第5章-第36話 ゆうえんち
お読み頂きましてありがとうございます。
「ごめんなさい。」
「もう、魔法を使わないで。せめて、この遊園地に居るあいだだけは・・・。」
今日は、千葉にある某遊園地にマイヤーと来ている。平日なので、わりと空いているみたいだ。何を怒っていたかというと、あるアトラクションが、あまりにもリアルすぎたのか。興奮したマイヤーが魔法を放って装置を破壊してしまったのだ。
ライド系のアトラクションにしておいて、よかった。これがコースター系のアトラクションだったらと、思うとゾッとする。命だけはマイヤーが守ってくれると思いたい。たとえ死ななくても・・・いや、多くの犠牲者の中で俺たちだけ無傷とかだったらどうなることか想像も付かない。
係員が配っている、次回優先的に使えるパスを申し訳なく思いながら受け取る。きっと、再開されるには数ヶ月かかるだろう。もしかすると、新しいアトラクションに差し換わっているかもしれない。
もう魔法を使わないと約束してくれたが、いつ暴走されるかわからない。
そこで、その後はショーやパレード中心に周った。しかも、ところどころで解説を入れている。
なにせ、この遊園地ではエルフなど妖精を模したキャラクターがたくさん登場する。登場したドワーフに因縁を付けに行かないとも限らない。
それでも親しくなった女性と巡る遊園地は、とても楽しい。アキエと行く遊園地も楽しかったが、それとは別の楽しさだ。
しかも、もう暴力団の影を気にしなくてもいいのだ。もう、このころになると遊園地が楽しかったせいか俺が冷酷なのか。暴力団に大量の犠牲者が出たことも気にならなくなっていた。きっと、後者なのだろう。
・・・・・・・
フィールド製薬の株は火曜日までに全て買い戻し、現金化が完了した。そして、未だ下がり続けている株を買い進めている。今日だけで総発行株式のうち5%まで買った。既に数億円の含み損が出ている。
会社の金では、できるだけ底値で買いたいから50円になったら買い付けるように設定している。おそらく、明日には買い付けできるまで下がるだろう。それ以上下がるとファンドが乗り出してくると思われる。
たとえ、時価総額が総資産金額より下がったとしても火中の栗を拾う決断をするには、数週間はかかるだろう。それまでに、すべて確保するのだ。一人で行っているからこそのフットワークだろう。本来、まだ下がり局面なので、信用売りでまだ儲けられるはずと考えている投資家が多いからこそできるのだ。
損をしたとしても20億円くらいだ。信用売りで出した利益に比べれば、たいしたことはない。
フィールド製薬には田畑会長にお願いして、異世界のポーションを新薬の研究にしてもらうつもりだ。レアのポーションは無理だったがコモンのポーションならば日本にあるものだけでなんとかなりそうだったからだ。
実際に承認がされるのは数年後だろう。だが株価が元の水準に戻った場合、数千億の含み益になる。しかもタイミング良く、田畑会長から来てくれるように依頼があった。
明日は、田畑会長の研究所と自宅がある広島へ行く。もちろんマイヤーも同行する。異世界に行く土曜日、いや金曜日には各店舗の商品を回収する必要があるから、それまでには戻ってくるつもりである。
・・・・・・・
マイヤーと自宅に戻って来た。マイヤーは遊園地が楽しかったのか、もう眠たそうだ。今夜に、もし昨日みたいな雰囲気になれば、昨日はキスまでだったが一線を越えてもいいかなと思っていたが、できなさそうだ。まあ、マイヤーはエルフの寿命からするとまだお子様なのだ。しかたがないだろう。
その可愛い寝顔を見ながら過ごすのも、悪くない。もう、やりたい盛りではないからこその余裕だ。そう、やせ我慢してみる。すこし、寂しい。
仕方なく、そのまま寝ることにした。
・・・・・・・
翌日は、朝早くから出掛ける準備をする。スーツケースも旅行かばんも必要ない。袋があれば全て間に合うのだから。
行きは広島までの直通ののぞみに乗った。マイヤーに興奮して魔法を使わないように言うのも忘れない。
途中、社内販売で浜松のうなぎ弁当が売られていたので、それを昼食にする。さすがにうなぎ程度では騒がないが、異世界でこれを売ろうと説得されてしまった。まあ、牛丼チェーンの季節商品でもあるので持ち帰る機会があるかもしれないから、なんとかなるだろう。
・・・・・・・
「すまない。本当にすまなかった。」
田畑会長が俺が誘拐された件を知ったのだという。
「いったい、どうお詫びすればいいか。わしにできることなら、なんでもいってくれ。会社も傾いた、この老いぼれができることなど、たかが知れているが・・・。」
俺はそんな田畑会長につけ込むようで、気が引けたが思い切って言ってみる。
「では、創業家が持っている株式の半分を譲ってもらえないでしょうか?」
創業家は、株式の約80%を握っていたが、このゴタゴタの最中に約20%は売り払われてしまったようだ。どうせ、あのボンボンのような人物が所有する株だったのだろう。後でインサイダー取引で検挙されなきゃいいが・・・。
「そんなことで、いいのか?ほとんど、紙くず同然だぞ。わかった、山田殿個人でいいか?」
「いえ、会社名義で譲渡をお願いします。」
会社名義でも買い始めるつもりだった。しかしスミス金属の株を売るのは躊躇われる上、資本金の増額も時間が必要だ。まさか、借金する気もなかったので、どう金策しようかと悩んでいたところだったのだ。
「ほかには?」
「この薬の成分を分析してもらえないでしょうか?強壮剤の一種だと思うのです。私がある未開発国で使われているのを発見したのです。2種類ありまして10個ずつ用意しました。これを元に新しい薬を開発してください。」
これも重要だ。会長の話ではないが紙くず同然の株式を再生させる必要があるのだ。それには画期的な新薬の開発が求められる。
「うむ、そんなものがあるのか。それはぜひ研究したい。逆にお願いしたいくらいだ。それでは山田殿の利益にはならないではないか?」
「いえ、頂いた株式に対する配当で、十分に潤いますので・・・。あとですね・・・。」
「なんだ、なんでも言ってくれないか?」
「この研究所で治療中のゴン・和義・カルタス氏に会わせてもらえないでしょうか?」
ゴン氏は俺の憧れの経営者だった。わずか数%のシェアしか無かったZiPhoneを買収し、画期的な経営で業界1位だったドッコデモに契約数で迫り、新規契約数ではいつもTOPを独走する携帯電話会社に育てあげた立志伝中の人物なのだ。
しかし、昨年被害にあった交通事故で両足を複雑骨折したことで車椅子生活を送っており、経営は続けているがプレゼンなどは副社長に任せ、表舞台から遠ざかっているのである。
「ゴンか?」
田畑会長は、ゴン氏の友人と言われており。よく仲良く経済紙に載っている。
「ええ、憧れだったのですよ。それで、何かお力になれないかと思いまして・・・。」
「おおっ、では山田殿が治療してくれるのか?」
「いえ、私の兄弟子に当たる人物を連れてきました。彼女がそうです。彼女なら確実に治せると思うのですが・・・。」
そう言ってマイヤーを紹介する。
「よし、解かった。ちょうど、今治療中だ。早速行こう。」
さあ、ゴン氏を治療したあとなにが・・・。




