第5章-第35話 かれー
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ミスドーナッツとメッツバーガーが格段に評判上がったのを気を良くした俺は、近隣のスーパーやショッピングセンターにあるミスドーナッツとメッツバーガーの居抜き店舗を2店舗ずつ契約した。あまり、多すぎても目が届かなくなるからだ。
各店舗には、腐敗しない袋を一つの棚に設置して、各店長に使い方を教えこんでおいた。各店長は不思議そうな顔をしていたが、殺菌能力のある魔法瓶みたいなものと説明しておいた。念のため、マイヤーに空間魔法を使って、スーパーやショッピングセンターから持ち出せないようにしておくようにお願いした。
「トム殿、持って出ようとするとこの広い建物の中で出口がわからなくなるようにしておきました。」
宝物庫にある重要なものにも掛かっている魔法だという。なんか申し訳ない気分になった。
これで、週末に余ったドーナッツや廃棄バーガーを別の腐敗しない袋に移し変えるだけで済むようになった。その分、他の業務に時間を割ける。
しかし、その夜、さっそく裏切り者が出た。新しく契約したメッツバーガーの店長が閉店時間を過ぎても出てこないという。俺はマイヤーを連れ、そのスーパーの警備責任者に謝り倒した。
「ときおり、センサーが働いているのでね。スーパーの中には、居るのは解っているんだが、何分広いので連絡させて頂いたんだ。」
俺はスマホで事前に聞いていた連絡先に電話するがつながらない。マイヤーに聞くとおそらく、パニック状態で歩き回っているのだという。仕方が無いので、マイヤーにこっそり、『探索』で探してもらい、直行し捕まえた。
その後、腐敗しない袋を定位置に戻し、警備員に再度謝り退出した。
・・・・・・・
今は、メッツバーガーの店長を連れ、近くのファミリーレストランで話を聞いているところだ。
「なぜ!持ち出した!俺が経営者では、不満なのか?」
「・・・・・。」
「なんだ、黙っていてはわからないぞ。それとも何か、一生迷子になって家に戻れなくても知らないぞ。」
そんな魔法にはなっていないが、それを聞いた店長は真っ青になった。
「その袋があれば、一攫千金も夢ではないじゃないか。そんなお宝が目の前にぶら下がっていて何もしないではいられなかったんだ。」
「なにか、アイデアでもあったのか?そのアイデアによっては、クビにしないでいてやるよ。」
「・・・・密輸だよ。使い方さえ、わからなければどんなものでも持込放題だろ。」
「残念だったな。その袋の有効利用には当てはまらないようだ。その袋を犯罪に使うつもりはない。ふざけんな!クビだ。クビ。備品横領につき、懲戒解雇だ。じゃ、明日総務へ資料を取りに来るんだな。」
「俺はどうなるんだよ。このまま、迷子か。」
「ああ、あれは嘘だ。しかし、次にお前が悪事を企んだら、また同じことになるようにしてある。せいぜい、真正直に生きるんだな。」
「お前たち、いったいなんだよ!」
「ああ、魔法使いだ!ほら。」
指輪を『炎』にして、指先に火を灯す。
「て、手品だろ!」
「まあ、そう思っていたいのならそう思えばいいさ!きっと、今日迷子になったのも手品だな。手品。」
そういうと、男は真っ青になって、震えだした。面倒だが、明日、新しい店長を決めて、袋の使い方を教え込んでおく必要があるな。
・・・・・・・
マイヤーのお陰で、俺に危害を加えそうな奴らは居なくなったので、自宅に戻ることにした。昼間、ショッピングセンターに行った際にマイヤーが着る服も調達してある。
「ここがトム殿のお家ですか?」
「狭いだろ。」
一戸建てだが、後宮の広さに比べるとウサギ小屋どころか、犬小屋だ。
「トム殿の臭いがする・・・。」
「かれいしゅうかな?」
「かれいしゅうってなんです?今日食べたカレーの匂いですか?」
「人間は、年を取ると共に、体臭が変わるらしいんだ。エルフはそんなことはないか?」
本当は30代・40代の体臭は別らしいのだが、一般的には、かれいしゅうと呼ばれているから問題ないだろう。凄く嫌な響きの言葉では、あるが・・・。
人間の体臭は酷くなる一方だから、同じように体臭が変わっていくなら、エルフの老人なんかは凄いことになっているんだろうな。まあ、エルフに体臭とか、ありえなさそうではあるな。
「そうですね。人間のご老人の体臭のようなものはありませんね。森に住むエルフは、どちらかというと、年齢が上がるほど、体臭は薄くなっていくようです。」
「マイヤーも体臭があるのか?あるようには、全くみえないが・・・。」
「それって私が年寄りだと言いたいのですか?」
マイヤーの目尻が釣りあがる。こ、怖い。
「ありますよ。ほら!」
マイヤーが抱きついてくる。ああ、たしかに女性特有の体臭がムンムンと・・・。マイヤーは真っ赤になりながらも離してくれない。久しぶりに嗅ぐその香りと密着する女体に、理性が効かなくなりそうだ。
さあ、この後どうなったのでしょうか?