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第8章-第69話 いがいなみかた

お読み頂きましてありがとうございます。

「あの野郎。警告を無視しやがったのか。」


 賢次さんは非常に疲れ果てた様子で、言葉を吐き捨てた。非常に怒っているらしい。


 イロイロと忙しいものな。問題を持ち込むべきじゃなかったかもしれない。俺が甘え過ぎだったのだ。


「あっ無理なら、賢次さんの知り合いでも誰でも構わないから紹介してくれないかな。どうせ編曲するなら信頼のおける人物のほうが良いよね。」


「違うんだ。僕の曲は事務所を辞めるタレントの抑止力になりさえすれば良いという約束で原曲の独占使用権を認めているんだ。その権利を行使しない約束をしていたんだ。ちょっと抗議してくるから、事務所まで連れていってくれないか。」


 その場で賢次さんはスマートフォンから電話を掛けると簡単にアポイントメントを取り付けた。


 凄い。あのめったに公式の場に出てこないシャニーズ芸能事務所の会長と相当親しいようだ。


 『移動』魔法でZiphone本社ビルの役員室に戻った。そこから専用のハイヤーを使うのかと思えば、地下駐車場に置いてあるという車に乗っていくらしい。要注意だ。さつきの運転も怖かったからな。


「おまたせ。」


 役員室のロッカーに作曲家風のスタイルの洋服が置いてあったらしい。でもどちらかというとロックバンド風、それもアメリカンなタイプだ。逆立てた髪の毛と丸いサングラスが似合っている・・・のかな。


「凄い! 似合ってますよ。」


 いつものただのオッサンスタイルよりはよっぽど似合っている。


「そ・う・かな。」


 俺が誉めると少し照れくさそうに笑顔を作る。それがあまりに普段の顔と違うため、見とれてしまった。


 車はオープンカーだった。


 似合わない。自分のスーツ姿とあまりにも似合わなすぎる。


 運転はまるでハイヤーに乗っているかのような優しいものだったが、助手席に借りてきた猫のように座っているのが精一杯だった。


 事務所は六本木の一等地に建つ小さなビルだ。俺がスカウトキャラバンの後、会長と会ったときと何も変わっていない。あれから20年以上の年月が経っていて周囲のビルのほとんどが様変わりしているのにまるで時が止まったかのような佇まいだった。


「ケイ。久し振りね。いつも可愛い男の子ばっかり連れてきて、今度はどこで攫ってきたのよ。あらっ・・・どこかで・・・そうよね。貴方・・・親類がタレントか何かになっていない?」


 20年以上前に受付で応対してくれた女性がまだ受付に座っていた。可愛い男の子って俺のことだろうか。いくら何でも違うよね。本人とは思っていないらしい。


「前に来たときに出して戴いた手造りのガトーショコラはとても美味しかったです。慶子さん。」


 由吏姉と別れなければ、契約しないと告げられたときは悔しかったがそれが事務所の方針ならば仕方がないと諦めたのだ。それまで事務所のスタッフの方々には良くして戴いたから諦められた。


 それに他の皆にはそのままデビューして欲しかったので彼らを10年以上は使い続けてくれるという条件で俺の方から断ったことにして貰ったのだ。


「えっ本人なの? スーツなんか着てるということはあのまま業界に入らなかったというの!」


 20年以上も前のことが昨日のように思い出される。青春時代の1コマだ。


「ケイ。賢次さんの妹であるさつきと結婚して義理の弟になってます。訳あって最近業界入りしたばかりの新参者です。よろしくお願いします。」


 何か紹介の仕方がおかしい気がする。本当は俺が紹介される立場じゃないかな。


「ええっ。あのZiphoneの娘婿になったラッキーボーイって貴方のことだったの。あの可愛い坊やが悪辣な買収屋? なんかイメージが合わないわ。」


 イロイロと酷い噂が流れているのは知っている。中にはお義父さんと肉体関係があるなんて言うのまであるらしいが、そんなこといちいち気にしていられない。


「そうでも無いぞ。身内にはトコトン甘いが敵には幾らでも悪辣になれる。そういう男だ。この間、親父が怒らせた時にはZiphoneが真っぷたつに割れるとハラハラしたものだ。弟の人心掌握術はハンパ無いぞ。グループの社員の半分以上は既に心酔しているからな。」


 この間、絶縁宣言をした際に義兄さんが俺につくと言ったのは本当のことだったらしい。


「それはそうよ。会長がこの子を手放すと聞いた時は耄碌したと思ったもの。この子のとりなしが無かったら、事務所の半分の人間は辞めていたわよ。」


 スタッフの幾人かに新しい事務所を設立するから所属してくれないかと頼まれたことがあった。それのことかもしれない。俺を応援してくれようとしてくれるのは嬉しかったがそれ以上に後輩たちを応援してほしいとお願いしたことがあった。


「その会長が弟の敵に回ろうとしてきたんだ。」


「なんですって! 聞き捨てならないわ。ちょっと待って。今でもこの子に何かをしてあげたいと思っている事務所の人間は多いのよ。後で応援に向かわせるわね。」


 その場で女性がSNSやメールを使ってメッセージを送っている。事務所に殴り込みに来たつもりだったのだけどなんかドンドンと事が大きくなっていっている。どうしたらいいのだろうコレは。

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