第8章-第76話 ほめてはいけない
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「社長。何か良いことがございましたか?」
「まあな。」
自然と口元に笑みが零れていたらしい。千代子さんは良くみているよな。
「分かった。昨日の試合ですね。最後のバッターに対して三球三振。気持ちよかった。」
相馬くんは相変わらず、暢気なことを言っているよな。フランチャイズ部門の責任者の言葉とは思えない。まだ100円ショップのアルバイト時代が抜けきれていないのかな。
「大変だったんだぞ。Ziphoneで取締役会の開催中に呼び出しを食らって慌ててブルペンへ行ったんだ。終わってから取締役会に戻ったら、皆。テレビ中継で見ていたらしく拍手で出迎えられて恥ずかしい思いをしたんだからな。」
見ているほうは良かったのかもしれんが球場の社長室に居るからと言って抜け出したときに限って呼び出されるのは堪らんわ。
野球規約上、携帯電話を使った呼び出しができないから、『空間連結』魔法を使って内線電話を外に持ち出して凌いでいる。時代遅れも甚だしいんだけど。
「他に何かありました? スミス金属もフィールド製薬も順調とは聞いてますけど、昨日は特に何も
無かったと思いましたが。」
一時期は特許申請してしまったがためにオリハルコンとミスリルの成分がバレてしまい、他社に製造技術が流出しないかと後悔していたのだがスミス金属でも製品の硬さにバラつきがある対策のため調査したところ、インゴット化する際に魔力を込める必要があることがわかったのだ。
成功したときには偶然、魔力を技術者が放出していたらしく。新しく入った技術者が手順通りに行なうと失敗したらしい。従って今は最終工程にチバラギ国から人材を入れて稼動させている。
フィールド製薬は順調そのものだが田畑さんの経営者への復帰時期を模索しているところだ。コモンのポーションが製品として認可されたと同時にするつもりだ。これも早く実現させたいものだ。
「小さいことなんだが。俺を含めたZiphoneフォルクスの新人選手たちでハーフタイム中にチアリーダーたちと一緒に踊るための練習をやっただろう。」
「そうですね。選手たちはともかくチアリーダーたちの目がハートになって、見るに堪えなかったやつですね。」
「そうかな。割と好評だったんだがな。千代子さんは厳しいな。」
選手たちには不評だったが。球場に来てくださるお客様に楽しんで帰って貰うことが大切なんだと説教してしまったが、その後に穂波くんの『監督やコーチの目に止まるかもしれないだろ。』という一言がいけなかった。まあそういう考え方で協力的になってくれたのは助かったがな。
「そうですか? 社長を見る目がハートになってましたよ。」
俺かよ。
「いや。那須くんがウォーミングの時間に荻ダンススクールの講師を招いてストレッチの講習をやったらどうかと言い出してね。彼は営業的センスもあるようで、テキパキと参加者の人数に対するギャラを決めていくんだ。中々凄いぞ。」
「ああ例の那須くんですね。あまり大っぴらに彼のことを褒めないほうがいいと思いますよ。ほら千代子さんのように嫉妬する人間も居ますから。」
相馬くんが千代子さんのほうを指さす。
「相馬。変なことを言い出すなよ。俺はそんな意味で・・・言ったんじゃない。」
今、一瞬だったが千代子さんの顔が歪んでいなかったか。すぐに元に戻ったけど。
「でも噂になってますよ。幸子さんなんかアメリカから一時帰国した際に顔を見にいったそうです。何か怒ってましたけど。誰とは言いませんが他にも社長の近辺の人たちが会いに行ったとか行かないとか噂が聞こえてきています。」
「それは拙いな。彼はプロ野球選手が本業だ。将来はこちらに引っ張り込みたい思惑はあるが。彼の足を引っ張っては何にもならないな。ありがとう相馬。そういったことには本当に頼りになるな。これからは君のことを褒めて歩くことにするよ。」
それなら一時的にでも、風は相馬くんのほうに向くだろう。あとはコッソリ俺が応援してやればいいんだよな。
「ちょっ・・・。」
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