を集めているようだ。


 だがまたしてもハラッキヨがやらかしてくれた。ストレッチの講習に乗り込んで因縁を付けていったらしい。事前に那須くんが球団が公式に要請していることにしてくれたため、撃退されたようだ。


 アイツだけで無くプロ野球、いやプロスポーツ全般に言えることだが活躍する選手や監督だけが偉いのであって、サポートして下さっている方々は添え物のように扱かわれる。


 だがプロとして観客にお金を払って見に来て頂くには周囲でサポートしてくださる方々の力が無ければできないことだ。特に露出量の多いチアガールやその指導に当たってくださる方々の力は格別多いのだがそれに見合うものを返せていないのが現状だ。


 チアガールは1試合毎の日給制で年収ベースで200万円も無いらしい。シーズンオフは別にアルバイトしないと食べていけないということだった。さらにチアガールを引退してもインストラクターをできる人間は一握りだそうだ。


 本人さえ同意すれば山田ホールディングスの従業員として受け入れるのも一種の手かと思う。そうすれば支えやすい。上手くいくといいんだが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新作】「ガチャを途中で放棄したら異世界転生できませんでした」
https://ncode.syosetu.com/n4553hc/
もよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ