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第8章-第66話 くさすぎる

お読み頂きましてありがとうございます。

 1時間ほどで赤ちゃんは無事産まれた。医者によるとこの程度早く生まれるほうが母子共に負担が少ないらしい。


「良く頑張った。俺の子供を産んでくれてありがとう。」


 病室に戻ってきたさつきの手を取ってお礼を言った。


「ううん。私も貴方の子供を産めて嬉しいの。でも父と縁を切ろうなんてしないで。」


 不安そうな顔のさつきだ。出産の最中、ずっと不安にさせていたのだろう。なんてことを言ってしまったんだ俺は。


「うんゴメン。あんなことを言うべきじゃなかった。」


 さつきは悪いくない。俺が悪いのだ。お義父さんの冗談を真に受けた俺が悪いのだ。


「親父。なんであんなことをしたんだ。理由に寄っては僕もトムに付いて行くよ。」


 賢次さんも駆けつけてくれた。賢次さんも番組を見ていたらしい。


「なんじゃ。いまさら。理由に関係ないじゃろ。すっかり骨抜きにされおって。」


「お父さん!」


「ああわかっとる。そんな意図は無い。初めからZiphoneグループはトムに預けるつもりじゃ。だが1年、1年でいいから、さつきの傍に居てやってくれないか?」


「まさか。お父さん。彼を日本に縛り付け続けるつもりであんなことをしたというの?」


「そうじゃ。アメリカとイギリスの了承は取った。チバラギの陛下にも了承を頂いた。もちろん他の側室たちの邪魔をしようなんて思っていない。テレビでお主の活躍を見れれば安心するじゃろ。」


 全世界どころか平行宇宙を跨いで移動するたびにさつきは暗い顔をしているからな。その心労を思ってのことなんだろうけど。


 しかしだ。まさかドラフトの1位指名に俺の名前を持ってくるなんて暴挙に出るとは思わなかったな。


 それこそZiphoneグループと縁切りする以外に断る手段が無いのだ。


 球団社長が球団に対して支配下選手として契約するなんてありえないが規約違反になるような事項が無いのだ。俺は経営者であって職員じゃないので常勤として所属している組織は存在しない。


 唯一、避ける方法がドラフト指名を受けていないということだったがそこを俺が知らない間にクリアされてしまった。球団社長が選手として活躍する。今まで散々注目を集めるため奇抜な方法を取ってきた俺の方針にマッチしているとも言う。


 球団社長がベンチ入りすれば、選手たちに緊張感を与えるに違いない。俺が口を酸っぱくして球団職員に選手たちに言ってきたことばかりだ。ここで拒絶すれば、口先ばかりだったのかと思われてしまう。


 コミッショナーからは嫌味入りの苦情を言ってくるだろう。次回の改正で球団を所有する組織の経営者は契約できない趣旨の内容が盛り込まれるかもしれないが最低限1年間はこのまま放置だ。


 そのことさえも予測して1年と限定しているのだろう。全く嵌められたというしかない。


「お父さん。」


 さつきの言葉に怒りが感じられなくなった。お義父さんが娘のためにしてくれたことだと理解したらしい。


「解りました。お受けしましょう。但し、1シーズンだけですからね。」


 何処にも逃げ場が無い。悪意も感じられないのでは如何ともしがたい。これまで、さつきに心配掛けてきたことへの埋め合わせという意味でも断れない。


「おおっ。やってくれるか。」


 しかし、誰だ。このシナリオを考え出したヤツは。絶対にお義父さんじゃないな。お義父さんが考え出したなら、もっと楽しい役回りを描くはずだ。ちょっと苦しすぎる。


「全試合は無理でも極力出ますよ。今までやってきたことを無駄にしないためにもね。」


「お父さん。こっちに来て。」


 なにか変な間があった後、さつきがお義父さんを呼ぶ。お礼を言うのかもしれないな。


「なんじゃ。」


 バチーン。


 ベッドの上からとはいえ、お義父さんが吹っ飛ぶほど、さつきが平手打ちした。


「ありがとう。でもこれっきりにしてね。それでなくてもトムは働き過ぎなのよ。」


 起き上がったお義父さんの頬にはハッキリくっきりと手形がついていた。


「そうだぞ親父。絶対に自分が傍でトムの活躍を見たいという欲望があって仕組んだだろう。困った親父だ。」


 臭いな。シナリオが臭すぎる。だんだん見えてきたぞ。このシナリオを書いた人間が誰なのか。この場はそのサル芝居に乗るしかないのがツライぞ。


「さつき! すみませんがお義父さん、お義兄さん。席を外して頂けませんか。」


 こういうときは登場人物に出ていって頂いて、さっさと終わらせるに限る。憤りを隠しながら、穏やかな声色を装い告げると素直にお義父さんと賢次さんは出て行ってくれた。


「・・・それで、このシナリオを書いたのは誰なんだ?」


「えっ。」


「俺が解らないとでも思っていたのか? お義父さんがさつきの傍に寄っていくときに少しだけ怯えが入っていたからな。」


 実際にリハーサルまでやったわけでは無いらしい。ベッドの上とはいえ、さつきが全力でお義父さんを叩けば相当痛いに違いない。指環の『鑑』がデフォルトの俺はなんとなく程度だがその人物が今どんな感情を持っているかわかるのだ。


 逆にさつきが全力でお義父さんを叩かなければ、そちらからバレただろう。


「・・・じゃあ、今までの全て解っていて・・・。」


「そうだな。選択肢が無かったからな。知らなかったみたいだから、言っておく。こういうことをされるのは嫌いだ。かなり難しい芝居だが1年だけ道化を演じてみるよ。」


 お義父さんが望んでいるのは魔法を使ってのプロ野球選手としての活躍だろう。一流のプロ野球選手を装いながら、魔法を使っていることがバレないようにしなくてはいけないらしい。

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