第8章-第67話 だれかのてのひらのうえ
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「申し訳ありません陛下。知っていらっしゃると思いますが1年程会いに来れなくなりそうです。」
まったく芝居がくさ過ぎると思ったらセイヤが裏で糸を引いてやがった。道理で最近日本のテレビ番組を見れるようにしてほしいなんておねだりすると思ったら、こんなことを考えてやがったのか。
とりあえず、報復としてセイヤの執務室と後宮の液晶テレビのCASカードは新品と交換してきた。これでしばらくして見れなくなるだろうし、何か言ってきても1年間は無視してやる。
気安い関係構築を好む傾向があったので友人関係を続けてきたが規律ある臣下として接してやろうと思っている。
「まあそう言わず、エトランジュのところにも顔を出してくれ。」
「ええそれはもう。これからアキエにも会ってこようと思っています。ですが陛下の執務時間が終わるころには今後の準備もあるため、ここでおいとましたいと存じます。」
俺の意図が通じたのだろう。セイヤが途端に情けない顔をする。
「何故だ。」
「さあ、今回の件で誰かが裏で糸を引いていることに気付いた。・・・なんてことはありませんのでご安心ください。でも、こんなハメられかたをするのは嫌なんですよね。そろそろ本気で絶縁を考えたほうがいいのかなぁ。なんて。只の愚痴です。聞かなかったことにしてください。では失礼します。」
俺は紋切り口調で会話を終わらせて、王宮の執務室を出て来た。少しは反省してくれるといいのだがな。本気で嫌いになっちゃうぞ。全く。
☆
「凄いね。パパがプロ野球選手なの?」
アキエに会うとあのトゲトゲしかった感覚が一気に崩れさる。癒される。
「そうかな?」
「そうだよ。私、友達に自慢できるよ。凄いねパパ。」
なんかしがらみとかハメられたこととか恥ずかしいという感情さえもどうでも良くなってきた。
「そうだ。しばらく日本のパパとママの傍に来ないか? アキエが傍にいればもっと頑張れると思うんだ。」
「アキエちゃんを連れていかれるのですか?」
隣で聞いていたエトランジュ様が自分の赤ちゃんを抱き締めながら、不安そうな顔を向けてくる。
「そうですね。実の姉弟の対面もさせてやりたいですから。」
実はまだクリスとも会わせていないのだ。いきなり年上の弟が出来ていたなんてびっくりするだろうな。クリスのことだから、アキエにベッタリになりそうだ。
もちろん、さつきの赤ちゃんにも会わせる。アキエは年下の子供を面倒を見るのが好きらしく。如何なくお姉さんぶりを発揮してくれるに違いない。
「また、あの陛下が何かヤラカしましたか?」
この夫婦も良くわからない。お会いした当初は夫婦随唱かと思ったのだが、今は完全に尻に敷いている。
「今回はエトランジュ様も2枚も3枚も噛んでいると聞きましたが。」
どうやらセイヤがもっと頻繁に俺の顔を見たいと我儘を言い出して、今回の計画案をエトランジュ様がひねり出したらしい。怖いお方だ。
あのとき、本当にエトランジュ様に手を出さなくてよかったと思う。もっとエトランジュ様にオモチャにされている未来しか描けないのだ。
「ほほほ。バレてしまいましたの。そうですわね。いい機会ですから1年毎に2つの世界を行き来させるというのは如何でしょうか。」
どうやら、俺がアキエを連れていこうというところまで織り込み済みのようだ。でもこの辺りは俺も考えていたことだ。見聞を広げるという意味でも俺が愛情をたっぷり注げるという意味でも現代日本に常に触れていてほしいと思う。
世間的にはアメリカと日本を交互に生活させていたということにすれば、問題無いに違いない。CIAが作り上げる人生の過去は精巧にできていることはフラウさんで経験済みだ。実際にそこで暮らしていたかのように友人や周辺住民まで作り上げてしまうのだ。




